10 years after





寄せては返す波のように、

人は訪れてはいなくなり、



出会いを繰り返しては別れていく




今度こそは・・・今度こそはと思うのに。

何時も失敗してしまうんです。


けれど・・・・・。


神が居るなら、どうか今一度。


罪深く愚かしい人の子に、未来を・・・。








男は、浜辺を歩いていた。
それは、奇跡にも近い事だった。

神に愛された島、アロランディア。その緑豊かな美しき島々が、

呪われた大地と畏怖されるまで、

僅か、半年も掛らなかった。
人の作った虚実とはなんと、儚く脆い事か。
それでも、全ての人間が、神の愛と言う人の身に余る幻想に惹かれていた訳ではなかった。
この島を愛し、真実を捉えて尚、人の手で人に幸せを与えようと、努力する者たちもいたのだ。
それは、神にとっては何の価値もない物だったのかもしれないけれど。



人が幸せを追求する程に、神は人を呪うのかもしれない。

その私欲に駆られた浅ましさを。罰せられるのかもしれない。



男は、不意に立ち止まって、自らを包む大地を見渡した。
今では、人一人居ない、瓦礫の山と化した町の残骸は、朽ち果てた姿のまま。
それでも、人の手から離れたその大地は、神韻縹渺とした美しさを醸し出していた。

まるで、人こそが、その大地にとって異物だったのだと知らしめるかの如く。

あの日。銀髪の少女が、海に消えたあの日に、アロランディアを襲った嵐は、新しく歩みだそうとしていた この小さな島の未来を、悉く粉砕したのだ。
息もつけぬ程の雨と強風。狂ったように打ち上げられた津波。
それは、怒りというより、絶望の悲鳴の様だった。

たとえ、どんな有能な指導者だとしても、神の怒りの前には成す術がない。

死力を尽くしたものの、来る日も来る日も止む事なく襲う天災に、逃げる以外道は残されては いなかった。
かくして、苦心の末、民はアロランディアから逃げたのである。かつて、己が尤も忌み嫌った 大国の力を借りて。



もう、十年になるんですね。


男は、無意識の内に自らの手を開いて、見つめた。
十年と言う時の流れを過ぎても、何一つ変わらぬ自らのそれを。

呪われた島に来る者など、奇怪な学者か、魔道師ぐらいのものだ。
自分は、正にそれの後者で。

ヨハンは、自嘲の笑みを浮べた。

アロランディアの民がダリスに移り住んだ事で、元より魔法を忌み嫌っていた親善大使は、 アロランディア滅びの原因を、魔法の所為にし、魔法開発を全面的に遮断した。 恨まなかったと言えば嘘になる。それでも、ヨハンは何も言えなかった。

アロランディアが滅びた原因は、確かに、自分にあったのかもしれないからだ。

力なき小さな少女を、見放したその時に。

だが、あの時は、それが最善の方法だったのだ。 元より、険悪な関係にあった騎士院と魔法院。その騎士院から星の娘が誕生した事で、 魔法院は偽りの候補をでっち上げたとして、過大な非難を受ける様になっていた。 彼女を匿い、安全な生活が出来ぬ程に。なるべく魔法院から・・・いや、アロランディアから 離れた方が良い。そう思って言った事だった。

力なき少女に、自力でそうさせる事がどれほど酷な事か、解らなかった訳ではないけれど。


言い訳・・・ですね。今更。


ヨハンは溜息を吐いた。今はもう何を言っても変わらぬ過去だ。 只、懺悔の念に駆られて、この島に戻り、自力で細々と研究を続ける生活。 やっぱり、魔法以外何もない自分は、どうしようもないのかもしれない。


あれは・・・・・?

不意に、ヨハンは足を止めた。
何かが、打ち上げられている・・・?
心臓が高鳴る。ヨハンは思わず足を速めた。



近づくにつれ、シルエットがはっきりとして来る。デシャブーにも似た 過去の残影が、ヨハンの脳裏に蘇った。

「・・・・っ!!」


こんな事があって良い筈がない・・・。
こんな運命が。
出来事が。


光を受け輝く銀髪が、押し寄せる波に漂う。子供らしい丸く赤みが掛った頬。 愛らしい瞳は閉じられており、その長い睫に、水滴が反射していた。

あの頃のままの少女が。

其処にはいた。


「・・・・大丈夫ですか?起きて下さい!」

震える手つきのまま、小さな躰を起こして揺さぶりを掛けた。

「・・・・う・・・うーん・・・」

少し眉を顰めた後、少女の瞳が開かれる。青とも、紫ともつかない。不思議な彩色をした 瞳。だけど、それはまだ何も知らぬ、生まれたての子供の様に清んだ光を放っている。

漠然とした寂しさが、ヨハンの胸を襲った。

「ここ・・・・どこ・・・・?」

少女が問う。やはり舌足らずな口調で。

「此処は・・・・此処は、アロランディアですよ。」
「あなた・・・・だぁれ?」

不思議と驚きは無かった。何処か寂しげに微笑んで、男は答えた。

「私は、ヨハン・ハーシェルと言います。ご自分の名前は解りますか?」
「・・・・・アクア。」

もう、疑惑はなかった。

「そうですか、アクアさん・・・では、先ずその服をなんとかしないといけませんね。 私と来て下さいますか?」
「うん・・・・・先生。」
「えっ・・・・?」

信じられない言葉に、思わず聞き返す。

「あら・・・わたし・・・どうしてかしら?」
「・・・・いいえ。先生で、良いですよ。」
「うん、先生・・・・。」

あぁ、泣きたい程に切ない。それでも、幸福とは、こんな感情なのだろうか。



今度こそは・・・今度こそはと思うのに。

何時も失敗してしまうんです。


けれど・・・・・。


もう一度、願う事が許されるなら、
今度こそ、本当に、私は、貴方を、幸せにできるでしょうか。











コメント:

本当はお題10はシリアクが書きたかったんですが、どうしても所帯じみたあの二人が書けなかったんです。(爆) し、しかし剃刀送られたらどうしましょう。(爆)ヨハン先生救世話と言う事で。(爆)


おまけ:

「先生、・・・おなかすいた。」
「ええっ!あぁ、どうしましょう、ユニシスはもう居ませんし・・・私は何時も適当ですから・・・。」
「おなか・・・すいた・・・。」
「あぁ〜〜もう、困りました〜〜(汗汗)」