Chapter27: 『 人魚の歌 』



「。。。。。。疲れたぁ〜。。。。」

ぱふっと力なく雪菜はべっとに倒れこんだ。なんとも皮肉な形で声を取り戻してから、 周囲は自分でもついていけない程慌しかったからだ。波江さんには号泣されながら抱きつかれ、弥とまどかには、電話で知らせた3分後に家に押しかけられた挙句、盛大に深夜までパーティーに付き合わされた。勿論、雪菜自身は喜んでもらうと素直に嬉しい。大切にされていると解るからである。けれど、正直、振り回されてへとへとだった。それに、彼女自身、それほど喜べないのである。

(うぅ。。。。最悪。。。。)

一人になると、忘れていたかった事実がはっきりと脳裏に蘇ってくる。よりにもよって、 尤も声で伝えたかった事と、正反対の台詞を言ってしまったのだ。乖吏は気にしていないのかもしれないが、雪菜自身は最大の自己嫌悪に陥っていた。

大好きな人に、嫌いだと言ってしまった。
誰にも、言った事はないのに。。。

何故そんな事を言ってしまったのかは、自分でもよく解らないのだ、只、頭が 真っ白になって、気がついたら口から出てしまっていたのである。

(ひっく。。。。嫌われたかなぁ。。。。)

考えはどんどん悪い方向へと向かってしまい、地底の奥深くに沈んでしまいたい程だ。明日は卒業式だって言うのに、こんな状況のまま別れる事になるなんて。。。せめて、笑顔で別れを言いたかったのに。。。

何処までも留まる所なく落ち込んでいた雪菜は、ドアをノックする音が聞こえてむくりと 起き上がった。

「雪菜ちゃん、寝ちゃった。。。?」
「波江さん。。。?あれ、戻ったんじゃ。。。。」

開けたドアの前に立つ、もはや狭い部屋のドアには収まりきれない程の巨体を見て、雪菜は驚いて瞳を見開いた。合鍵を持っている彼女が、家にいるのは不思議ではない。だが、てっきり帰ったものだと思っていた雪菜は、なにやら深刻そうな表情をしているその姿に 怪訝そうに首をかしげた。

「ええ、そうなんだけど、雪菜ちゃん、元気がないみたいだから、心配で。」
「あ。。。ごめんなさい。」

しゅんっと項垂れた雪菜の頭を、波江さんは優しく撫でた。ドアから辛うじて腕をのばし、 グローブ以上もある手を雪菜の頭に載せる様は、他者からみれば可也おぞましい光景かもしれないが、麗しいコミニュケーションの一コマにそんな突っ込みを入れてはならない。

「謝る事ないわ、でも、前、本家の話を聞きに来たでしょう?だから何かあったんじゃないかって心配で。」
「ううん、違うの。。。。なんにもないよ。」
「そう。。。それなら良いんだけど。。彼方は故巳君に良く懐いていたものね。最後まで離れたくないって駄々こねて。」
「。。。。」

なんだか懐かしそうに回想に入る浪江さんに、雪菜はなんとか頑張って笑みを浮べた。 あの頃と、今の自分はそんなに変わったとは思えない。故巳の事は、やはり嫌いにはなれないのだ。かと言って、異性として好きだと言う訳でもないけれど。

「あのね。。。私。。。。。。。」

此処で話に登ったのも、また運命なのかもしれないと、雪菜は小さく溜息をつくと、自らの決意を彼女に伝えたのだった。








TRRRRRRRR.........

「はい、もしもし。」

「。。。。。。」

「。。。。?どちら様?」

「故巳お兄ちゃん。。。」

「!!??」

「。。。まだ、必要だって言ってくれる?」








イライライラ。。。。。。

のどかな新春の、晴れやかな蒼天の下で、今正にめでたく卒業を迎えようとしている我らが主人公、浅葱乖吏は。。。。。。どうやら、既に切れ掛かっているようである。
名前すら知らない女生徒に、朝から泣きつかれたり、珍しく正装なんかした為に、フラッシュの嵐に巻き込まれたり、長ったらしい卒業式中、遠くから馬鹿兄が泣きながらハンカチを振ってきたりと、苛立ちの原因は幾らでもあるが、彼が不機嫌である最大の理由は、それらではなかった。

(ち。。。この俺から逃げようなんて良い度胸じゃねーか。)

卒業式には、絶対出席するだろうと思っていた雪菜の姿が見えなかったからである。 何故自分でも其処まで苛立つのか解らないが、第一声で嫌い宣言をされてしまい、自分でも信じられない程衝撃を受けたのだ。はっきり言って彼女の口から声が出たと言う事実よりも驚いた。雪菜が誰かに対し、反感を述べる事など滅多にない。。。いや、ともすれば自分は第一号かもしれない。。。そう考えると、ますます乖吏は苛立った。

「今日で別れか。。。。。いや、そんな事はない!!!友よっ!!!僕は君の事を永遠に忘れはしないだろうっ!!!さぁっ、別れの抱擁を!!!」

バキッドカドゴッ!!!

丁度良い所にサンドバックが。。。。の如く、溜まりに溜まった鬱憤を保一で晴らす 乖吏。結局、ラストまで彼は変態キャラで終ってしまうようだ。

「浅葱先輩〜!!写真取ってください〜!!!」
「げっ!!」
「いやー、最後まで色男だねぇ。」
「うるせーよ。」

相変わらず不必要にボリュームのデカイ声で、遠くから駆け寄ってきたのは、三田村恭子だ。そういえばこんな奴がいたななどと今更 思い出しつつも、踵を返してさっさと逃げ去った乖吏に、保一は腹を抱えて笑った。

「むぅぅっ〜!!!!最後まで逃げられたぁぁぁ!!くやしいぃ〜!!」
「まぁまぁ、恭子ちゃん、あんな性格悪い奴辞めて俺にしない?」
「変態はイヤです。」





「あれ?ボタンむしりとられなかったんだ?」

学ランじゃあないんだから、普通はむしりとられない物だろうと思いつつ、乖吏はげんなりと優雅に噴水の脇に座る令嬢。。。弥の姿を見た。その横では、まどかが仁王立ちで立っている。

「雪菜、来なかったわ。今日。」
「。。。。。俺に聞くなよ。」

ピリピリと、何故だかまどかは暗殺者オーラーを漂わせている。そんなのこっちが聞きたいと思いつつも、乖吏は無難な答えを選んだ。そんな事をしなければならないのも今日が最後であると考えると、それほど苦にならない。

「あんたねぇ。。。また何言ったのよ!!悔しいけど、雪菜の声が戻ったのは、アンタの所為なんでしょ!!??それなのに、今日来ないなんて絶対おかしいわよっ!!」
「何も言ってねぇよ。」

確かに何も言ってないのは事実だ。

「言ってない方が不味いけどな。」

相変わらず真実を得ている弥の一言は、耳に痛い。自分でも解っている事実に、どういう意味か。。。と、愚かしげに問い返す事はできなかった。
けれど、例え、プライドの壁を全て壊し、百歩譲ってその感情を認めたとしても、言葉で伝える術などしらないのだ。

「ついでに、なんだっけ?結婚サギのお兄さんも来てないみたいだし?」
「誰よそれ。」
「。。。。。こっちの話。」

まどかの怪訝そうな問いに、弥はニヤリと不敵な笑みを浮べる。何故其処まで知っているんだと問いたい所だが、急に嫌な予感がして、乖吏は慌ててその場から走り去った。

「何よアイツ、急に慌てて。」
「若いねぇ。。。あっ、そういえば、まどか。雪菜からメール来てんだよ。」
「なんでアンタだけに来んのよ!」
「まどか、堪忍袋がないからな。」

蒼空の下、まどかの怒鳴り声が響いた。言っている側からこれである。





「あら、慌てて、何処行くの。」
「。。。。。アンタには関係ないだろ。そっちこそ、アンタの義弟はどうしたんだよ?」

校門の近くにて、真赤なルージュをした、女教師に呼び止められた乖吏は、カマを掛けるつもりでそう問いただした。だが、女はその問いを待っていたかの様に笑みを深める。

「最後まで冷たいわね、本当。あの子なら本家に戻ったわよ。。。。。雪菜と一緒にね。」
「なっ!!!??」
「勘違いしないでよ、あの子は自分で戻るって言ったのよ。よっぽどショックだったのねぇ〜。。。。彼方と私のキスシーンが。」

勝ち誇った笑みを浮べる故巳への怒りよりも乖吏は背筋にぞくりと寒気を感じた。 雪菜の反応も、今なら納得できる。。。。けれど、利用されると解っていて、故巳に着いて行くなんて、信じられなかった。

「肩の荷、降りたんじゃない?あの子といると疲れるでしょ?」
「。。。。。ちっ。。。。」
「あっ、今行っても間に合わないわよっ!!!」

踵を返した乖吏に、知美が叫ぶ。だが、彼はまるで聞こえない振りをして、 その侭走り去った。





何故これほどまで焦っているのか、自分でも解らなかった。

いや、撤回しよう。。。。解っているのだ。けれど、認めたくないだけで。。。



いや、それも撤回。。。。。。。


認めるから。

どうか。。。。

「。。。。。。。。。」

チャイムを鳴らしても出る者はいない。雰囲気で、留守ではない事が解ってしまった。 人が良いのにも、限度がある。。。それとも、故巳だから、利用されても良いのだろうか?

不安が心を支配して、酷く居心地が悪かったが、もはやそれを否定する気にはなれなかった。嫉妬するのも、苛立つのも、結局、雪菜が大切で仕方ないから。こんなにも時間の掛かった答えは、愚かしいまでに単純な事。

今さら遅いか。。。。

嫌い宣言されてしまった訳だし。
自嘲気味にポケットに手を入れた乖吏は、なんとなく携帯を取り出した。新着メールが来ている事を発見し、送信者も確認せずに開いて、彼は硬直した。


-----――――――ごめんね、今まで有難う。

             大好き。――――――-------------
Yukina




エピローグ>>>>

すみません。。。。急いで書いたのがバレバレ。。(汗)

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