| Chapter9: 『 修学旅行 』 |
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「はぁ。。。。。」 校門に続く並木道を歩きながら、恭子は盛大に溜息を吐いた。 隣では、雪菜が怪訝そうに首を傾げている。その周囲に乖吏の姿は見当たらないが、 決して恭子から逃げ出した訳ではない。 時が過ぎるのは早い物で、夏休みも終わり、蒸し暑さは変わらないものの、既に新学期が始まっているのだ。 二学期と言えば、当然三年生は修学旅行と言う訳で、彼はそれに参加中なのである。てっきり誰もがさぼるであろうと 予測をしていただけに、恭子の衝撃は大きかったのだろう。が、表面上、雪菜と帰る約束をしてしまった為、彼女は律儀にもそれを 守っていた。 (あのね、恭子ちゃん。。。。そんなに無理して一緒に帰ってくれなくても良いんだよ?) 余りにも落胆した様子の恭子に、雪菜は恐る恐るそう伝える。周りからは鈍いと思われがちな雪菜だが、 実はそうでもない。確かに、物事に対する反応が異様に遅い時もあるのだが、言葉が喋れない分、 彼女は人の心境には敏感だった。 「えっ!?いやですねぇー。先輩!そんな事ないですよ!!はぁ。。。でもあたし、夏休みだって殆ど浅葱先輩に会ってないのに。。。 うぅ。。。やっぱり生徒データハッキングして無理にでも着いていくんだったぁぁぁ〜〜〜〜!!!!」 さり気無くさらっととんでもない事を言われた気がするが。。。。 (ハッキング。。。。。って。。。。(^^;)) どう突っ込みを入れるべきか、雪菜が悩んでいると、不意に校門の前に真っ白な高級車が止まった。余り珍しい事でもない上、弥生の 黒ベンツプラス2台バイクを見慣れている雪菜は、特に驚きもせずにそれを見ていたが、その運転席より優雅に降り立った人物を見て、 ピシリと表情を凍らせた。 (。。。。。。しっ。。。。。。。。宍道さん。。。。) 「ちょっ、三月先輩!??何処行くんですか!??」 反射的に逃げようとした雪菜に、驚いて、恭子は慌てて彼女の腕むが、紅くなったり 蒼くなったりする雪菜の面に、思わず瞳を見開いた。 (。。。。。。。。これは。。。。。もしかして。。。。。。) 感の良い恭子は直に彼女の視線を追い、たった今車から降り立ったばかりの人物を見止めた。。。。。見た事の ある顔である。。。。誰だったか。。。。。恭子の頭の中では、人物データが、マシンの如く豪速で 処理されていた。 鬱螺 宍道 25歳 男 医者見習 O型 好きな物:甘い物、可愛い物。 嫌いな物:暴力的なスポーツ、肉類 「。。。。浅葱先輩の。。。。。あにぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!!!!?????」 まるでコンピューターから引き出したかの様なプロフィールを頭から読んだ後、絶叫した恭子に驚いて、雪菜が慌ててその口を塞ぐが、 もはやすでに遅し。宍道は二人に気がついたようで、こちらに向かって歩いてくる。いよいよ雪菜は本気で逃げ腰になったが、 既にショックから立ち直り、直感で”美味しい状況”だと判断したらしい恭子がそれを許すはずは無かった。 「先輩〜〜どうしたんですか??恭子を置いていっちゃ嫌ですぅ〜〜!!」 恭子が語尾を無駄に延ばすのは、演技をしている証拠なのであるが、そんな事にパニック状態の雪菜が気付く筈もない。 にこり。。。。基、にやりと笑みを浮べる恭子の後ろでは、宍道が半径2m以内に近づこうとしていた。 「やぁ、もう帰ってしまったかと思ったけれど、間に合って良かったよ。」 少女の様な可憐な笑みを浮べる宍道に雪菜は必死に平常心を装うとするが、 緊張と後ろめたさで高鳴る心臓は、どうにかできる物でもなく、兎に角真赤になる顔を隠そうと、 雪菜はブンッっと勢い良くお辞儀をした。 「始めまして、あの、浅葱先輩のお兄様ですよね?」 雪菜の様子に、ますます確信を深めた恭子は、状況把握の為、宍道に声を掛けた。 女顔の男に興味はないが、情報収集は恋愛成熟の過程で非常に重宝されるのである。 「え?うん。そうだよ。良く知ってるね。。。えーっと。。。」 「三田村恭子です。」 「よろしく。鬱螺宍道です。」 物腰柔らかく挨拶をする宍道はどこから見ても紳士その物では会ったが、今の雪菜に そんな事に感動する余裕はない。恭子と宍道を交互に見詰めながら、どうかそのまま自分の存在に気付かないで と、必死に無理な願いをかけている様だ。 「乖吏君、この一週間修学旅行だからね。代わりに僕が送ろうと思って。勿論、お友達も一緒にどうぞ?」 仕事はどうしたんですか。仕事は。っと恭子は内心突っ込みを入れた。医者という職業は、少なくとも、 勝手にホイホイ休める程楽ではない。しかもこのしまりのない顔からして、相当雪菜に惚れ込んでいると思われる。 これはますます美味しい。 「いえ、そんなお邪魔できないですよぅ〜。あたし、寄りたい所もありましたし、お二人で先に帰って下さい。」 二人で。。。。という部分だけ不必要に強調されたのは気の所為ではないだろう。隣では、雪菜が恭子を最後の頼み綱とでも言うように 見詰めていたのだが、心を鬼にして無視する。雪菜の事は嫌いではなかったが、恋敵である以上、排除しない訳にはいかないのだ。 世の中、所詮友情よりも男である。それに、紳士的男性に手を引かれて、真っ白な車に乗り込む雪菜の姿は、傍から見れば、実に羨ましい状況ではないか。 (うふふふふふ。。。。。これであの二人がくっつけば。。。) コンピューターの様な恭子の頭の中では、宍道×雪菜ラブラブ計画が立てられていった。 ゥ 「あぁ。。。愛しの姫君は今いずこ〜〜〜♪」 此処はカナダ・トロント・ナイアガラの滝基、CNタワーである。何が悲しくて、こんなマイナーかつ特別目立った遊び場もない 国を選んだのかは、不明なのだが、此処が今回の修学旅行地点だった。特別何をするでもなく、煩い追っかけに見つからない所で 休憩を取っていた乖吏は、歌。。。いや、気色の悪い音程のずれた何かを耳にし、振り向かずにすくりと立ち上がると、そのままスタスタと歩きだした。 誰かは言わずとも知れている。こんなふざけた真似をする友人など一人しかいないのだから。。。だが、 この様な冗談から彼が話を切り出す時は、絶対に何か良からぬ話を降りかけられるに違いないのだ。だからなんとしても無視である。が。。。。 「いやだわvアナタ。。。無視をなさるのね?昨日の夜はあんなにも激しく私をかき抱いておきながら。。」 「だ・れ・が・だ!!!」 どうやら、保一の方が一枚上手だったらしい。 「てめぇは。。。何か用かよ?」 「いや?只、乖吏君ファンクラブゥから1万で居場所を教えろって言われたもんだから。」 「ナイアガラに突き落とす。」 「いや〜んゥ」 こいつは。。。。。 結構本気で釘を刺したにも関わらず、保一の相変わらず冗談めいた返事に、乖吏はお手上げと言うように 深々と溜息を吐いた、。ファンクラブなどと称する物に、興味は全く持ってないが、 しつこく付きまとわれるのは非常に迷惑である。よって、何時も、団体行動には極力身を投じないのだが。。。。 「にしても、お前が修学旅行に参加するなんてなぁ。。。またどーゆー風の吹き回し?」 「。。。。。余計なお世話だ。」 「ははぁ。。。。。お姫サマが絡んでるわけね。」 何時もながらに鋭い保一の一言に、露骨嫌そうに顔を顰めた。しかし、なんでどいつもこいつも直に何かあると 雪菜の所為だと思うのか。。。果たして、自分は雪菜とそれほどまでに関わっているだろうかと、いささか不満すら 生まれてくる。だが。。。。事実は事実だ。何日か前、雪菜に告白して以来避けられているから、 なんとか仲直りする為に機会を作ってくれと宍道に泣きすがりながら頼まれた事を思い出して、乖吏はげんなりと項垂れた。 ゥ 「乖吏君も、もうすぐ帰ってくるね〜。」 運転席から度々会話を振ってくる宍道に、雪菜は緊張して頷いた。あれから、彼は毎日の様に向かえに来る。思い切ってまどかか弥に相談してみたいのだが、 彼女が切羽詰まっている理由を聞けば、間違いなくまどかは怒涛の如く怒り出すに違いない。そうなれば、 宍道の身に災難が降りかかる事は必死である。 (きょ。。。。今日こそは。。。。。はっきり言わなきゃ。) 雪菜は大きく息を吸うと、運転席に視線を向けた。 「雪菜ちゃん、気にしてるんだろう?。。。。。。あの夜私が言った事。」 ぎくりっと雪菜の肩が震えるのが、視線を合わせなくても伝わってきて。宍道は愛おしさで胸が一杯になるのが解った。 どうして彼女は此処まで純粋なのだろう。始めは間違いなく一目ぼれだったが、今では、彼女の全てが好きで好きで溜まらなかった。 きっと、彼女が何をしていても、可愛いと思ってしまうに違いない。だから、あの時。。。ハワイに旅行に行った夜に告白したのだ。 けれど、雪菜には余程衝撃的だったのか、彼女はその場から脱兎の如く逃げ去った上に、彼に会えば真赤になってしどろもどろしてしまう 状況が続いていた。 しかし、宍道の性格からして、本来ならば、もう少し早く何か行動に出ても良い物である。が、そうしなかった理由は。。。。 (あぁ。。。。。可愛すぎるぅぅぅぅ〜〜〜〜(T▽T)) 困惑して耳まで赤くなりながらおどおどする雪菜が可愛かったと言うのだから、どこまでも救いようがない。 (はい。。。。あの。。。。私、その。。。。驚いて逃げてしまってすみませんでした。) 「いや、良いよ。気にしなくても。私も、急にあんな事を言ってごめんね。驚いただろう?」 どう切り出すべきか困ったが、取り合えず謝罪を述べるのは実に雪菜らしい。何時もの様ににこやかに返事を返された雪菜は、 戸惑い勝ちにこくりと頷いた。年上からの人気が並でない雪菜は、当然告白の一度や二度受けていてもおかしくないのだが、 その手の話題やら手紙は、雪菜の手に渡る前に小姑。。。基、まどかに抹消される為、彼女はまったくもって免疫がないのである。その可愛さに 又もや感涙の涙にむせ返る宍道。手話だから仕方ないかもしれないが、なるべく前を見て運転して欲しい物である。 (あの。。。。それで。。。。。私。。。。。ごっごめんなさい。お気持ちは嬉しいのですが。。。。宍道さんの特別な方には、 なれません。。。) 雪菜にとっては、初めての拒絶だった。父と母が死んで、可愛がってくれたお爺さんも死んで、どうしようもなく寂しさを覚える様になってから、 少しでも与えられる好意が嬉しくて仕方なくて。その好意に答えられるように、できるだけ勤めてきたのだけれど、今回だけは特別だった。 宍道の好意は、きっと、他の人の好意とは違う。たった一人にだけ向けられる好意なのだろう。。。。本来ならば、嬉ばしい事なのかもしれないが、 それを考えると、雪菜は只々、怖くなった。 (私が。。。。。。乖吏を好きって言う気持ちと一緒なのかな。。。) そうだとしたら、彼をとても傷つけてしまったかもしれない。雪菜の涙腺が緩む。けれど、宍道から帰ってきたのは、予想を裏切った冷静な言葉だった。 「うん。解ってたよ。」 (え???) 思わずパチパチと瞬きを繰り返す雪菜。解っていたならば、何故告白などしたのだろうか。。。しかも、 雪菜は気にしないだろうが、これまでの覚悟が全て無駄になったと言う物である。 「雪菜ちゃん、乖吏君が好きなんだろう?」 それは面白い程に、ぼんっと言う音を立てて雪菜の顔が首筋まで真赤に染まる。衝撃のあまり失神寸前の様だ。実に解り易い。 「やっぱりそうか〜。。。。乖吏君あんな性格だしねぇ。。。私を選んだ方が良いと思うんだけどな。」 (あの。。。何時から知ってたんですか?) 「え?うーん。何時からだろうねぇ。。。お見舞いに来た日にもう薄々気付いてたかな。」 (。。。。。。。。。。えええ!?) いくらなんでもそんなに早くからバレていたとは。。。。。 あの時、宍道とは初めて会った筈だ。よって、自分は初対面の人間すら気付いてしまう程にあからさまな態度を取っていた事になる。 考えれば考える程恥かしさと混乱が募って、紅く熟したりんごの様になってしまった顔を雪菜は慌てて両手で覆った。 可愛い。 その様子を見て、やっぱりどうあっても諦められそうにないと、宍道は改めて思い知らされる。尤も、諦めるつもりなど毛頭ないのだけれど。 「知ってるけど、雪菜ちゃんは乖吏君に恋人(一応)がいるのを知っていても好きなんだろう?私だって同じ事だよ。」 そして、きっと何時か私を好きにならせて見せるよ。と和やかに言った宍道の表情は、強い意志に固められていた。 けど、 朝霧の様な嫉妬が、無意識の内に言霊に姿を変えていた事に、彼は気付かなかった。 乖吏君に恋人がいるのを知っていても、 好きなんだろう? 忘れていたのに。。。。忘れていたかったのに。 剃刀の様な真実は、解っていると言い聞かせる事で作り上げてきた僅かなシールドを易々と 突き破って、もっとも柔らかい心を切り裂いていく。 知らなければ、もっと傷ついていただろうけれど、それでも、気持ちをすっぱり諦める事はできたかもしれない。 けれど、恋人がいて直、止められないこの気持ちは、とても悪い事に思えて。たとえ、浮気の領域にかすみも しないと解っていても、純情すぎる思いを抱く雪菜は、罪悪感に囚われてならなかった。それは、”恋人”という言葉が、 重かったからかもしれない。”彼女”ならば、少なくとも多少は許されるという思いがあったのだろう。 なんて浅はかな自分。。。。 (あの、この当りに用事があって。。。下ろしていただけますか?) 耐えられなくなって、兎に角車から出なければという思いで、偽りを利用する。 「え?この辺りなのかい?道のりを教えてくれれば。。。。」 (いいえ!えと。。。その、女の子の特別な事情なのです。) 「え?あっ、うん。気をつけて。。。。」 咄嗟に出た嘘(弥から教わった)とは言え、それは余程宍道を驚かせたのか、彼は間抜けな返事を返したが、 既に其処まで構っている余裕がなかった雪菜は深々とお辞儀をすると、一目散にその場から駆け出した。 (私。。。。。知らない内に悪い事してたのかな。。。。) 心がどうしようもない程痛んで。 頬をつたる涙を何度も拭いながら、 雪菜は、初めて自分が嫌いだと思った。 |
| 。。。最近、ナイアガラの汚染が激しくて。。。現地住民としては悲しいですヨ(笑) 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆) <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |