危険人物





今日も今日とて、小さな事件はあるものの、それなりに平和なアロランディアの街道を 男は歩いていた。いや、言いなおそう。むしろ、それなりに平和なアロランディアの街道は、 その男の存在により、不気味(無意味)な緊迫感を漂わせていた。いかにも指名手配書にでも乗っていそうな顔、鍛え抜かれた体。 通りを行き来する人々は、誰もがその男の持つ殺伐としたオーラに慄き、彼を避けるようにして歩いた。

猫が一匹、やってきた。

ギロリ。

男は睨みを効かせた。

猫は脱兎の如く逃げ去った。


たかが猫相手に、マジにならなくても・・・っと、突っ込みを入れたい所だが、 男からすれば、只視線を向けただけなのである。


遊んでいた子供が気付かず男にぶつかった。

ギロリ。

男は睨みを効かせた。(ってか只見ただけ。)

子供は大きな声で泣き出した。


母親が、真っ青になりながら駆け寄って来て、子供を抱き締める。 まだ何も言わぬうちに、土下座した挙句、今にも死にそうな顔をして謝罪する女に、 男は微妙に眉を潜めた。が、男が、「ちょっと困ったな(はぁと)」程度で変えた表情は、 親子にとっては更なる恐怖以外の何物でもなく。只歩いていただけで街道の一角を修羅場にして しまった銀円の騎士、ソロイ・ブラーエは、何時もの事ながら、疲れたように額に手を当てた。
その時だった。

「そんな、こわいかおで、にらんだら、だめよ。お父さん。」

場違いなまで可愛らしい声と、その持ち主に、周囲の視線は釘付けになった。
男といえば、先ほどよりも更に疲労が増した面持ちで、眉を一層顰めている。が、 鍛え抜かれた騎士たちすらも、失神しかねない程の形相に、男の半分・・・いや、それ以下しかない 小さな少女は、心なしか嬉しそうな表情を浮べた。

「・・・何故此処にいらっしゃるのですか?」

これまた男に合った低く威厳のある声だが、やはり少女はまったく気にした様子がない。

「騎士院で、べんきょう、してたのよ。」

男の背が高すぎる為か、必至に彼を見上げて言葉をつづる少女の姿は、非常に可愛い。が、その可憐な少女が次に 取った行動は、周囲の誰もを恐怖に慄かせた。

「・・・・・何をしているのですか?」

・・・・・よじよじ。

「アクア殿。」

・・・・・よじよじよじ。

「ふぅ、・・・とうちゃく。」
「・・・・・」
「しゅっぱつしんこう。ごう。」

唸るような男の声を完全に無視し、なんと、少女、アクアは銀円の騎士、ソロイ・ブラーエの体を よじ登ったのである。それも、可也慣れた動作で。そして肩までたどり着き、そこにしっかりと 陣取った少女は、事もあろうか、銀円の騎士、ソロイ・ブラーエ(しつこい)に命令を下したのだ。
もう、周囲は石化した人の山となっていた。

「人の質問には答えなさい。私は何をしているのかと聞いたのです。」
「・・・きょうね、アークが、きびしかったの。」
「勉学が厳しいのは当然の事です。」
「でも、素振り100かいは、ひどいとおもわない?」
「思いませんね。」
「あなたと、くらべないで。かよわい美少女には、ごうもんなの。」
「誰の事を言っているのか、皆目検討つきませんね。」
「むっ・・・・つかれたよ〜、おとうさん〜。」
「都合良く子供の振りをするのは止めなさい。」
「・・・・こどもだもん。」
「・・・・」

どちらも起伏の無い声で、淡々と続けられた会話だが、どうやら男の方が言い負けした様だ。 確かに、少女はどこからどう見ても、子供である。がしかし、 銀円の騎士、ソロイ・ブラーエを馬車代わりに使う子供は、世界広しと言えど、アクアしかいないだろう。

「私とて業務中なのですが。」
「だいじょうぶ・・・まってるから。」

勿論、肩に止まった状態で。

「・・・・・・」

男は沈黙する。

「・・・・どちらに行かれるのですか。」

が、やがてその無骨な顔に似つかわしくない程疲労しきった溜息を吐くと、諦めた様に言い放った。

「魔法院・・・・と、おもったけど、よてい変更して、れすとらん。」
「・・・・・・」

返された言葉に、器用にも少女を肩に乗せた侭、男は額に手を当てて項垂れた。

「・・・・・わかりました。」

が、結局何を言おうにも、無駄な足掻きになってしまう事は目に見えているので、男は 大人しく堪忍した様だ。それに、ぽっと頬を赤らめて嬉しそうな表情をする少女に、 何が言えようか。

あの猫や、親子の様に、畏怖される事を当然としてきた男にとっては、少女は全くもって未知の 存在だった。これほどまでに遠慮なく、直球で、眼を見て物事を言って来る人物は、彼女しかいない。 むしろ、その余りに真っ直ぐな眼差しに、男自身が視線をそらしてしまう程だった。
何故、少女は恐れないのだろうか。
幾度となく訊ねようと思ったが、言葉の代わりに、男はやはり溜息を漏らしただけだった。

なでなで。

「・・・・・なんですか?」

よりにもよって、少女が頭を撫でてきたので、男は眉を顰めて訊ねた。

「この位置だと、あたま、なでやすくて、いいかも・・・・?」
「落としますよ?」
「うむ、くるしゅうない。」

なでなでなで・・・・・。



今日何度目かもしれない腹の底から搾り出すような溜息を、男が吐いたのは言うまでもない。



ちなみに、余談だが、すっかり置き去りにされた周囲が、我に帰った後、この出来事はアロランディア 七不思議の一つとして語り継がれる事になったとかならなかったとか。







コメント:

書いてなかったけど、実はものすっごい好きなんです。ソロアク。 見た目も中身も犯罪以外何物でもないですよね。いや、其処がまた激萌えポイントなんだけどさ。(オイ) 得にアクアを肩車するソロイラブ。いや、もう激萌えっ!!!(もういいって)