愚者の村



とある所に、一人の学者がいた。
学者は旅をしていた。真実を見つける為の旅だった。
まだ証明されていない世界の謎すべてを解き明かす旅だった。

森を超え、山を越え、海を渡り谷を越えて。
ある時、学者は一つの村に迷い込んだ。
地図にも載らない、小さな小さな村だった。
学者には、全ての村人が愚か者に思えた。

とある者は言う。
         「今日は、太陽が眩しい。これは、きっと太陽が怒っている証拠なのだ。」
またある者は言う。
         「今日は、太陽が眩しい。これは、きっと焚き火を起こしすぎた所為だ。」

偽りを偽りとも解らずに信じる村人たちを、
学者は愚かしいと思うと同時に、哀れに感じた。

これは、自分が真実を伝えなければならない。
それは、これまで旅をしてきた自分の使命に思えたのだった。

次の日、学者は村の広場で、授業を開いた。
科学的根拠によって証明された真実。

「人間の住む場所は、地球で、銀河系に属しており、太陽を中心に。。。。」

黒板に書かれた図を指さし、説明する学者を、村人たちは静かに見ていた。
そして、学者が話し終えると、広場のいたるところから拍手が巻き起る。
学者は自分の成功に感じた事もない名誉を覚えた。
村人の一人が歩み出て、学者の方を叩いた。

「いやー、若いモン、いい話だったよ。隣の銀さん以来だな、こんな面白い話を聞かせてくれたのは。」

学者は、訳が解らず目を見開いた。

「そうかな。わしはやっぱりタミさんの太陽が焚き火から生まれた話の方が良いと思うんだがね。」
「何を言っているんだ?俺が今説明しただろう?」
学者が僅かに苛立って言うと、村人は驚いたように目を見開いた。

「そりゃ、聞いてたさ。良い話だったよ。それじゃ、そろそろ帰ろうかな。」
「これは真実だ!!」

学者は思わず叫んだ。これだけ説明しても解らないなんてなんたる愚か者たちなのだろう。
これほどに根本的な事実すら理解できないとは。
叫んだ学者に、村人たちは、怪訝な眼差しを向け、それぞれ自分の仕事に戻っていった。
取り残された学者はその場に力なく座り込んだ。
口惜しい思いが、学者の胸を焦がした。
生涯を掛けて勉強してきた学論を愚弄された気がした。

学者が嘆いていると、不意に、一人の老人が学者の隣に座り込んだ。

「若者、元気だしなされ。」
「此処は、愚者の村だ。」

学者の言葉に、老人は言った。

「此処の者たちは、其々の真実をもっているだけじゃよ。」
「真実は一つしかない!」

若者が叫ぶと、老人は可笑しそうに笑った。

「ほっほっほ。。。。外から来た人間はいつもそう言いなさる。」

そんな事はどうでも良いじゃないかと。老人は笑った。

「どっちでも良いじゃないですか。太陽が、焚き火から生まれようとも、地球が三角でも四角でも。結局明日になれば 太陽は登ってくるし、夜になれば日は沈む物じゃ。好きな様に信じていても、何も変わりゃせん。むしろ、そっちの方が幸せだと 思わんかね?」

老人の言葉に、学者は力なく首を振り、夜を待たずに村を出た。
その後、学者は旅を続けた。
彼が死ぬ直前に記した本には、『愚者の村』と呼ばれる村が、
森を超え、山を越え、海を渡り谷を越えた場所がに記されていたと言う。





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