Chapter22: 『 Wanderers 』



不味い事を聞いてしまった。それは違いないだろう。
もし、只の勘違いだった場合、自分は一気に悪人だ。。。。。まぁ、それは今さらな気もするが、もし、故巳の行動に裏があった場合も、雪菜は間違いなく傷つく。 こんな面倒な事には関わらないのが一番だが、そうできる筈もなく、乖吏は内心深々と溜息をついた。要領の悪い人間ではなかった筈なのだが、どうも雪菜と関わると調子が狂う。

さて、どうしたものか。。。。

「。。。。で、どっちが良いと思う?」

考え事をする内、無意識に教室に戻ってしまった乖吏は耳に届いた保一の声に、誰かいるのかと思いつつ顔を上げて。。。眉間に皺を寄せた。

「なんでいるんだ。」

其処には、正しく彼の悩みの種である人物が座っていたからである。しかも、保一が持ってきた「こすまる☆MANIA」という、題名だけでも 怪しい雑誌を見せられている。ちなみに、雑誌の内容はうさ耳、ねこ耳と言ったコスプレ対する情報誌だ。まともな人間は 買おうとしないだけにプレミアが付く程に珍しいらしい。ちなみに保一の場合、殆どの情報誌を手に入れている 為、そっち専門の趣味があると言う訳ではない。。。事を祈ろう。

「今のブームとしてはやっぱり犬耳なんだよね〜。可愛いよ〜、着てみる気ない?」
「フザケンな。(怒)」

乖吏の出現にも動じる事なく、雪菜にコスプレ衣装を奨めようとする保一に、乖吏は額に青筋を浮べながら即効で 雑誌をゴミ箱に投げ入れた。

「あれ?戻ってきたんだ?」
「煩い。」

乖吏の機嫌悪さを楽しむかのように、保一は大げさに肩をすくめてみせる。実に態とらしい。。。。いや、絶対態とである。思わず殴ってやりたい衝動に駆られた乖吏だが、 態々相手にする事もないと思い直し、雪菜に声をかけた。

「お前はなんで此処にいるんだ?」

普通に尋ねたつもりだが、雪菜は何故かぼぼぼぼぼっとと勢い欲顔を赤らめて俯いてしまう。可愛い。可愛いがまだ何も言っていない。

(今日。。。。来てるって。。。。聞いたから。。。。。会いたかった。。。の。。

戸惑いがちにそう書き出して、雪菜は更に首まで赤くなった。 何処までも純粋な振る舞い。けれど、それは 乖吏の胸に、苛立ちとも、焦燥感ともつかない感情を巻き起こした。
あの時と同じだと思った。自分がどんなに酷い事をしても、微塵も疑わない雪菜。 それでいて、何処で泣いているか解らない。。。。

「乖離君、今君は、胸にひしひしと熱い思いを感じているだろう!?そうとも、それが 『萌え』という感情なのさ。恥かしがる事はない!!さぁ今こそこの週間『萌え連合。。。」

バキィッ!!ドゴッ!!!ゴスッ!!!!!

(きゃぁっ!!!だっ。。。だだだ大丈夫。。。)
「近づくなっ!!雪菜、行くぞ!!」

シリアスな思惑を悉くぶち壊した保一の、変態紛いな台詞は、終らぬ内に 乖吏によって強制的に止められる。とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。今度は可也長かった方だ。心配して駆け寄ろうとする雪菜を無理やり連れ出してから、乖吏は 勢い良く教室のドアを閉めた。





(怒ってるの。。。?)

廊下にて、あからさまに不機嫌が顔に出ている乖吏を雪菜は不安げに見上げた。 やはり勝手に来てしまったから怒っているのだろうか。。。

「別に怒ってない。」
(ぜ。。。絶対怒ってるよ〜〜〜。。。)

そんな彼女の心境を察してか、乖吏は無愛想に返事を返したが、声が既に怒りを含んでおり、雪菜は頷きつつも、内心可也怯えていた。

「。。。。。。お前の。。。」
(???)
すると、乖吏は急に片手を額に当てて、苦難めいた表情を作った。何かを言いかけては 止める事を何度も繰り返し、溜息を吐く。非常に彼らしくない行動に、雪菜はパチパチと 瞬きを繰り返した。

「従兄。。。気をつけた方が良いんじゃねーの?」
(??な。。。何を???)

言われた台詞の意図が掴めずに、雪菜の顔に困惑の色が浮ぶ。その反応に 乖吏は小さく舌打ちをした。恐らく言っても理解できないだろうと解ってはいたが、苛立ちは抑えられない。大体雪菜は鈍すぎるのだ。いかにも下心ありげな眼差しを向けられて何故気付かないのか。

「あのなぁ。。。考えればいかにも怪しいだろ!受験に来たとか言っておきながら四六時中お前に付き合ってる暇があるなんて。」
(!!)

はっと気付いた様に、雪菜の瞳が見開かれる。だが、それは故巳に対する疑惑ではなく、 今までその事実に気がつかなかった自分に対する後悔だった。

(きっと、故巳お兄ちゃんは優しいから。。。私が寂しくないようにって。。。)

じわりと涙腺が緩む。泣きそうになりながら、そう書き出した雪菜に、乖吏はもやは絶句するしかなかった。他人の汚点しか目に付かないのは問題だが、美点しか目に付かないのも性質が悪い事この上ない。その上、『優しいから』と言う単語がもはや自分に対する当てつけの様に思えてしまい、急激に苛立ちが湧き上がる乖吏だった。

「っ。。。。そーかよ。だったら勝手にしろ!」
(ひゃっ!?)

急に怒りを向けられ、雪菜は困惑と衝撃でびくりと身を震わせた。必至に頭を回転させるが、何処にも彼が怒る原因は無い様に思えて。それでも、そのまま踵を返して去って行こうとする背中を、雪菜は無意識の内に引き止めていた。

只、行かないで欲しかった。
後少しだけなんて考えたくない。
ずっと行かないで。。。。。。

「お前な。。。。」

そんな目で見るなよ。。。と乖吏は内心で溜息を吐く。雪菜がそんなだから、 何時だって捨てるに捨てられない。

離れられない。




『3年D組の、浅葱乖吏君。至急進路室まで来て下さい。繰り返します。。。』

なんとも居心地の悪い間を救ったのは、乖吏が何時も聞く耳すら持たない呼び出しだった。 流石に、これでは雪菜も引き止める訳にはいかなく、しゅんっと表情を沈ませると、 掴んでいた制服から手を離す。今更自分の取った行動が恥かしくなって、雪菜はぽっと頬を染めて、俯いた。けれど、何時まで経っても、乖吏が立ち去る様子はなく、怪訝そうに 雪菜が顔を上げると、苦難とも、困惑とも取れない表情をしている彼が今だ其処に立っていて。雪菜と視線が合った刹那、ふいっと顔をそらすと、小さく舌打ちした。

「こっちの方が良いだろ?お前の従兄に付き合ってもらえば。たいそう信頼しあってるみてーだしな。」
(???????)

皮肉たっぷりで放たれた乖吏の台詞に、雪菜は頭上一杯にクエッスションマークを 飛ばした。確かに故巳とは信頼し合っていると思うが。。。何故乖吏は苛立っているのか、 その二つの事実がまったく脳裏で繋がらない。そして、その彼女の良く言えば純粋、 悪く言えば鈍感な思考が更に乖吏を苛立たせる。

「もう良い。。。俺は暇じゃねーからな。うっとーしーから教室まで呼びに来るな。。。。。」

歯がゆい感情を抑圧すべく発した言葉は、彼自身思わぬ物で。言い終えてから乖吏ははっと口を噤んだ。。。不味い。。。だが、今更本気じゃない。。。っと言っても 雪菜は信じないだろう。そして先ず、そんな台詞を自分が言えるとも思えない。

うん。解った。ごめんね。

至って無表情に、そう書き出すと、雪菜は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。 ぱさりと顔を隠した髪の合間から、ぽたり。。。と透明な雫が廊下に落ちる。
速く。。。行かなきゃ。。。っと、雪菜はそれだけを考えようとした。絶対に、 何も考えてはいけない。聞いてはいけない。もはや吐息だけで、濁流をせき止めている ダムは崩れそうだった。

「悪い。。。雪菜。。。。」

乖吏の心底困惑した声に、雪菜はふるふると首を振る。彼は泣かれるのが 好きじゃない。迷惑、かけないようにしなくては。。。

でも、また。。。。。うっとおしいって。。。。言われた。

そう思ってしまった瞬間、もう止められなかった。ぶわりと涙が堰を切ったように溢れ出す。伸ばされた乖吏の手を思いっきり振り払って、雪菜はその場から脱兎の如く逃げ出していた。





また、やってしまったと、雪菜が居なくなった廊下にて、乖吏は頭を抱えた。 情緒不安定。断じて認めたくはないが、今の自分を表すとするなら、その単語が一番合うだろう。故巳の事にしたって、考えすぎの可能性もある訳で。第一、雪菜が何処で誰と何をしようが自分には関係ない筈ではないか。
それでも、些細な事に苛立って、傷つけたくてやりたいと思った。結局、彼女の涙に ダメージ食らったのは自分の方だが。。。
女の涙なんて見慣れている筈なのに、なんたってこう毎回毎回、人生最悪の気分にさせてくれるのか。

「人の呼び出しを無視して何処でサボっているのかと思ったら、何こんな所で 哀愁漂わせているのかしら?」

らしくもなく溜息を吐いた刹那、背後から女性の声が響き、乖吏は 驚いて振り返った。

「。。。。何か用ですか?」

振り向いた先にいた新入教師、知美の姿に、内心思いっきり顔を顰めながらも、 表沙汰平静を装って尋ねる。どうでも良いが、とことん敬語の似合わない男である。

「用じゃないわ。呼び出し聞こえなかったの?」

そういえば。。。今更校内放送を思い出す乖吏。 僅か三分前の事だというのに、すっかり忘れていたらしい。

「まぁ、良いわ。貴方には話しがあるの。着いてきて頂戴。」

乖吏の反応に、一瞬顔を顰めた知美だが、直に何時もの端麗な笑顔を浮べると、 くるりと踵を返した。深くスリットの入ったスカートは、実に黄昏を過ぎた 女性教師群の反感を買いそうである。進路用紙はついこの間出した筈なのだが。。。 と怪訝に思いつつも、乖吏は仕方なく後に続いた。





「落ち着いた?」

優しく雪菜の背中を撫でながら、故巳が尋ねる。 わき目も振らず猛スピードで逃げていた雪菜は、途中で故巳に捕まったらしい。 一瞬驚いたものの、彼はすぐさま雪菜を人の居ない場所に連れて行き、泣きじゃくる 雪菜を必至に慰めたのである。少しばかり冷静を取り戻した雪菜は、こくりと 頷いて涙を拭いた。

「じゃあ、何があったのか話してくれる?」

穏やかな故巳の笑みに、一瞬またもや泣きそうになった雪菜だが、我慢して たどたどしく手を動かした。

(私、やっぱり。。まだ。。。。迷惑な子なんだなって、思ったの。)

祖父に引き取られてから、親戚の風当たりが急に冷たくなった。 それは、言葉が話せない自分に対する苛立ちだろうと雪菜は思っていたのである。 天性の障害者ではない為、話そうとする意思があれば、話せるようになる筈なのである。 それなのに、何時まで経っても声を発する事すらできない自分は、酷く歯がゆかったに 違いない。だが、不安が募る程、そう焦る程に、どんどん話す勇気が無くなっている事に、雪菜自身は気がついていなかった。

「浅葱乖吏に言われたんだね?」

故巳の言葉に雪菜はぎょっと見開いた。何故解ったのとおもむろに顔に書いてある 表情に、故巳は苦笑する。

「驚く事無いよ。雪菜にそんな無神経で心無い事言いそうなのはあいつぐらいだからね。」

酷い言われようだ。初日の関係から、一言も会話を交わさずして既に互いの印象は どん底まで落ちているようである。

(そ。。。そんな事。。。。)
「庇う必要なんてないよ。僕は、雪菜の事ならなんでも解るから。。。なんで あいつが好きなの?」

なんでも解るとか言う領域の問題ではない。故巳の口調からして既に乖吏の性格や 過去の女性問題などなども全て把握しているようである。勿論、そんな事で雪菜が 警戒心を抱く筈もなく、その代わり、図星を突かれた事にぼぼぼぼぼっと頬を染めた。

(わ。。。。解らないよ。。。)
「解らないのに、好きなの?。。。それって、思い込みって事もあるんじゃないのかな。。。たった一年で其処まで好きになれる物なの?自分勝手な事ばかり言われているのに?」
(故巳お兄ちゃん。。。?)

急に、故巳の声が攻撃性を帯びてきた気がして、雪菜は怪訝そうに彼を見上げた。 その眼差しに、雪菜を怯えさせてしまった事に気がついて、故巳は慌てて声のトーンを和らげる。

「ごめん。。。でも、僕は雪菜が悲しむのを見ていられないよ。」
(故巳お兄ちゃん。。。。でも、そんなに心配しなくても平気だよ。お兄ちゃんも受験大変でしょう?)

気遣わしげな台詞に、雪菜は不意に乖吏の言葉を思い出し、申し訳なさそうに頭を下げた。 それに、故巳は意表を突かれたように瞳を見開く。そして、一瞬だけ考える仕草をした後、困ったような笑みを浮べた。

「あぁ。。。あれ、嘘なんだ。」
(え?)

きょとんと雪菜が首を傾げる。何の事だか理解できなかったらしい。

「受験って言うのは只の口実。。。。本当は、雪菜に会いに来たんだ。」

ぎょっとして雪菜は、まじまじと故巳を見詰め返した。

(私に。。会いに来たって。。。どうして。。。?)

何故居場所を知ったのか、何故態々この時期会いに来たのか理解できない事が多すぎて、 もはや頭はパニック寸前である。そんな困惑した心中を知ってか知らずか、故巳は不意に雪菜を強く抱き締めた。

「本当に解らないの?僕は雪菜を愛してるんだよ。。。君が必要なんだ。。。一緒に本家に戻って欲しい。」

思考が一瞬にして吹っ飛んだ。

愛してる。。。。って??
故巳お兄ちゃんが。。。。
。。。。私を。。。。。???

驚愕と、胸を締め付けるような痛みが襲う。だけど、それと同時に、僅かな喜びの存在を、 雪菜は感じていた。それは、必要だと、故巳が言った言葉。雪菜が、何時も欲して止まない言葉だった。でも。。。

(駄目。。。戻れないよ。。。。)

ふるふると悲しげに首を振った雪菜に、故巳は焦燥の色を浮かばせた。

「どうして?父さんも母さんも、昔の事は後悔しているよ。。。それとも、浅葱乖吏がいるから?」
(それだけじゃ。。。)

僅かに沈んだ雪菜の表情を、図星と取ったらしい故巳は彼らしくもなく小さく舌打ちをする。

「雪菜。。。目を覚ましなよ。彼が特定の人間を好きになるなんて在りえないだろう?他人の事なんてどうでも良いんだよ。あのタイプは。現に今日だって。。。」

当らずとも遠からずな意見だが、実に良く知っている物だ。だが、最後まで言おうとして、 雪菜の瞳が再び涙ぐんでいる事に気がついて、故巳は慌てて口を噤んだ。

「ごめん。。。。。只の嫉妬だね。」

ふるふると雪菜は首を振る。

「でも、考えておいてくれないか。。。。雪菜には幸せになってほしいんだ。」

悲しそうに微笑む故巳に、雪菜は何も答える事ができなかった。

でも。。。。

どうでも良いって思われても。
特定の人を好きにならなくても。
冷たくても、いじわるでも。。。。。。


やっぱり



好き。








こう言うシーンって。。。在り来たり過ぎて吐き気が。。。(爆)

楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆)

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