Jerousy〜レオニス編〜




「・・・・・っ・・・・・。」

灯りの無い寝室。ディアーナは嗚咽を殺し、ベットで泣き伏せていた。
余りにも短い夢が、終わりを継げたのだ。
今はもう、只、逃げる事も叶わず、月に映る愛しい人の面影に、恋焦がれるしかない。

コンコン

不意に、扉を叩く音がし、ディアーナはびくりと体を強張らせた。 侍女には、決して入るなと言い付かってある。それでも、訊ねてくる人物は、一人しかいなかった。

「・・・お兄様。」

案の定、鍵を開けて入ってきたのは、彼女の兄であるセイリオス・アル・サークリッド。けれど、何時ものようなくったくの無い笑顔ではなく、 恐怖の色を宿らせた瞳で、ディアーナは兄を見た。

「どうして・・・・・どうして、こんな事をしますの?」

絶望にも似た声が、ディアーナの口から洩れる。だが、無言の侭近づいて来たセイリオスは、 次の瞬間、思いっきりディアーナの頬を叩いた。

「っ!!!!」

甲高い音を立てて、ディアーナはベットに倒れこむ。

「それは私の台詞だ、ディアーナ。お前には失望したよ。」

聞いた事もない様な兄の声だった。静かな、それでいて激しい怒りを その瞳から感じ取り、ディアーナは思わず身を震え上がらせた。

「あんな男と駆け落ちなど・・・お前は、王家の義務をなんだと思っているんだい・・・?」













クライン王国第一王女、ディアーナ・エル・サークリッドが、近衛騎士団・・・元隊長 レオニス・クレベールと共に駆け落ちし、王都から逃げたと言う事実は、すぐさま皇太子の耳に入った。


「連れ戻せ。必ず・・・二人共生きてだ。」

その時、皇太子が発した声は、赤子すらも無表情で切り捨てるような、冷ややかな物だったと言う。 捜索隊が直に派遣され、レオニスによる抵抗はあったものの、程なくして掴まった二人は、王都へと 連れ戻された。後、レオニスは投獄され、ディアーナは自らの部屋で謹慎を受け渡されて、今に至る。

「お兄様・・・申し訳ありません、でも、お願いですわっ。レオニスを・・・レオニスを許して差し上げて下さいまし。」

兄の叱咤に胸を痛めながらも、ディアーナは請わずには居られなかった。打たれて痛かったのは、 頬よりも心の方だった。されど、必至に兄の衣を掴み祈願するディアーナに、 セイリオスは冷たく言い放つ。

「無駄だよ。ディアーナ。レオニス・クレベールは、明日処刑される。お前は、その後も、一ヶ月間謹慎だ。」
「っお兄様っ!!!いや・・・・いやぁぁ!!!」

予想を遥かに越えた過酷な宣告に、ディアーナの顔から血の気が退いて行く。けれど、思わずその場に 崩れ落ちそうになる体をなんとか支え、僅かな希望に縋るようにディアーナは兄に祈願した。

「お願い・・・お願いです、お兄様。止めて下さいまし!!レオニスは何も悪くありませんわ・・・ 私が・・・私が、無理矢理ついていきましたのよっ!!」

彼は、私を愛してなどいなかった。
ただ、逃げ出したくて、無理を言ったのは、私。
お兄様っ!!お兄様っ!!


堰を切った様に、泣き叫ぶ妹を、セイリオスは酷く静かな瞳で見詰めていた。


「それでも、王家に手を出せば、罰せられるのが決まりだ。」

何でも許してくれた兄。だが、その声は余りにも無機質で。何を言っても届かないと察したディアーナは、やがてずるずると その場に崩れ落ちた。


「彼を・・・・愛しておりますの・・・・」


何を望むでもなく、吐き出すようにそう言って。






愛しておりますの・・・・・・。





なんて、残酷な響きか。
絶望を受け入れ、力なく床に座り込む妹を見下ろし、セイリオスは自嘲した。
王家としての義務。国が定めた法律。そんな理由はただの言い訳だった。
己に対する。言い訳。ディアーナに対する、言い訳。


「王女が、レオニス・クレベールと共に、逃亡いたしましたっ!!!」



その知らせを受けた時。
世界が・・・全てが消えれば良いと思った。
黒々とした、混沌の海に、溺れるような。
その感情を、嫉妬以外なんと呼ぼう。


「ディアーナ。」

セイリオスは涙に濡れる妹の頬をそっと救いあげ、 その虚ろげな瞳を覗き込んだ。



あの男の首が切り落とされる瞬間を。

見せてあげようか。



柔らかな肌がしっとりと指に張り付く。 その優美な顔のラインを、なぞる様に撫でた。少しだけ紅く染まっている 頬は、先ほど自分が打ちつけた聖痕で。その赤みに、誘われるようにセイリオスは唇を落とした。

途端に、ビクリと、妹の体が震える。


たった今、他の男に愛を唱えた唇が、何か言いたげに広げられて。
考える事もなく、それを奪っていた。

驚きに眼を見開き、胸を叩いて抵抗しようとする両手をあっさりと封じ込めて、そのまま押し倒す。 密着した躰から伝わる鼓動が、泣きたい程





愛しい。



緊張に強張った歯列を割り、舌を絡めて尚も深く貪る。
噛み切られた唇から、鮮血が、唾液と混ざって流れ落ちた。

「っ・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・」

僅かばかり解放してやると、混乱と高揚により乱れた息づかいが室内に響く。
初めての刺激に紅潮した頬。湿った唇。散乱した髪。
恐怖と困惑に染められた瞳は、犯した罪の烙印。

だけど、それら全てが、世界を切り離す。




只、



おまえがいれば、私は。



「ディアーナ。」



渦巻く感情を言霊にのせて、その名を呼んだ。
見開かれた妹の瞳は、その声から何を感じ取ったのか。




あるいは、魅せられたのかもしれない。



只、それが必然であるように、手し述べられたディアーナの手は、兄の頬を、慰めるように ゆっくりと撫でた。戸惑いと、切なさに怯えながら。

「お兄様・・・ごめんなさい・・・・・。」

何に対しての懺悔なのか、解らない。只、涙が瞳から溢れ出た。
そんな妹の濡れた頬をセイリオスは、先ほどとはうって変わった優しい手つきで手繰り寄せ、 舌で涙を舐め取った。




今、この時、魔に魅せられているのかもしれない。

救われはしない咎を。



それでも。





するりと、妹の胸元を解き開く。白く汚れ無きその肌を、惜しむ様に口付けた。
紅い花弁を散らす度に震える体を感じたくて、一層強く抱き締める。繊細な体が、 それによって、壊れてしまっても、構わないと思った。


そうしたら、ずっと、私の側に置いてあげるよ。


「あ・・・・ぁ・・・・」

なぞる様に指を這わせるだけで、愛らしく鳴く妹の声を聞く度に、混沌に引き込まれて行く。

もっと、鳴いてくれ。
ディアーナ。



「っ!!い・・・やぁっ・・・だ、駄目ですの。」

水に沈むような音を立てて、愛しい人にさえ見せた事のない秘所に触れられた時、 僅かに残っていた理性の欠片が、ディアーナの手をつき動かした。

やんわりと、なけなしの力で、兄の腕を制する。幾らでも跳ね除けられる程弱々しい抵抗。 けれど、セイリオスは、驚く程あっさりと手を離し、起き上がった。

肌から、ぬくもりが消える。
兄の表情からは、何も読み取る事ができない。



何故、その時、そう思ってしまったのか。
ディアーナには、解らなかった。


「おにいさま・・・・。」

溺れて行く水面下から手を伸ばす様に。
只、そうしなければ、絶命してしまうかのように。

ディアーナは、手を伸ばした。
兄の衣装に触れた瞬間、例えようのない安らぎと、節操感が一度に押し寄せる。

どうしてしまったのか、疼く心の意図が恐ろしくて、ディアーナははらはらと涙を溢した。

「良い子だね・・・・ディアーナ。」

妹の涙に、この時初めて、セイリオスは笑みを浮かべ、再び唇奪う。
肩から胸、腰へと愛撫が下ろされても、抵抗が無い事を確認すると、秘所にするりと指を滑らせた。

「や・・・あっんっ・・・。」

撫でる様な優しい指の動き。感じた事のない刺激が、脊柱を駆け上がり、ディアーナは思わず腰を 反らせた。その隙間にセイリオスは手を差し入れ、ディアーナの上半身を抱き起こす。
ディアーナはもはや抵抗もなくされるがままだった。




己の指が、泉を攪拌する度に、妹は痛々しく・・・淫らに鳴き続ける。
その瞳から流れ落ちる雫は、愛する男への懺悔か。


するりと、セイリオスは泉から指を引き抜いた。

「ゃっ・・・ぁ・・・・・。」


一寸纏わぬ肢体がびくびくと痙攣する。求める声を発しそうになった妹は慌てて唇を噛み締めた。


「そんなに・・・あれを愛しているのかい?」


さあ、ディアーナ。もう一度。言ってごらん。


彼を愛していると。


双丘の蕾を赤く熟させ、蜜の零れる花弁を他の男の・・・兄の目にさらけ出したその姿で。

「お前が、それでも言えたなら、彼の元に行かせてあげるよ。」
「そんな・・・・・・。」

ディアーナの涙に濡れた面が、哀れな程に歪められる。

「・・・・・ひどいですわ・・・おにいさま・・・・。」

ぽろぽろと、尽きる事のない涙が、双眸から零れ落ちた。それでも、妹の腕は、その瞳では無く、露になった肢体 に回される。まるで、止まない熱を抑え付けるかのように。
だが、セイリオスは無言のままディアーナを見詰める。答えを聞くまでは、何もしないという様に。





言える筈などなかった。


魔に取り付かれた刹那であろうと。兄の衣に手を伸ばしてしまった瞬間から。

例え、どれほど愛していようと、今では虚言以外に為りえない。

それに、きっと逆らえはしないのだ。兄の言葉に、その腕に。


「おにいさま・・・・・。」

息も吐けない罪悪感と、それに上回る欲情。救いを求めるようディアーナは呼んだ。

懸命に腕を伸ばし、兄を抱き締める。動作の一つ一つ、全てがゆっくりであったが、セイリオスは 何もせずにディアーナを待った。妹の腕が、確かに己を包み込むその瞬間まで。



「それで良いんだよ・・・ディアーナ。」


優しく、艶かしく兄の声が響く。

ディアーナはゆっくりと瞳を閉じた。




レオニス・クレベールが釈放されたのは、翌日の事だった。
だが、国を追放された騎士を見送る、桃色の王女の姿は無かったと言う。


FIN.......




-あとがき-

ひぃっ!後味悪っ!!殿下あぶねーーー!!!(爆)ごめんなさい。隊長に恨みはないんです。(爆)生かしてあげたのはワタクシのせめても優しさです。(爆)殿下の嫉妬話をちょっとシリーズ化させてみようかと思いまして。(爆)後はシオンとかやってみたいですね。余りにも長くなりすぎたので中途半端な終わりで ごめんなさい・・・。(逃亡)