| Chapter20: 『 Holly Night 』 |
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「えっと、はい、もしもし。」 「。。。。。えええ!?っと弥!!??」 親友の携帯に出た予想外な可愛らしい声にまどかは 「弥おねえさまですかぁ。困りましたです。でんわを忘れて行ってしまいまして、今届けている所なのです〜。えーっと、お名前をちょうだいできますでしょうか?」 「あぁ。。っと、北斗まどかですけど。。。」 お姉さまと言う事は妹なのだろうか。弥に姉妹が居るなんて初耳である。 「ほくとまどか様ですね〜。解りましたです。おねえさまに。。。。きゃうっ?」 小さく叫んで声が遠のいたかと思うと、次の瞬間には慣れ親しんだ(かどうかは不明だが)声が聞こえてきた。 「さんきゅ、ルーラ。まどか?何か用?」 「アンタに妹が居たなんて初耳じゃない。まさか又怪しげな趣味に走った訳じゃあないでしょうね。」 受話器を耳にあてた途端、遠慮なしに単刀直入に尋ねるまどかに、弥は嫌がる様子もなくニヤリと何時もの笑みを浮べる。 「いやー、まどかの趣味だろうから、教えたらそれはそれで危ないかなーって。」 「失礼な、私は雪菜一筋よ!!」 結局、妹の存在をはぐらかされた事に気付かずに怒りだすまどか。だが、その論点が違うのは気のせいだろうか。 「ジョーダンだって。で?結局本当の用は?」 「そーなのよ!!それが。。。。。」 思い出した様に、まどかは話を切り出した。勿論、内容は故巳についてである。よりにもよって転校早々雪菜に狼藉を働いた不届き者として、 直ちに抹消方を考えなくてはいけない所なのだが、何分雪菜自身が彼に好意を抱いているだけにそう簡単には行かない。乖吏一人だけでも 相当な目の上のたんこぶだと言うのに、これ以上ストレスを増やされては堪らないと言うのがまどかの本心だった。ちなみに、こんなんだから そっちの気があると疑われているのだが。。。。彼女にそれを突っ込んだ所で無駄だろう。 「ふーん、こりゃまた面白そーな展開に。。。。」 「なぁーーーーーにが面白そうなのよ!!大迷惑よ!!!!!!」 話を聞き終えた後、弥から帰ってきた台詞にまどかは案の定怒りを爆発させた。非常に彼女達らしい反応である。 「でも。。。アヤシーな。そいつ、この時期に転校?三年だろ?」 「なんでもこっちの医学科に行きたいらしいわよ。」 「受かってもないのに上京?」 「自信があるんじゃない?」 「自信。。。。。。ねぇ。。。。。。」 何か匂う。。。。感でそう感じた弥だが、何分証拠皆無な為どうする事もできない。一応少し調べておくか。。。と思っていると、 まどかが再び口を開いた。 「そういえば、アンタ何時帰ってくるの?」 「ん?あぁ、クリスマス。今年は鬱螺病院が可也大きなパーティー開くみたいだから、内からも誰かが出た方が良いって事で、僕が立候補した。 そろそろ退屈してた所だしな。。。。。。ん?いや、ルーラの所為じゃないよ。気にするな。」 鬱螺病院は、国内でも数本の指に入る大病院である。その院長が他界したとなれば、それなりに報道にもなるもので。野次馬並にしか知らないまどかと比べ、 弥は可也繊細な情報まで手に入れているのだろうが、あえてそれを口にしようとはしなかった。した所でまどかは興味を示さないだろう。 「あんた、声変わってるわよ。シスコン。」 意外な親友の一面に、呆れるように溜息をつくまどかに、弥は声を上げて笑った。 ゥ (。。。。どっ。。。。どうしよう。。。緊張してきちゃった。) リムジンの中から、煌びやかに飾られた町並みを眺めつつ、雪菜はぎゅっと手を胸の前で握り締めた。 時が過ぎるのは早い物で、今日は終にクリスマス・イヴ。宍道と約束したクリスマスパーティーのある日である。 正直言って、雪菜は人の多い所が苦手だった。人見知りをする上に、人ごみに酔い安いのである。それに付け加え、今日は 乖吏に会わなきゃいけないのだ。今だにキス事件を思い出すと、雪菜は顔の熱りを押えられなかった。 「雪菜、着いたぜ。落ち着けって。可愛いから心配無用。」 止まったリムジンから弥が、降り立ち、雪菜に手招きをする。少し躊躇しながらも、ゆっくりと車から降りたリムジンは、いつもとは違う、営業スマイルを 顔に貼り付けて立つ弥に息を呑んだ。 「それでは、参りましょうか。雪菜さん。」 まどかなら即効で鳥肌が立ちそうな変貌っぷりを、多少の戸惑いのみで受け止めて、雪菜は小さく頷いた。周囲には次々とリムジンが止まり、中から正装した 男女が降り立つ。弥にとってはこれも仕事の一貫。完璧な令嬢を貫かねばならないのだろう。雪菜といえば、取り合えず喋れない事に感謝をしていた。 墓穴を掘ったら大変である。 (でも、弥ちゃん綺麗。。。。) 先に立って凛として歩く弥を見ながら、雪菜は感嘆する。そりゃ毎年学園美女コンテストでダントツ一位なのだから、当然なのかもしれないけれど、 こういう正式な場での弥は自信に溢れていて、女王的な威圧感がある。二人の格好も、これはこれで面白い程に対照的な物で、 大胆な露出度の高い弥の漆黒のドレスに比べ、雪菜はふわりとした羽毛のある白いドレスを着ていた。それぞれ良く似合っているが、注目の的になって しまったようで、雪菜は初っ端から逃げ腰になっていた。 ゥ 「メリークリスマス!!」 突然頭上から声がして、雪菜は驚いて顔を上げた。そこには紅いコートと白い付け髭、プラス何が入っているのかは知らないがどでかい袋を 担いだサンタクロース。。。基、宍道が立っていた。 「。。。。。。」 (あっ、宍道さんですか?) 直に宍道だと理解し、にこやかな笑みを浮べた雪菜とは対照的に、弥は珍しく思いっきり硬直している。無理もない、パーティーの主役とも言える人物が、 今時バイトでもやりたくは無いサンタクロースの格好をしているのだ。常識から考えれば驚くのも無理はない。 「。。。。。う。。ぅぅ鬱螺院長ですね。結城財閥の長女、弥です。今日は父と母の代わりに来ました。」 必至に笑いを堪えて気丈に弥が挨拶をすれば、今度は宍道が驚く番で、それでも「余計な事は言うなよ」と弥に視線で射殺されてしまい、 ぎくしゃくと頷いた。当然、雪菜はこの一部始終まったく気付いた様子もなくのほほんとにこにこしている。 (とっても似合ってます〜。宍道さん。) 「そうかい?有難う。雪菜ちゃんも可愛いよ。」 サンタクロース衣装が似合うといわれて、嬉しがる方もどうかと思うが、雪菜のふわふわドレスの可愛さに内心 感涙にむせ返りながら宍道は平然を装って返事を返した。相変わらず進歩のない奴である。 「所で、鬱螺院長は、何故そんな格好をしてらっしゃるのですか?」 論点からずれている雪菜の感想に敢えて突っ込みを入れず、内心「アタマいかれてんのかコイツは」と思いつつ弥が突っ込みを入れる。 「え?実は、サンタクロースになるのが子供の頃からの夢なんだよ。」 「。。。。。。。」 少年よ大志を抱けとは誰が言ったか。少しも臆する事なくむしろ誇らしげに言い放った鬱螺宍道。男。花の25歳。 (素敵な夢ですね!!) 本当にそう思うのか。雪菜。と内心で突っ込みを入れながらも、この二人ならば良いカップルになったろうにと思わずにはいられない。 それでは、平和すぎて面白くないけれど。 (あっ。。。あの。。。。乖吏は何処にいますか?) 最近ではその名前を言う。。。正確には伝えるだけで顔を紅らめてしまう雪菜が、おずおずと尋ねると、 宍道は困ったように人込みの向こうを指差した。 「あらまぁ。大変な人気ですわね。」 ほほほっと手を口元に当てて笑う弥。通常の彼女に通訳をすれば、『ハーレムなんて良いご身分じゃねーかこの野郎』である。まぁ、 それはさておき、宍道の示す先にて、乖吏はやはりと言うかべきか、女性に囲まれていた。 「どうするんだ?雪菜。」 小さな声で弥は雪菜の耳元に囁きかけた。この様なパーティーに出る令嬢令息は、仕方の無い事情があるか、分相応の婚約相手を探しに来ているかどちらかである。 来る物は拒む主義である乖吏の性格から考えれば、不安がる要素は無いようにも思われたが、それでも雪菜にとって見ていて楽しい物ではない事は確かだ。 それに。。。。 「結城財閥の。。。。弥お嬢様でいらっしゃいますか?噂には聞いておりましたが美しい。」 先ほどから絶え間なく掛けられる声に弥はほとほと苛ついていた。気分が向けば仕事の一旦として遊んでやらないでもないが、残念ながら、今日の彼女は そんな気分ではない。麗しい笑顔の裏に無言の威圧をかけて、相手を退却させようとした弥だが、相手の顔を見て、表情を一転させた。 (弥ちゃん。。。。?) 「悪い。。。。雪菜、仕事あるからちょっと離れるな。」 こそっと囁いて、表情をころっと変える。今度は華やか且つ麗しい女性の笑みだ。どうやら、目の前の男性は、セイから渡された重役リスト、訳すれば 『絶対に機嫌を損ねちゃだめですよ!!』な人物リストに載っていたらしい。内心毒づきながら、それを微塵も顔に出さずに、弥は優雅にその場を離れた。 「いやー、こっちはこっちで大変だねぇ〜。」 仮にも主役であろう宍道ののん気な言葉に、雪菜は困った様に苦笑した。 (うーん。。。。やっぱり来ない方が良かったかな。) 余計邪魔になってしまった様に思える。弥も、自分の用事があるだろうに、此処まで付き添わせてしまったし、乖吏は乖吏で大丈夫そうである。 元より自分が居たからと言って何かが変わるとも思っていなかったが、安心した半面やはり、少しだけ寂しいと思ってしまう雪菜だった。 (だっ。。。。ダメよ!何も起きてないんだから、喜ばなきゃ。) ぶんぶんと首を横に振ってしきりに思考を切り替える。 「どっ。。。どうしたの?雪菜ちゃん。」 その不可解な行動に驚いた宍道に尋ねられて、やっと我に返った雪菜は 慌てて『なんでもない』と答えようとした所で、ピシリと硬直した。そして次の瞬間、それはもうボンッ!!と言う音が立ちそうな 勢いで赤面し、勢い良く別れの挨拶もなしにその場から逃げ出したのである。状況が飲み込めず、只空いた口が塞がらない宍道の 後ろで、苛立った声が響いた。 ゥ 鬱陶しい。学園内では、彼の不落の噂を聞いてか、影から崇拝されている所為か、あまり女性に囲まれる事も無い乖吏は、 久しぶりに生き地獄を味わっていた。傍から見れば、羨ましいなどと思われるかもしれないが、実際は独特の香りを持つブランド物の香水が 何重にも重なり、むせ返る程の強臭を醸し出している。その上、殆どがお嬢様学校に通っている所為か、新たな出会いにも乏しい訳で、 ここぞとばかりに張り切る面持ちは、例え来る者は拒む主義の彼でなくとも逃げ出したくなる事であろう。何事にも限度があると言う事である。 (兄さんめ。。。。これを知っててあんな格好しやがったんだな。) いつもの悪ふざけかと思ったが、あのサンタクロースコスチュームにそんな意味があったとは。乖吏は内心で毒づいた。 しかも、先ほどから突き刺さるような視線も幾つか感じる。それが誰から発せられる物か解らない訳ではないが、あえて気付かない振りをしていた。 そんな中、なるべく無関係な場所へと視線を巡らせていた乖吏は、思いがけない姿を見つけて瞳を見開いた。 サンタクロース姿の宍道の傍らに立つ少女。華やかな会場の中、不釣合いな程に小さな存在感でそこにいた人物は、間違いなく雪菜だった。なんで こんな所に。。。と考えかけて、直に答えが浮かぶ。 兄さんめ、又余計な事を。。。。。 毎度毎度なんたって関係のない雪菜を巻き込みたがるのか。。。。しかも、彼女ははぶんぶんと頭を振っていし。 変な奴。。。。。。そんな文句を内心で愚痴りながらも、なんとなく目が離せないでいると、不意に彼女がこちらに顔を向けた。そして、視線が 会ったと思った次の瞬間、物凄い勢いで踵を返し、その場から逃げ出したのである。 。。。。。。。。 余りに露骨な反応に、流石に硬直する乖吏。だが、我に返って見ると、急激な苛立ちが湧き上がった。なんだか解らないが気に入らない。 人の顔を見た途端に逃げやがって。。。。 「雪菜!!!」 周囲を気にする余裕もなく、その名前を呼ぶ。ちなみに、逃げられる根本的原因が自分にある事など、すっかり忘れている乖吏であった。がしかし、 追いかけようにも未だに彼は麗しき蝶たちに拘束されているのである。逃げられる物ならば、当の昔に逃げているのだ。いつもの様に絶対零度の一瞥を 向ければ、退散させる事も可能なのだろうが、宍道に出かける前に散々『レディーには優しくね。』と釘を刺されたのである。そう言う宍道自身は ちゃっかりその役割を逃げ出している辺り、非常に納得いかない物があるが、乖吏に、生き恥じと生き地獄を天秤に掛けろといわれれば、生き地獄の方がマシだと言うのであろう。 人込みの中に消えた雪菜の姿に、乖吏が小さく舌打ちとをすると、不意に、背後から険悪な声が響いた。 「フン。。。。。好い気な物だな。母親が母親なら息子も息子か。」 しんと驚愕して静まりかえる令嬢達に比べ、さして驚く事もなく乖吏は無表情は振り返った。父方の親戚が開いた、強いて言えば四面楚歌である この状況に、乖吏とて好き好んで身を置いた訳ではない。だが、今でも美尾里が宍道の父を殺したと思っている彼らなのだ、逃げればそれを 肯定の証拠として、大々的に公表される事であろう。来たら来たで、なんとか潰そうと攻撃を仕掛けてくるのは目に見えているが、それなら対処もできる。 放っておけば良い物を、捨ててしまえば良い物を。 少し前までなら、気にも留めなかった事から。 逃げたくないと思うなんて。 ゥ (どっどうしよう〜〜〜!!) 雪菜は未だに熱り続ける顔を両手で押えながら会場の隅に避難していた。もう平気だと思ったのに、心配で来たのに、 彼の顔を見た途端、脳裏に蘇った情景に居ても立ってもいられなくなり、思わずその場から逃げ去ってしまったのである。 明らかに怪しまれたに違いない自分の行動に、雪菜はますます頭を抱えた。彼にとっては日常茶飯事なのだろうから、 大事には取らぬよう自分に言い聞かせてきたのだが、予想以上にダメージは大きかったらしい。 (お。。。落ち着かなきゃ。。。。) 深呼吸を何度も行い、なんとか自分を落ち着かせようと運ばれた飲み物を一気に飲み干す。なんだか不思議な味がしたような気もするが、 少しは落ち着いたかもしれないと、ほっと胸を撫で下ろした刹那、突如響いた怒声に雪菜はびくりと肩を震わせた。 「貴様っもう一回言ってみろ!!」 いやな予感がして、雪菜は必至に移動を停止させた人込みを掻き分けて行く。案の定、次に聞こえてきた乖吏の声に、雪菜は益々 緊迫した。 「羨ましいのでしたら変わりましょうか?って言ったんです。勿論、彼女達の承諾があればですけど。」 「くっ。。。。貴様、一体何様のつもりでこの私にそんな口を利いている!!!!」 初めて聞く、乖吏の敬語に違和感を感じずにはいられない雪菜。だが、明らかにバトルモード全開である乖吏の目つきに、そんな場合ではないと慌てて思考を切り替える。 「落ち着いてちょうだい。貴方。大人気ないわよ。」 そう言って、年輩の男を止めに入ったのは、幾分若い女性だった。温和そうな外見とは裏腹に、有無を言わせない気迫が漂っている。 「久しぶりね浅葱君。美尾吏さんは、何処かしら?」 乖吏を態々苗字で呼ぶ所からして既に嫌味であるが、美尾里は確かに来ていなかった。略毎日飛び回っている美尾里の在所は非常に把握し難いが、 当然今日の事は伝えてある。幾ら気まぐれな彼女といえど、参加しない筈はないのだが。。。乖里にも原因は解らなかった。尤も、彼女とて質問の 答え望んでいる訳でもないだろうが。 「美尾里さんはまだ来てないようですよ。」 沈黙する乖吏の代わりに、返事をしたのは宍道だった。望みとおりの答えを返す事しかできないが、平静を保つ事で、なんとか状況の悪化を防ぐ。 「貴方には聞いてないわ。宍道さん。まったく。。。 こんな大事な日に欠席をするなんて。。。。大したご身分だ事。それとも、来れないような後ろめたい理由でもあるのかしら?」 「当たり前だろう。フン、今ごろ警察に事情聴取でもされてるんじゃないのか!?あの娼婦は。。。。。」 言いかけて男性は一瞬言葉を飲み込んだ。目の前に立つ、自分の半分以下しか生きていない青年の、 正しく射抜くような視線に硬直させられたのである。元々から自我のコントロールなど 大して出来ていない乖吏の事だ、たとえ此処がパーティー会場の真っ只中だとしてもいざとなったら気にも止めないだろう。 パシャン!!! 挑発に乗らないで。。。。っと宍道がなけなしの呼びかけを試みようとした刹那、グラス一杯の氷水と共に、何かが乖吏にぶつかった。 何かというのは、乖吏がそれを確認する余裕がない程に面食らったからであり、実際傍からみれば、水を持った少女が、つまずいてぶつかった 様に見える。タイミング悪くこの修羅場になんて失敗を。。。。と哀れみのこもった視線が少女に集中した。 「なっなんだね!!??君は!!」 「何やって。。。。。」 「あああぁぁぁ!大変だね。君、大丈夫!!??」 驚き、困惑する乖吏の言葉が完全に放たれる前に、宍道が態とらしくその間に割り込んだ。そして、雪菜を立たせて小さくウィンクする。 意図が伝わった合図だった。サンタクロースが、すっころんだ少女を助け起こすと言う、なんとも滑稽なシーンは、自然に緊張しきった 場を和ませる鎮静剤となって。参加者が和んだ隙に、雪菜は立ち上がると謝罪をするふりして乖吏の腕を引っ張った。そして、多分不可解な 表情をしているであろう彼の顔を見ない様にして珍しく強引にその場から連れ出す。男とその妻が上手く逃げられた事に 気付いたのは、その数秒後だった。 ゥ やたらと立派な裏庭の噴水に座って、雪菜はハンカチで乖吏の濡れたシャツを拭いていた。 相変わらず顔は上げない。上げる事はできない。なるべく余計な事を考えないように、手先に 集中しても、鼓動は無視できない程に速くなって行く。 結局は何をしたのか良く解らない。自分には何もできないけれど、只 その場から離れさせる事しか思いつかなくて、咄嗟に取った行動だった。冷静になって考えれば、 なんの解決にもならない事だったかもしれない。 だけど、彼に放たれた言葉は、自分でなくても心に突き刺さったから。 本当に言われたら、どれほど痛いんだろうと考えると涙が溢れた。普段なら、我慢できる筈なのに、 酷く頭が朦朧として、熱い。 「なんで泣いてんだよ。今度は。」 本当に、何やらかすか解らない。逃げたと思ったら、急にぶつかって来たり。確かに、その場にいたら何していたか 解らなかったが、無理やり連れ出されたと思ったら、今度は泣き出しやがった。数え切れない程の皮肉を述べてやりたかったが、 何か言ったらまた逃げられそうで、考えた末に乖吏はそれだけを口に出した。沈黙を破ったその言葉に、雪菜の手がびくりと止まる。そして、慌ててもう片方の 手の甲で涙を拭いた雪菜に、乖吏はいけないと解りつつも舌打ちしたくなった。 「ったくハンカチ使えば良いだろうが!!」 歯がゆさについ力をこめて言うと、雪菜はびくりと怯えながらも言う通りにハンカチで涙を拭いた。 尤も、既に可也水分を吸っていたそれは、あまり役には立ちそうになかったが、その様子に、乖吏は溜息を吐くしかない。。最近、どうも やたらと怖がられている気がする。そのつもりは全くなかったが、原因が自分にあると解っているからうかつに何もできない訳で。 けれど、嗜虐の趣味はないが、このような態度を取られれば、多少なりとも虐めたくなってくるのが普通だろう。たとえ、原因が自分にあるとしても。。。である。 「本当、お前って、俺の事ばっかだよな。」 常識から考えれば、自意識過剰、超激烈ノロケ以外何物でもない台詞だが、露骨に図星をつかれた雪菜は、ぼぼぼぼぼっっと一気に蒸気した。 多少なりとも反論をすればよい物だが、それができないのが、彼女の性分であろう。益々俯く顔に触れると、これまた必要以上に怯えた反応が返ってくる。 (。。。。。。想像以上の反応だな。こりゃ。) まどかに聞かれたら、瞬殺されかねない事を思う乖吏。だが、雪菜に対してあんな行動にでれば、避けられるのは目に見えている。 乖吏が、過剰反応だと思ってしまうのは、彼にとっては既に二度目であるからだ。勿論、幸か不幸か、雪菜はそんな事知る由もない。 「雪菜。」 静かに名前を呼ぶ。顔を上げろと、俺を見ろと言う意味を含んで。 冷風が、噴水から水しぶきを巻き上げる。凍えそうな辺り一体の中で、その小さな体が震えているのは 寒さの所為だけではないだろう。その証拠に、触れた指先からは僅かな暖かさが伝わってくる。でも、添えた手に 力は加えない。彼女の意思がなければ意味がない。 (。。。。。。。っ。。。。) 雪菜は、怒涛の渦の如く混乱する思いを、必至に押えようとしていた。 只、頬に触れられただけで、既に心拍数は限界まで近づいているというのに、 これ以上視線を合わせたらどうにかなってしまう。居心地の悪い沈黙。一度名前を呼ばれたきり、乖吏は何も言わない。 怒っているかと思ったが、その声は予想外に穏やかで。こんな所にいても寒いだけだから、戻ろうと切り出そうにも、 しっかりと手は拘束されてしまっている。それは、顔を上げなきゃ許さないと言っている様だった。 (か。。。。神様〜〜〜!!) そりゃ、一生彼の顔が見れなくなったら困るけれど、できるなら荒治療は止めて欲しかったと、内心、珍しく神頼みなんかしつつ、 雪菜は、覚悟を決めて、おそるおそる顔を上げる。心臓が。。。。。本当に駄目かもしれない。 息苦しいまでの緊張に耐えつつ、雪菜がやっとの事、顔を上げると、ふっと、乖吏の表情が緩んだ。 (あ。。。。) 顔を真正面から見たのも久しぶりだが、笑顔を見たのは、本当に、思い出せない程久しかったのだ。 何時だったか、思い出せもしないけれど、 大好きだった。それだけで、幸せになれた。 「。。。。。。寒いと思ったら雪降ってきやがった。」 ひらひらと舞い降りた白い結晶に、乖吏が面白なさげに言うと、雪菜は、 空を見上げて。嬉しそうに笑った。 (ま。。。いっか。) 雪が好きと答える程子供ではない。実際不便な事の方が格段に多いのだから必然な事だと思うのだが、 雪菜の笑顔を見ると、正直ほっとした。。。。雪にすら適わないのは可也癪なのだが、仕方ない。 (えっと、寒い?) 「。。。。お前の方が寒そうだぜ?」 乖吏の視線に気付いた雪菜は、紅くなりながらも、きゅっと両手こぶしを握り、小刻みにふるわせる。簡単に誰でも 解りそうな手話だった。この場合、書く物がなかった彼女の唯一の手段なのであろう。その姿はなんと言うか。。。。 。。。可愛い。。。。って、いや待て、そう言う問題じゃない。 文化祭に引き続き又もや馬鹿兄と同じような反応をしてしまった自分に突っ込みを入れる乖吏。 取り合えずたった今の思考は無かった事にして、素早く返事を返す。平気というように雪菜はふるふると首を振ったが、 肩から剥き出しのドレスを着ている雪菜は見ているこっちが寒くなりそうだ。泣いて瞳がうっすら赤くなっている事もあり、ふわふわと白い 羽毛が豊富に施してあるドレスを着ている姿はさながら雪ウサギの様だとも思う。雪がふわりと、その肩に舞い降りて、違和感なく 溶けて行く。それほどに雪菜の肌は白かった。 痕を付けたくなるほどに。 (。。。。?) 不思議そうに、彼女が見上げてくる。沈黙を不自然に思っているのだろう。その瞳から、混乱と戸惑いの色は大分消えていた。 だから、また怯えさせる訳にはいかない。。。。けど。。。。 すっと肩をなぞると、雪菜がびくりと震えたが、逃げる事はしない。と言うよりも、体が動かないのだろう。これで又避けられるに違いないと、 まだ冷静な思考が訴えるけど、只、もう、どうしようもなく欲しかった。 PRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR......... 。。。。。。。 正しく場の雰囲気を悉くぶち壊すかの如く。。。というよりは、自分の行動を咎めるかの如く鳴り出した携帯の音に乖吏は 何ともいえない表情でそれを手にとった。バイブレーション機能をOnにしておくんだった。。。いや、これで良かったのか。 行き成り解放されて一気に真赤になった雪菜の姿を見ると、そう思う。何やってんだか。。。。 ゥ (いっ。。。。。。。。いまのは何〜〜!?(///)) なんだか。。。今。。。顔が近づいてきたような。。。。落ち着いてきたと 思ったのも束の間、又もや新記録を更新しそうな勢いで早くなる鼓動に、 雪菜はだらだらと気温に反して汗を流していた。 携帯が鳴ってよかった。。。でも、一体だれのだろうっと、ちらっと彼を見てみると、丁度掛け終わった らしくばっちりと視線が合って。反射的に下を向いてしまうと、乖吏がぽんっと頭を撫でて立ち上がる。 「戻ろうぜ。母さんからだった。会場に手違いがあったんだとさ。。。あのオヤジめ。」 毎度騙される母も母だと思うが、これで、反撃する事もできる。。。。とは言っても、咎められる程の事はしないだろうが。 背後を振り向くと、戸惑いつつ着いてきた雪菜が、にっこりと小さく微笑んだ。 ごめんな。 と、今なら言えるような気がしたけれど、彼女の場合、何がと聞き返されるのであろう。 酷く曖昧な位置に立っているそれを、確定する勇気はまだなくて。 少し考えてから、乖吏は雪菜の手を引いた。 |
| プレゼントネタもあったんですけれど、余りに長いんで削除。(爆) 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆) <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |