Chapter7: 『 真夏の海で(前編) 』


(わぁ〜〜〜〜。凄い眺め。)

ヴァルコニ―から見渡せる海の青さに、雪菜は嬉しそうに瞳を細めた。が、はっきり言って眺めも凄いが人も凄い。少しだけ視線をずらして、ビーチを 見渡せば、砂を埋め尽くす程の観光客に眩暈を覚える事であろう。弥とまどかが夏にハワイなんて捻りが無いと言っていたのも頷けると言う物だ。尤も、 二人の場合、殆どの嫌味は、ロリコンと判明した(と言うより勝手にまどかが思い込んでいる)宍道への当てつけであり、彼女らの本心からしてみれば、 別に雪菜が楽しいならば何処でも良いらしいが。

ちなみに、状況を少し説明すると、現在彼らはハワイのホテル(それぞれの個室)にいる。弥の自家用飛行機(個室12つ、ジム、レストラン、カジノ、プラス謎の 拷問室とクロコダイル養育場つき)で、十三時間の快適なフライトの後、雪菜以外は時差ぼけを起こす事もなく到着したのだった。

(ふぁ〜〜〜。。。。。ちょっと眠いかも。。。)

太陽の光が、妙に目に突き刺さる様で、雪菜はよろよろと部屋に戻った。彼女らしいと言えばらしいが、見事に時差ぼけに嵌ってしまっている。 取り合えず今は自由行動になるわけだし、少し寝ようと思っていると、不意にドアのベルが鳴り響いた。

(あっ。)

弥かまどかだと思い、ドアを開けた雪菜は、其処に立っていた人物に少しだけ驚いて、瞳を見開く。

(宍道さん?。。。。えと、こんにちは。)

何を言って良いのか解らなくて、取り合えずぺこりとお辞儀をする雪菜。そんな自分の仕草が、宍道のつぼにクリティカルヒットしている事など 知る由もない。

かっ。。。。。。。可愛い〜〜〜!!!(T▽T)

今日何度目かも知れない感涙の涙に彼はむせ返っていた。(爆笑)

「あー。。。。。えーっと、実はやっぱりハワイだから海に行こうと思ったんだけど、乖吏君がスッゴク機嫌悪くって。私は英語全然駄目だから、一緒に 行ってくれないかな。」

控えめに頼んではいるが、これは、計算し尽くされている計画なのである。先ほどフロントで、雪菜は八歳までアメリカで育った事を聞いた彼は、 素早くこの別名『ヘルプミー作戦』を思いついたのだ。雪菜の良心を利用したなんとも姑息な手である。流石は血が繋がっていなくとも乖吏の兄弟。。。。だが、 基本的な部分が抜けているのは、大変彼らしい。
それは、ずばり、泳ぎに行くのに、通訳が要る程の英語を要するのかという問題だ。これでは、どんなに演技力が良くても、裏がある事は普通の人間には 一目瞭然である。

(えと。。。。。。。はい、良いですよ。)

。。。。。。。が、雪菜にそれを求めるのは無理な様だ。元々から人を疑う事を知らない所為もあるが、その時の彼女の心の大部分を支配していたのは、 乖吏の機嫌が悪いという事実であった事も原因だった。色々と考えすぎてしまうのは、雪菜の悪い癖でもあって。その時も、自分が何かしてしまったのではないかと 言う不安ばかりに胸をつまされていたのだけれど。。。NOと言う返事を、よっぽどの事がない限り雪菜はする事がない。

(あっ。。。。。じゃあ弥ちゃんとまどかちゃんも呼んできますね。)

悪気は決してないのだが、雪菜から放たれた言葉に、宍道はぎくりとした。勿論、雪菜は気付かないが。。。既に13時間のフライトで、 彼女らの恐怖は十分すぎる程に彼の身に染みていた様子である。

「あぁ、あの子たちなら、買い物に行くって言って出かけたよ?」
(え?そうなのですか?)
「うん。雪菜ちゃんが疲れているから、遠慮したんじゃないかな。。。あっ、本当にそうなら、無理はしないでね。」

見事なまでの嘘八百である。現に、弥とまどかは、今まさに荷物の処理を終え、雪菜を呼びに来ようとしているのだ。 しかも、フォローまでさり気無く入れた言動には、裏があるとはとても思えない。

すまないっ!雪菜ちゃん!!!だが、私は、この思いの為なら、鬼にも蛇にもなってみせる!!

大丈夫ですよ。じゃあちょっと待っていて下さいね。っと笑った雪菜に対して、宍道は心の底で叫んだ。
恋とは人間を変える物である。





あぁ。。。。疲れた。。。。限りなく疲れた。。。。。。

やっと一人っきりになった個室で、乖吏は盛大に溜息を吐いていた。此処まで疲れた事は久しぶりだ。その大半が、雪菜の過保護者の所為である 事は言うまでもないのだが、一々雪菜の言動一つ一つにときめいている兄も疲労の根源となっている。全くもって馬鹿な事を承諾してしまったものだと、 彼はげんなりと項垂れた。が、取り合えずこれで約束は果たした訳である。後は自由に行動できると考えていた彼だが、その望みは、 三秒後にあっさりと打ち砕かれる事となる。

ドンドンドン!!!!!

ノックと言うには程遠い、ともすれば破壊しかねない勢いでドアが叩かれて。乖吏は一瞬だけ驚いて立ち上がったが、直にその人物が誰であるかは(嫌でも)予想できた らしく、げんなりと溜息を吐いた。できれば、断じて開けたくはないのだが。。。ひ弱なドアが、何時までも持ってくれる訳はない。

「うるさい!!インターホン着いてるだろ!?」

案の定、扉の向こうで拳を振り上げていたまどかにげんなりと言い放つ。

「黙らっしゃいこの天然軟派男!!!あんたのロリコンアニキが何処いったか今すぐ250文字と10秒以内で説明しなさい!!!」

。。。。説明ちゃんと聞くんだろーな。

行き成り押し掛けられて、訳の解らない事を叫ばれれば、なんだと思うのが普通なのだが、そんな事を尋ねても、マトモな返事が得られるとは思えない。 理不尽だが、乖吏は自分の頭で考えるしかないのだ。それも10秒以内で状況を把握した挙句に、250文字以内に省略して返答を返さなければならないと きている。
ロリコンアニキとは宍道の事であろう。これには特に意義はない(笑)。そして、彼女らが宍道の居場所を知りたいと思う理由なのだが、 これは雪菜が絡んでいるからと見て間違いないだろう。

つまりは兄さんが雪菜を誘って出かけたんだな。

そう言えば先ほど、隣の宍道の部屋からブツブツと何やら一人芝居をしているような声が聞こえてきた気もすると、二秒弱の推理の後、 乖吏は見事に結論に到達した。(笑)

「悪いけど、俺は何も聞いてねーよ。待ってればその内帰って来るだろ?」

頼むからこれ以上は関わらせないでくれ。探しに行くなら勝手に行けとでも言うように乖吏が言った台詞に、まどかは怒涛の怒りをぶつけた。

「待ってればその内帰ってくるだぁぁ〜〜〜!!??ンナモンあんたの口から言われなくたって解ってるわよ!!帰って くるまでにいたいけな雪菜があのロリコンオヤジに。。。。あぁ。。。。。。。。。いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!

何を想像したのかは知らないが、突如絶叫を始めたまどかの顔は真っ青だった。さり気無くオヤジ呼ばわりされてしまった宍道を哀れに思ったのか、 取り合えず些細な弁解を入れる乖吏。

「何想像してんのかは知らねーけど、兄さんにそんな度胸は無いと思うぜ?」

。。。。。。フォローになっていない気もするが。

「そんな事信用できるか!!!アンタのアニキって時点からして説得力が全然ないのよ!!!!!!」

待てコラ。

確かにその通りかもしれないが、面と向かって言われるとやはり勘に触る物である。段々と自分に向いてきたまどかの怒りの矛先に、乖吏が 流石に切れかかっていると、どこか楽しむような笑いを含んだ声が聞こえてきた。

「雪菜なら、海だろ?」
「は?」

何時の間にやら背後に立っていた弥の言葉に、まどかは間の抜けた返事を返す。 確かに雪菜の部屋に行った時までは一緒にいた気もするが。。。一体今まで何処にいたのか。

「ロビーの係り員に聞いてきた。」
「あんたねぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!!!聞いてきたんならもっと早くにいいなさいよ!!!」
「はいはい。モタモタしてねーで行った方が良いんじゃねーの?」

さり気無く話しを反らせた弥だが、発狂するまどかと、それに振り回される乖吏の様子を影から見て楽しんでいた事は言うまでもない。 その証拠に、彼女の表情は実に楽しそうだ。

「そうよ!!海なんて。。。。さては雪菜の水着姿を。。。。なんて。。。。なんてエロオヤジなのーーーーーー!!!!!もう許せん!!!」

何故海と言っただけで其処まで飛躍できるのか。。。過保護ぶりに拍車が掛かっているまどかに、げんなりと溜息を着きながら、早く出て行ってくれと 思う乖吏だった。。。。。が、そうはとんやが下ろさないらしい。

「何逃げようとしてるのかしらぁぁぁ〜〜〜!!!???アンタも来るんのよ!!!」
「なんでだ!!!」
「兄の不始末は弟の不始末でしょーが!!!!!!」

まだ不始末と決まった訳ではないが、今の彼女にそれを説明しようとした所で無駄である事は一目瞭然だ。 来なきゃ殺すと後押ししてから、まどかは豪速で走っていく。気温35度の暑苦さを物ともしないその姿に、乖吏は一番アブナイのは絶対コイツだと 確信した。

「んじゃ、僕らも行くとするかね?あの様子じゃあ早くしねーと兄上が血の海に浮かぶかもよ?」
「ったく。。。なんで俺が。。。」

何処までもマイペースな弥の、シャレにならない冗談に、乖吏は今日何度目になるかも知れない溜息を吐いた。 関わりたくないと思えば思う程、周りはそれに逆らう様に動いている気がする。もう後はどうにでもしてくれと半ばヤケクソに なりつつある乖吏に弥は何を思ったのか、愉快そうに口を切った。

「けど、アンタがそんなに兄思いだったとはねぇ〜?」
「。。。。。何が言いたいんだ?」

弥は普段あまり喋らないが、その台詞には必ず一皮も二皮も裏がある。誰もが、駒を幾つも動かさない内にチェックメイトされてしまうのだ。 そんな彼女に話し掛けられるのは元より珍しい事なのだが、嫌な予感は否めない。

「いや、只、兄弟の恋路を態々助けてあげる程良い奴だとは知らなかったからな。」
「無理やりだ。別に好きで首を突っ込んでる訳じゃねーよ。」

宍道が雪菜に惚れている事は、鈍感な彼女自信が気付かないだけで、周囲の者からは一目瞭然だった。 よって、まどかは兎も角、絶対何か裏があると踏んでいた弥には乖吏が雪菜を誘った理由は直に理解できて。 それに弁解をしようとも。。。。する理由も見つからなく、乖吏が会話を中断させる為の答えを返すと、弥は待っていたように 口を開く。

「それ聞いたら雪菜、泣くだろーな。」

。。。。。。。。。。

明らかに動揺した乖吏の姿に、態と気付かなかった振りをして、弥は彼の側を通り過ぎる。 「まぁ、泣いた顔も可愛いんだけどな。」などと 言う危ない発言も、もはや彼の耳には届かった。

相変わらず嫌な所ばかり突いて来ると思う。弥の言った台詞が、何を意味するのか解らないほど乖吏は鈍感ではない。 実際に、雪菜の気持ちには遠からず気がついていた。。。。というより、気がつかない人間がいればそいつは相当鈍いに違いない。 それほどまでに彼女は解り易いのだ。だけど。。。。。

「何考えてんだか。。。。俺は。」

考えようとすれば、どんどん罪悪感に飲み込まれて行くようで。乖吏はかぶりをふって 思考を切り替えた。
雪菜の事は嫌いではない。嫌いな人間に、彼が関わる筈もない。
只、初めて彼女を見た時に起こした気まぐれの所為で、彼女が乖吏を好きになったのなら、 それは勘違いという事もあるだろう。
雪菜の思いは何時だって酷く真っ直ぐだ。何も望まない。。。そんな、 どこかの純愛小説みたいな思いに、乖吏は答える事ができなかった。けれど、突き放す事もできないのだ。 今までいくども手ひどく女性を振っておきながら、笑える話なのだが。
雪菜を恋愛対象に見る事は彼にはできなかった。 尤も、恋愛対象などと言う物が、彼に存在すればの話だが。。。

今のままが一番良いのだ。彼女にとっても、自分にとっても。。。。

卒業すれば、会う事もなくなり、彼女は自分を忘れるに違いない。そう自分に言い聞かせた刹那、 心のどこかが急激に冷えた気がしたけれど、彼は黙過するしかなかった。





(すっ。。。。。。凄い人ですね〜。)

予想はしていたものの、目の前に広がる人の波に、雪菜は眩暈を覚えつつ宍道に言った。勿論、 この時点で雪菜の会話手段は手話になっている。

「あ〜うーーーーん。そうだね。私もここまで凄いとは思わなかったよ。」

流石に似た者同士である所為か、宍道も人ごみには弱かったらしい。しかも、彼の場合、此処に着くまでの間、 三度も男性にナンパされている。しかも、一目みれば男だと解る海パン状態なだけに、アブノーマル度は上昇する一方だ。

「でも、まぁ、これもハワイの一興かな。。。なんてね。雪菜ちゃんは着替えないのかい?」

出かける時既に着替えていた宍道とは違い、雪菜の姿はライトブルーの半そでワンピースだった。スカートのフリルが実に彼女に合って愛くるしいが、 ビーチに来る格好ではない。断じて水着を見たいなどと言う下心があった訳ではなく、宍道は只純粋に疑問を持って問うた事なのだが、 雪菜はぽっと頬を染めてから恥ずかしげに、

(おっ。。。。。。泳げないのです。)

と答えた。

あぁぁぁ〜〜可愛い!!!!可愛すぎる!!!!!(T▽T)

その姿に、又もや感涙の涙にむせ返る宍道。どうやら可也つぼに嵌ったらしい。既にポーカーフェイスを作る事も不可能になってきている。 そしてそれを見計らったように絶妙なタイミングで何かが風を切った。

何鼻の下伸ばしてんのよこのエロジジィーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

(まっまどかちゃん????)

辛うじて雪菜がそれの正体に気がついた時、彼女の蹴りが既に宍道の脳天に炸裂していた事は言うまでもない。

「あれ?遅かったみたいだな?ご愁傷様。」
「げっ!!!兄さん!!しっかりしろ!!!!」

直後に走りよってくる相変わらず危機感の欠片もない弥と珍しく慌てている乖吏。そして、 おろおろする雪菜を、満足げに抱き締めているまどかの横で、宍道は情けなくも伸びていた。

「あぁ〜〜〜雪菜!!!無事だったのね!!!!もう良かったわぁぁぁ〜〜!!!もうあんな変態に黙ってついて行っちゃ駄目よ!!!」

濡れ衣の上に、まどかの殺人キックを食らい、挙句の果てに変態呼ばわりされてしまう宍道。
とことん報われない男である。
君に幸あれ。(笑)



ハワイって13時間も必要でしたっけ?(^^;)カナダまでは15時間ですけれど。。。。

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