| Chapter25: 『 思いの結末 』 |
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裏切られたと言う憤りは無かった。だって、これは裏切りではない。 遺産横領など、口に出して誰が言えようか。 父親の借金に苦悩していた彼を知っているから、怒りなどよりも只胸が痛くて。 遺産なんて、必要ない。 利用されるくらい構わないから。 お願い、その笑顔が、言葉が、嘘だなんて言わないで。 「急にどうしたんだい?雪菜。。。」 いつもの様に向けられる笑顔に、涙が溢れそうになって、雪菜は俯き、ポケットから折りたたまれた紙切れを差し出した。薄茶色に汚れたそれは、知美から貰った新聞の切れ端。 故巳は怪訝そうにそれを受け取り、ゆっくり目を通した。 「そっか。。。。。全部解ってしまったんだね。」 最初の刹那だけ、一瞬瞳を見開いた故巳だが、それを読み進める内に、すぅっと表情が無くなって行く。やがて、一通り読み終えると、再びその顔に笑みを浮べて、紙をビリビリに破った。絶望したような、深く、悲しい笑顔に、雪菜は心を貫かれるような痛みを覚えて、思わず両手を胸の前で握り締める。 (どうして。。。?) 聞くのは酷だと解っていながら、雪菜は尋ねる事を止められなかった。何故、その方法を取らなければいけなかったのか、そこまで追い詰められていたのか、どうして最初から言ってくれなかったのか。。。。。それらを全て含めた『何故』だった。 「どうして?。。。言っても解らないよ。君と僕じゃ、違いすぎるからね。。。。。。知らない間に、何をしなくても、自然に救いの手が差し伸べられて。。。。。。何も苦労を知らずに育った君に、僕の何が解るって言うんだ!?」 刹那、声が豹変した故巳に、雪菜はびくりと後ずさった。故巳の笑顔は嘲笑じみた物になっており、向けられた瞳は、じりじりと、怒りの火の粉が舞う様だった。体の震えが止まらなくなり、 雪菜は思わず自らの体を抱き締めた。 怖い。。。。。。。。?? 違う、圧倒的に支配する感情の正体は悲しみだ。 でも、泣きたくない。。この状況で泣いてしまうのは卑怯だから。。。 「ごめん、言い過ぎた。。。。」 必至に涙を堪える雪菜の姿に気付いて、故巳は我に返ったように声を和らげた。そして、 彼女から視線をそらすと、眼下に広がる町光を、酷く遠い眼差しで見つめて、むしろ己に言い聞かせるように話始めた。 「僕は、ずっとお爺様に認められたかったんだ。。。。けど、あの人は最後まで、僕を父さんの息子としか見てくれなかった。。。。。」 酒とギャンブルに溺れ、借金まみれな父。祖父の前では、膝を折り、金をせがむ事しかできない堕落した惨めな男。その息子なのだと、まるで汚物を見るような目を向けられてきた。。。。その屈辱と、苦しみに比べれば彼女の受けてきた仕打ちなんて。。。。。 其処まで考えて頭を振る。 「あの人が本当に気にかけてたのなんて、雪菜ぐらいだよ?一体何したんだい?」 そう問いかけた故巳の表情は、笑顔ではあったが、雪菜はぞくりと這い上がった悪寒に一歩後ろへ後ず去った。困惑の所為で上手く働かない脳裏で、必至に彼はどんな答えを求めているのだろうと考える。 「それでも、少しは皆希望をもってたよ。。。。遺言書を盗み見るまではね。」 其処で故巳は一旦台詞を区切り、雪菜を見た。彼女は視線をそらす事なく彼の瞳を 見詰めている。両手をしっかりと胸の前で握り締めたまま。。。。その清んだ瞳に、責められているような気がして、故巳は拳を握り締めた。 「あんな。。。馬鹿な話があるかい?君独りに財産すべて残すなんて。。。お金なら。。。良かったよ。僕は。。。。。けど、結局あの人は僕らの事などこれっぽっちも考えてなかったんだ!!!!!」 耐え切れずに叫んだ故巳に、ちがう。。。。。っと、声に出して言えるものなら言いたかった。何時しか祖父が言った事を覚えている。 『わしの子には、皆自分の力で立ってほしいんじゃよ。』 確かに、祖父は考えていたのだ。只、それを上手く伝えることができなかっただけ。 金銭を援助しなかったのは、成人した子供に、甘えさせてはいけないと、そう思った祖父の判断だったのだと。。。。。だが、上手く説明する事ができなくって、雪菜は只、頭を振るしかなかった。 「何が。。。違うんだろうね?雪菜。」 冷え冷えする声で言われ、雪菜はぶるりと身を震わせた。それでも、勇気を振り絞って言葉を紡ぎだす。 (私の。。。。。。所に来たのは。。。。?) 最後の望みをかけて、雪菜はたずねた。 「君を連れて帰る為だよ。。。。。なにせ、本当の相続人は君だからね。君さえ承諾すれば、問題は何もない。養子に入るか、僕と一緒になるか。。。証言をしてくれるだけでも良かった。。。。利用の仕方は、色々あった。」 すらすらと、まるで当然の案をだとでも言うように話す故巳の言葉を、雪菜は只黙って聞き続けた。 「受験の事以外で嘘はないよ。僕には確かに君が誰より必要だよ。父さんや母さん。。。あの女にとってもね。結局僕は父さんを見捨てる事はできないんだ。。。あんな父さんでもね。」 もはや、故巳の声からは、何の感情も読み取れなかった。雪菜は、暫く彼を見詰めた後、そっと瞳を伏せる。胸元で組まれていた指が、痺れたように感覚を失っていた。不意に、頬に触れる手の感触があり、雪菜はびくりと顔を上げた。そして、視界の中で、無機質な故巳の双瞳を捕えたと思った次の瞬間、突如訪れた息苦しさと共に、視界が暗くなった。 (。。。。。。。。い。。。。や!!!!) 記憶の糸を辿って、ようやくキスされているのだと認識した瞬間、雪菜は故巳の体を力一杯突き飛ばそうとした。が、反対に強く抱き締められて、身動きが取れなくなる。ようやく解放された時、雪菜は肩で息をしながらへなへなとその場に座り込んでしまった。そんな彼女の頭上から、故巳の声が降りかかる。 「今言っても信じられないかもしれないけど。。。。君を愛してるって言ったのも、嘘じゃないよ。できる事なら。。。こんな事したくなかった。。。。けど、生きる為には、仕方なかったんだよ。」 仕方なかったと片付けるには、余りにも身勝手であると解っているけれど、 結局、愛情が金銭に勝てる訳はないのだ。生きるのに必要なのはどうしたって前者なのだから。 「ごめんね。さようなら。雪菜。」 立ち上がる力もなく、顔を両手で覆った雪菜を暫く見詰めた後短く言い放ち、故巳は、振り返る事なく彼女の横を通り過ぎた。 雪菜はきっと深く傷ついたのだろう。。。そう思った瞬間、罪悪感を上回る狂喜が胸を占る。憎しみと言う感情が、彼女にあるとすれば、向けられるたった一人になりたいと思った。 ゥ 一瞬、本気で殺してやりたいと思ってしまった。 雪菜と故巳がいた場所からやや離れて、乖吏は彼らしくもなく隠れていた。 いや、隠れていたと言うのは正しくないかもしれない。只単に向こうから見て此方が 死角なだけである。 雪菜の捜索は、思ったよりも難航してしまい、彼がその姿を発見した時、 彼女は既に故巳と対峙していた。此処で自分が止めに入るのも、非常に場違いな気がして、 乖吏は黙って見守る事にしたのである。。。。。が、聞けば聞くほど(と言ってもこの距離では、大体しか解らないが)故巳の言い分は勝手を通り越してもはや万死に値いする物で、他人の事で怒りを覚える理由などないと自分に言い聞かせつつも、溜飲は激しく上昇して行ったのだった。 (普通あそこまで言われたら絶対一発ぐらいお見舞いするだろ。) 己の経験を思い返し、どうしても腑に落ちない乖吏。 。。。。。記憶とは悲しい物である。(爆) が、其処までなら百歩譲ってまだ良いのだ。。。。。故巳があの行動に出さえしなければ。飛び出さなかったのは、理性との格闘。プライドの死守。その所為で、今絶大なる後悔と罪悪感に狩られているのは、自業自得だと解っているのだが。 が、 。。。。。。。。。。。。 なんで俺が悩まなきゃならねーんだ!! 内心逆切れしても仕方ない。なんでなんでと最近頻繁に己に問うようになった質問には、 相変わらず答えが出る筈もなく。。。。。 改、出せる筈もなく。取り合えず深く考えるのは止めようと、乖吏は故巳が居なくなった場で相変わらず座り込んでいる雪菜に視線を向けた。 何時まで座ってるつもりなんだアイツは。。。 約10分はその状態である。幾ら人の通らない場所だとしても、未だ肌寒いこの季節に、 地べたに座るのは不味いだろう。。。せめてベンチがあるんだからそっちに座ってくれと心から願う乖吏であった。 。。。。。。そして30分後。 まだ座っている雪菜に、乖吏の元より乏しい忍耐力はそろそろ限界に達しようとしていた。 が、此処で出れば、彼女は間違いなく自分を避けて逃げようとした挙句、下手したら手すりから落ちかねない。。。。いや、それは幾らなんでも飛躍のし過ぎかもしれないが、今の雪菜が誰とも会いたがらないだろう事は予測できた。 。。。。。。。。して、さらに1時間後。 相変わらず微動だにしない雪菜に、このままでは一晩中座りかねないと判断した乖吏は、盛大なるため息を吐いて近づいた。 既に忍耐力の限界は等に超えていたが、流石に今怒鳴っては不味いと自らに言い聞かせて できるだけ柔らかく話し掛ける。 「何時まで座ってるつもりなんだ。お前は。」 目の前に屈んで言ってやると、びくりと大きく体が震えて、雪菜は恐る恐る面を上げた。 そのまま逃げ出されるかと思ったが、彼女は座り込んだまま、怯えた瞳で見上げてくるだけで。濡れた小動物のようなその姿に、酷く心が疼いた。 「ったく。。。。取り合えず立て。」 そう言うと、彼女はこくりと頷くが、行動に移す様子はない。心此処にあらずといった所なのだろう。仕方ないのかもしれないが、何分忍耐力に乏しい乖吏が、これ以上 我慢できる筈もなく、彼は小さく舌打ちすると、ひょいと雪菜を抱え上げた。 (え!?きゃっ!??は、はなして〜〜〜!) 途端にじたばたと暴れ出した雪菜を無視して、そのままベンチに腰を下ろす。当然、膝の上に座らされる形となった雪菜は恥かしさで首筋まで真赤になった。それでも逃げ出そうと死力を尽くす雪菜だが、やはり無駄な足掻きで。故巳の時と同じように、腕で拘束されて動けない。その状況が何故か酷く悲しくなって、瞳からぼろぼろと涙が溢れた。 どうして、此処にいるのか、何処から見ていたのか。 どうして、そうやって抱き上げたり、キスしたりするのか。 優しかった故巳の言動と、不可解な乖吏の行動の数々が頭の中でぐちゃぐちゃと掻き混ぜられる。 最後に見た故巳の、冷たい瞳が、何時しか見た乖吏の瞳と重なる。 本当は、思いたい。。。。優しさに偽りなどないと。例え、表面上で飾り立てられただけの物だとしても、只その刹那は、本当に嬉しかったから。 だが、どんな努力をしても、呼吸すら苦しい程に心は痛んで。最初から、放っておいてくれれば良いのにと、何処かが叫びを上げるのだ。 溢れ返る胡乱とした感情を、どうしたら良いのか解らずに、雪菜が泣きじゃくっていると、不意に頭上から酷く疲れたような溜息が聞こえた。 「頼むから。。。泣くなって。。。。」 雪菜が恐る恐る顔を上げると、乖吏は片手を額に上げて、珍しく項垂れていた。何処か途方にくれた様な瞳が、ますます彼らしくない。 「ガキの子守は好きじゃ。。。。。。」 言いかけてはっと口を噤ぐむ。条件反射の如く雪菜は両手で顔を覆って、これではおもいっきり逆効果である。解ってはいたが、本当に助けを求めたい気分だった。 悪意は当然全くないのだが、誰かを慰めるのが、余りにも不得意な故。 せめて、雪菜がもっと図太い神経の持ち主であれば、此処まで心労せずとも済んだのかもしれない。。。。。それはそれで、気にも止めない可能性もあるが。 どうしろってんだよ。。。。 誰ともなく毒づきながら、乖吏がまたもや溜息を吐くと、雪菜は慌てて両手で涙を拭う。 どうやら、泣き止もうと努力をしている様だ。 傍から見れば、一方的に苛めていると勘違いされかねない光景だろうと乖吏は思った。いや、もはや過去の経験からして百パーセント勘違いされると断言できる。 。。。。。しかし参った。 この際放っておいて帰った方が良かったか? 今更後悔をしつつ、それができれば最初から追いかけていない事も、解っている。 拷問と例えても過言ではない程追い詰められたこの状況を、口で切り抜ける事ができない乖吏に残された道は、行動のみだった。 火に油のになってしまう気がしないでもないが。。。 「。。。。。。。。雪菜。」 名前を呼ぶと、素直に顔が上げられる。一瞬余りに無防備なその表情に戸惑った乖吏だが、涙に濡れている頬を逃げられないよう手で掬って、深くその唇に口付けた。 困惑か、怯えか、雪菜の震えが、抱き締めた体越しにはっきりと伝わる。だが、もはや行為を止めるべきかもしれないと言う思考も、選択も残されてはいなかった。 ちろりと僅かに開いた口内に舌を滑りこませると、びくんと大きく体が跳ね上がる。 それをあえて無視し、逃げ回る舌を強引に絡め取った。此処らへんは、やはり経験の違いが物を言う訳で、みるみる内に雪菜の体から力が抜けて行く。 そろそろもう良いか。。。。 。。。。。と思うが、なんとなく。。。。止められない。 震えながらも、ぎゅっと服を握り締めてくる手とか、冷たい頬の感触とか、慣れきっている筈の行為に、これほど執着してしまうなんて。。。。。 どうかしているのかもしれない。 ゥ 唇が離れると、雪菜は力なくへなへなと乖吏の胸にもたれかかった。もはや 思考回路は、困惑と混乱の限界値突破により、 完全に全ショートしてしまい、何も考えられない。只、不快感はなく、むしろ朧気な意識の中で、雪菜は不思議と安息していた。 「。。。。。。。落着いた?」 落着いたというよりは、魂を抜かれたに近いのかもしれないが、無意識の内に雪菜はこくりと頷いた。もはや、彼女が頷くのは本能に近いのかもしれない。 また。。。キスされてしまった。それも、只落着かせる手段だけに。泣き止めなかった 自分が悪いのかもしれないが、そんな事をされて平気でいられる筈がない。 心臓もたないよ。。。。。 徹底的に突き放したかと思ったら、急に構ってきたり、一体どう受け取れば良いのか解らない。彼特融の気まぐれだろうと思いつつ、怒る事もできずに、 雪菜はいつも振り回されるしかないのである。まさしく惚れた弱みという奴かもしれない。 とくとくと、心臓の音が聞こえる。必然と、安心をもたらすその鼓動は、同時に切なくて、 雪菜は、ぎゅっと乖吏の服を握り締めた。 何時だって、必要としているのは、自分だけで。 腕を開いて、受け入れられて初めて安心できる。 此処にいても良いんだって、思えるようになる。 だけど、それだけでは、やはり心もとないのだ。故巳に、必要だといわれた時 嬉しかったように、誰かに求められて初めて、安定するのかもしれない。でも。。。 (どうしたら。。。良いのかな。。。。) 又もや涙腺が緩みそうになると、不意に強く抱き締められた。彼には、何時も考えが 筒抜けな気がする。気まぐれな優しさに耐えられる程、精神力は残っていなかったけれど、 麻薬の様なそれを、拒否する事は、もっと不可能だ。 (。。。。。。好き。) 恐る恐る両手を彼の背中に回して抱きつく。怒りも、戸惑いも、全て掻き消す程にその思いは強くて。結局、今回も、何時もの如く流され、手なずけられてしまったようだ。 月を好き勝手に覆い隠していた雲が、興味を無くしたかのように移転していく。 卒業まで、残り一ヶ月を切った夜だった。 |
| 毎回エロエロ魔王の誘惑に打ち勝つのに必至です。(爆) 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆)<2002年でお願いしますー。 <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |