| Chapter19: 『 一つの終わり 』 |
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故巳がやってきた事に、家政婦の波江さんは良い顔をしなかった。 なんとなく理由は解っているけれど、雪菜はあえて尋ねない。自分の事を心配してくれているのは在り難いのだけれど、 雪菜にとって、故巳は大好きな幼馴染なのだ。たとえ、彼の両親が悉く雪菜を嫌っていても。。。いや、彼の両親だけでない。 お爺さんに引き取られた後は、殆どの親戚が冷たかった。理由は解らないが、祖父の死後、波江さんが雪菜を連れて 本家を出た事と関係があるのだろう。 (。。。。。。。。酷い顔。。。) 波江さんは最近、生まれた赤ちゃんの世話が忙しい様なので、午後から来てもらう事にした。よって、朝の用意は 全て自分で行わなければならない。鏡に映った自分の顔の酷さに、雪菜は心底誰もこの場にいない事を 感謝した。でもなければ、又もや心配をかけてしまっていた所だった。 (治りますように。) 冷たいタオルを濡らして目にかける。時間は、まだ1時間ほど余裕があった。これでまぶたの腫れが少しでも取れれば良いのだが。。。 目の隈は、テスト勉強をしていたと言う事にでもしておこう。。。。。この言い訳もそろそろ厳しくなってきているが。感が 異常に良い弥が、本家に戻っている事がせめてもの救いだった。 気がつくと、何時も同じ事を考えてしまう。 怒らせてしまったのは、自分が悪い。怒っても、無理はないのかもしれないけれど。。。。何故、それで キスされてしまうのか。。。。考えようとするけれど、それだけで困惑と羞恥が濁流の様に押し寄せて思考を奪ってしまう。 彼が、他の女性としているのは何度も見てきたけれど。。。自分がされるとは思ってなかった。そういえば、宍道の前で 泣いてしまった時も、キスをされてしまった事を思い出す。。。。泣かれるのが迷惑だから? 解らないけど。。。聞く訳にもいかなくて。好きな人とのキスなのに。。。心は酷く重たかった。 ピピピピピ。。。。。 アラーム時計の音に、雪菜はタオルと取り払うと、急いで着替えて鞄を手に取った。朝食は取る気しないが、 貧血で倒れてしまっては他人に迷惑が掛かる。仕方なしに牛乳を少しだけ飲んでから、家を出た。 乖吏は最近学校に来ない。受験生だから無理もないだろう。町に行っても会えなかった。変わりに、 帰りは故巳が迎えに来て。朝も迎えに行くと言われたのだが、其処までしてもらう理由はないので雪菜は遠慮した。 身震いする程に冷たい風が、頬をなでて行く。季節は冬真っ盛りだった。 ゥ 「。。。。。。。。兄さん。。。。。。」 「もぐもぐ。。なんだい?乖吏君。」 爽やかな笑顔で顔を上げる宍道。。。。が、その口元には生クリームがべっとりとついている。 「。。。。。。っ何時まで食ってる気だ!!!!」 チョコレートケーキから始まり、イチゴパフェ、モンブラン、エクレア 、果てはイチゴ大福や桜もちまで、机の上にどっちゃりと 並べられた菓子に乖吏は胸やけを覚えながら叫んだ。この頃、この兄は仕事にも行かずに毎日この調子である。 別に彼が一ヶ月後には見るも絶え難い容姿になっていたとしても知った事ではないが、甘ったるい臭いで家を埋め尽くされるのは 我慢できなかった。こっちは受験中だと言うのに。(今更勉強を開始するのもどうかと思うが。) 「え?ごめんごめん。ちゃんと乖吏君の分も残してあるよ。はい。」 が、勘違いなのか態となのか、宍道は何処からともなくケーキの箱を取り出すと、それを差し出した。 空けなくても甘い香りが漂うそれに、一瞬後ずさりしつつも、なんとか平常心を保って乖吏は尋ねる。 「いらん!!仕事はどうしたんだ仕事は!」 仮にも院長が性懲りも無く仕事を休んでは、威厳もへったくれもない。 「もう直クリスマスだからね。ちょっと早めに休暇もらったんだよ。。。っていっても休暇決めるの私だけど。」 「待てコラ」 此処まで堂々と職務乱用されると、もはや二の句も継げない。 「だって考えてもごらん。私は精神科医なんだよ?私が落ち込んでいる状態で、患者さんを治療できると思う?」 「兄さんの何処が落ち込んでるって?」 「嫌だなぁ〜、これでも失恋の痛手で心はキュー〇ィーハニィーの様にチクチクと痛んでいるんだよ?」 。。。。なんっつー古い上に気持ちの悪い代名詞を。。。ん?失恋? 「誰に?」 相当する人物は一人しか思い浮かばないが、それでも思わず確かめてしまう乖吏。宍道はその台詞に もっていたグラスを机に叩きつけるとわっと泣き出した。 どうでも良いが、たかがジュースで酔わないで欲しいものである。しかも、つまみの代わりがケーキだ。 どんな惨事があったにせよ、笑い話にしかならない。 「乖吏君!そんな台詞を私に言うなんて。。。鬼!!人でなし!!」 「。。。。。。。(汗)」 「私の究極の理想!!!夢のお姫様と言ったら雪菜ちゃんしかいないじゃないか!!」 究極の理想はともかく、夢のお姫様って一体。。。。それを言うなら王子様じゃないのか。。。と突っ込みを入れたい所だが、 更に話がややこしくなりそうなので取り合えず黙って聞く事にする。酔っ払いに絡む物ではないと、経験で 解っている乖吏であった。できれば雪菜の名は、今は余り聞きたくなかったのだが。。。。 「振られたってはっきり言われた訳じゃないだろ?」 雪菜の性格からして、はっきり何かを言う事は考えられない。ましてや、好意を向けられば、素直に嬉しいと思ってしまう 性格なのだ。宍道の今までの行動から察すれば、乖吏以上に懐いていても不思議ではない。 「私ねー、ハワイで告白したんだよ。」 「マジかよ。っつーか行動早っ!!」 それで雪菜の様子が変だったのかと今更ながらに理解する乖吏。しかし兄の意外な俊敏さには驚きを隠せない。 思い立ったら突っ走るタイプだとは思っていたがこれほどだとは。意外と将来は食わせ物になりそうだ。 「最初は逃げられちゃったけどね。後できっぱり言われたよ。好きな人がいるんだって。でも、なんとかなるかなって、頑張ってみたんだけどね〜。駄目だったよ。」 「。。。。。。」 返す言葉が無くて、乖吏は黙 り込んだ。意外だったのは、雪菜にこれほどまでにはっきりとした意見があった事。 ショックのは、雪菜が、愛情と好感の違いを理解していた事。。。下手をすれば自分以上に。 「乖吏君が好きなんだよ。」 「。。。。。。。」 長い長い沈黙だった。怒っているような、情けないような、ふてくされてるような。。。なんとも言えない表情をする宍道に、 乖吏は返す言葉がなく黙り込んだ。大した驚きはないけれど。。。。。 「。。。。。。違うと思うぜ。」 取り合えずそう答えておく。確かに、解り安いすぎる態度から、間違いなく好かれてはいるのだろうが。。。それが 宍道の言うような『好き』かどうかは解らなかった。いや、解らなくなったと言った方が正しいのかもしれない。 男女関係については語れても、恋愛については語れる程経験がない為なんとも言えないが、雪菜の場合、 只助けてくれた人間に懐いているだけのような気がした。それを恋と勘違いしているのかもしれないと。 「しくしく。。。。乖吏君に謙遜されるなんて。。。余計悲しいし気持ち悪いからやめてくれないかい?」 どう言う意味だコラ。 どうやら宍道は酒。。。。基、ジュースを飲むと毒舌になってくるらしい。だが、相手にならないとばかりにその場を 立ち去ろうとしすれば、その瞬間にがっしりと腕をつかまれ椅子に座らされる始末で、げんなりとしながらも、 乖吏は宍道の話を聞くしかなかった。 「大体、好きでもなかったら追いかけたりしないでしょ!」 そういえば、この兄にはその件で借りがあったのだと今更ながらに思い出す乖吏。 「兄さんが余計な事言った所為だろ。」 コーヒーを口に運びながら皮肉を述べてみるが、本当に余計な事だとは思っていない。だが、それを口に出して言えないのが性分である。 「失礼だなぁ〜。雪菜ちゃんがあんまり心配そーにしてるからついね〜。それに、彼女なら信用できると思ったんだよ。」 「。。。。惚れた弱みで?」 「うっ。。。。。。乖吏君だって、人の事言えないでしょ。」 「げほっ!!!!。。。っどういう意味だ!!」 宍道の唐突なカウンターヒットに乖吏は思わずむせ返った。その反応を図星だと確定した宍道は態とらしく涙を拭いて、イチゴ大福を摘んだ。 まだ食べる気かと思いきや、潤んだ目でそれを見詰めている。ぞぞぞっと背筋が寒くなる乖吏。 「あぁ。。。。君は私の夢だった!全てだった!!でも、解っているんだよ。君の思いの強さは、だから私は影で応援しているよ。」 頼むから大福に話し掛けないでくれ。段々と危ない趣味に走りつつある兄に、深刻な問題なのだろうが、乖吏は呆れと不安意外感じる事ができないでいた。 このままでは永遠と長ったらしく大福との演説を聞かせられかねないと判断した乖吏はなんとか逃げようとするが、その度に宍道は逃がすまいとでも 言うが如く絡んでくる。 「いい加減勉強に戻らせてくれ。」 「うるうる。。。勉強と私とどっちが大切なんだい!?!?」 いや、勉強なのだが。。。。(汗)と答えたくとも気迫に押されて答えられない乖吏。が、その時、ふと宍道の行動が止まった。 沈黙。。。。。。。。 。。。。。。。。 。。。。。。。。。。。 。。。。。。。。。。。。。。。 。。。。。。。。。。。。。。。。。。 宍道の視線は俯いている。 。。。。。。。。。 。。。。。。。。。。。。。 。。。。。。。。。。。。。。。。 「イチゴシュークリームが切れた。買ってこよ。」 。。。。。 。。。。。。。。。。 「。。。っいい加減にしろ!!!」 乖吏の怒声も、まったく聞こえないかの如く、宍道はさっさと服を着替えるとるんるん気分で家を出て行った。 やっと解放された乖吏だが、どっと疲れが押し寄せてきた所為でもはや勉強をする気にとてもなれない。しかし、 あの変貌ぶりは。。。 もしかして、嫌がらせか? 今更その事実に気付く乖吏であった。 ゥ 煌びやかな赤と金で、町はクリスマス一色である。クリスマスプレゼントを 選ぼうとする人々に紛れて、同じくショウウィンドウを覗いていた雪菜は、少し困ったような顔で背後に立つ人物に向き合った。 「ん?。。。。平気だって。雪菜と一緒にいたいんだよ。」 だが、付き合って貰う必要はないと伝えた手話は、あっさりと笑顔で交わされて。故巳を兄のように慕う雪菜は、 その言葉を深読みする筈もなく、素直ににっこりと頷いた。 「こうして二人でいるのは、本当に久しぶりだからね。」 (うん!私、故巳お兄ちゃんにまた会えて本当に嬉しいよ〜。) それはそれは嬉しそうな笑顔を返す雪菜。本人全く気付かないが、周りから見れば、恋人同士意外の何者でもないだろう。故巳は、 一年で随分と男らしくなって、背も伸びた。けれど、雪菜の中では少しも変わっていないのである。それが彼にとって幸か不幸かは微妙な所だが。 「中に入らないの?クリスマスプレゼント選ぶんだろう?」 故巳の提案にこくりと頷く雪菜。だが、正直買った所で今年は渡せるかどうか微妙な所だった。去年は、なんとか勇気を振り絞って乖吏にも渡したけれど。。。 律儀過ぎだと言われたし、第一、あの放課後以来顔すら会わせてない。それに、今年はまどかも来年の全日本大会には絶対優勝するとかなんとか言って冬休みは 山篭もりをするらしい。なんでも、滝に打たれるそうだ。弥は弥で、今だ本家から帰ってこない。だからプレゼントを買ったとしても。。。。 (あっ!!!!) 不意に、ショウウィンドウに反射した人影に、雪菜は勢い良く身を翻した。 間違いない。。。。 「雪菜!?どうしたの!?」 (故巳お兄ちゃ。。。。ごめんなさい!!行かなきゃ駄目なの!) 幾ら故巳が手話を理解できると言っても、そんな高速で話されては解らない。だが、何かと問う前に、雪菜は猛スピードで 人ごみの中に消えて行ったのであった。 ゥ 急に背後からがっしりと袖をつかまれ、宍道は驚いて振り返った。そして、そこに立っていた人物に更に大きく瞳を見開く。 「ゆっ雪菜ちゃん!?」 (やっ。。。。やっと追いつきました。。。) 「どっどうしたんだい?こんな所で。。。。」 あぁ。。。。失恋の痛手が。。。でも相変わらず可愛い。。。可愛すぎるぅぅぅ〜〜(T0T) っと、妄想の世界にトリップしかけてなんとか踏みとどまる。何を隠そうこの二人も、キス事件依頼顔を会わせた事はなかったのだ。 気まずい雰囲気がない訳ではない。雪菜とて、その気まずい状況を取り払いたくて追いかけてきたのだが、いざ目の前にたってみると、 伝えるべき言葉がなかなか出てこなかった。 (えっと。。。。あの。。。。す。。すみませんでした。) 「ええ!!??」 急に謝られて、宍道が驚くのも無理はない。少なくとも、彼女に謝罪する理由はあっても、される理由は全くないからである。 自分が悪いと勝手に思い込んでは謝ってしまうのは、雪菜の性分なのだが。 「えーっと。。。。とっ、取り合えず歩きながら話そうか。」 なんだか良く解らないが、人の多い街中で突っ立っていては、注目の的である。宍道がそう促して歩きだすと、雪菜は大人しくその後に続いた。 「それでっと。。。。なんで雪菜ちゃんが私に謝るんだい?」 (だって、あっ。。。あの日、私に。。。キ。。。。。。) キスと伝えかけて雪菜の手が止まる。どうやら恥かしいらしく、ぼぼぼっと一気に顔を赤らめると、そのまま俯いてしまった。 か。。。かわいい〜〜〜(T▽T) 懲りずに又もや感涙の涙にむせ返る宍道。彼のこれも、もはや習性だと諦めた方が良さそうである。それにしても雪菜の反応は初々しい。。。 初々し過ぎである。 (。。。っなんて言いたいかと申しますと、その、私。。。。。あの、仲直りして下さい!!) 「。。。。。。。。」 悲しませてしまったかもしれない。気付かない内に酷い事を言ってしまったかもしれない。色々と思いはあったけれど、 パニックに陥った状態から伝えられた言葉は、何とも素っ頓狂な物で。流石の宍道もこれには大きく瞳を見開いた。 (。。。。。っわっ。。。わわわ私ってば何言ってるのよ〜!) 続く沈黙と凝視に、今更ながらに自分が果てしなく違う事を伝えてしまった事に気がつく雪菜。なんとも怠慢な反応であるが、 宍道は肩を震わせたかと思うと、突如爆笑に陥った。 「あっははははははははは!!!ひぃぃぃ〜〜〜!!!くくくくく。。。。」 (えっえ??) 腹を抱えて笑い転げる宍道の横で完全に取り残される雪菜。暫く思いっきり笑い飛ばした後、涙を拭きながら宍道は立ち上がった。 「いやぁ、まさかそう来られるとは思ってなかったよ。正直、嫌われても仕方ない事したと思ってるからね。」 (そ。。。そんな事。。。。。) 否定しようとして雪菜は言葉を濁らせる。雪菜はあれがファーストキスだったと思っている為、それなりにショックも大きかったのだ。 でも、人として嫌いになった訳ではない。 「でも、有難う。そうだね。じゃあ握手。」 差し出された手を握る。きっと、宍道でなければ、此処まで後腐れなく関係を修復する事はできなかっただろう。その点、雪菜は恵まれていた。 「じゃあ、此処らへんで失礼するよ。ああ、そうだ。家でね、親戚とか関係者とか集まって毎年クリスマスパーティーを開くんだけど、 今年は雪菜ちゃんも来てくれないかな。」 (え?どうして私が?) 雪菜の学校では、家柄同士で大きなパーティーを開くのは珍しくない。実際、殆どの生徒がクリスマスは本家に戻り、財閥やら大手商業やらの 商談を交えたパーティーに出席するのだ。弥は可也嫌がっているようだが、なんだかんだ言って毎年欠かせた事はない。 それだけ、重要な物だと言う事だ。そして、その場で、無関係者の立ち入りは歓迎される物ではない。 「うーん、今年はね、あんな事があった後だし。。。叔母さんとかも来る事になると。。。なんか、嫌な予感がしてね。雪菜ちゃんに頼るのも間違っている気がするんだけど。。。。」 (いいえ。。。。) 弱弱しく頭を振る。確かに心配だった。。。。けれど、又もや余計な事に首を突っ込もうとしているかもしれない。それに、乖吏に会うのはなんだか怖くて。。。。 考えても考えても結局、思いには適わないのかもしれないけれど。。。。少し戸惑いながら、雪菜は小さく頷いた。 「そっか良かった。それじゃあね。」 その返事に安心したような笑みを浮べて宍道が踵を返すと、不意に雪菜がその袖を掴んだ。その顔は、明らかに聞きたい事があるようだが、 どうも躊躇してしまうらしい。 「なんだい?」 宍道が優しく促すと、雪菜は思い切ったように、手を動かした。 どうして。。。。。私。。。。に。。。。。。。。。 だが、やはり其処で赤面して静止した彼女に、宍道は苦笑の笑みを浮べる。 そんな事聞くから、君は残酷なんだ。 「君の事が好き。。。。。。。。。。。。。。。。。だったからだよ。」 |
| お兄様最後の出番。。。かもしれない。(笑) 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆) <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |