Chapter18: 『 気がついて 』



やぁやぁ、二週間ぶりの帰還おめでとう〜



ピシャリ。


明けかけたドアを衝動でそのまま閉めなおす乖吏。久しぶりに学校に来たというのに、友人は相変わらず馬鹿っぷり全開なようだ。 冬休み前のこの時期に受験生が毎日学校に通う方がおかしいというのに。。。。。尤も、受験勉強など微塵もやっていない乖吏が 言えた台詞ではないが。

「相変わらずマメだな。今の時期、毎日学校に来る三年なんて、お前ぐらいだぞ。」

取り合えず席についた乖吏は皮肉を込めてそう言ったが、普段なら、学生の青春は学園の中にあるのさ♪。。。などと 時代遅れな上に訳の解らない返事を返してくる筈の大久保は、なんだか意味ありげな笑みを浮べて周囲を指差した。それにつられて、今更ながら周囲を 見渡す乖吏。

「。。。。。。。。」

事もあろうか、教室の中は生徒で溢れ返るっている。。。。しかも男子生徒で。クラスメイトの顔など覚えていなくても、 大部分が他クラスからやってきている事は直感で解った。しかも、全員がなんだか異常な期待と熱意の篭もった眼差しをしている。 おかしい。。。。というか気持ち悪い。

「。。。。。何があったんだ?」
「うん、喜べ乖吏、実は中村先生が脳内出血で倒れてな、代理の新しい先生が来たんだよ。」
「副担任じゃなくて?」
「水野先生は、クラブ活動3つも受け持ちしてるし、歴史と古文掛け持ちだろ?だからだと思うけど?」
「ふーん。で、その先生が。美人だったからこいつらは全員こんなに熱くなってる訳だな。」

中村先生とは、乖吏のクラス、3−Dの担任で、金はあるが脳はない、もしくは一癖も二癖もある根性ひねくれ曲がった生徒が 多い学園内で、唯一熱血に普通の教育道を全うしようとしていた、純真哀れな先生(42)である。三年生の進路相談も進み、 熱く夢について語っていたようだが、根っから苦労をしらない御曹司にそんな事を言っても解ってもらえる筈はなく、 日に日にストレスを溜めて行ったに違いない。自分も、そのストレスの原因になっていた事などまったく気にするようすも なく乖吏は直感で状況を把握すると、呆れたようにしれっと答えた。 当然、その見下したような言い方に周りの鋭い視線が集中する。カップルクラッシャーの異名はだてではない為に、 男子生徒の嫌悪は激しいものだった。不意に、その緊迫した空気を破るようにして大久保が口を開く。

「まぁまぁ、お前も先生みたら俺たちの気持ちが解るって、絶対お前の好みだと思うぜ〜?」

場の空気を一気になだめる。それは保一の特技の一つであった。何処から学んで来たかは知らないが、 彼の処世術には毎度毎度感嘆するしかない。何時も保一を適当にあしらっている乖吏だが、 それに、幾度となく助けられている事には正直感謝していた。。。。。。死んでも本人には言いたくないけど。

「浅葱!抜け駆けは禁物だからな!先生は受験の荒野に咲く一輪の花なんだ。。。。。」

そう言ったクラスメイトの名を乖吏はまったくもって覚えていない。っと言うより最初からしらない。面倒な事は避けたいが 為に取り合えず『はいはい』と曖昧な返事を返すと、絶妙なタイミングで教室のドアが開いた。

「はい、HRの時間ですよ。関係のない人は自分のクラスに戻って下さい。」

凛として良く通る声。にこやかな笑みと、完璧に整った顔を寄り一層引き出す高度な化粧技術。確かに、高校教師とは とても思えない(高校教師として問題がある)程に美しい女性だった。只、その美しい顔や、福与かな躰よりも、乖吏は その髪が気になった。シルクのように滑らかなストレートの黒髪。乖吏の脳裏に自然と雪菜の姿が浮かぶ。

「おはよう御座います。出席を取る前に、転校生を紹介しますね。杵(キネ)君、入って頂戴。」

なんとも季節外れな転校生だ。三年の受験真っ盛りで、マトモに進学を考えている生徒ならば、家に閉じこもってがり勉をしているのが 普通だ。。。。尤も、この学校ではあまり関係のない事かもしれないが。入ってきた男子は、すらりとした体格をしていた。 来ていた女子生徒が僅かに騒ぎ出した事から察すると、顔は悪くないのだろう。男の顔を見つめる趣味などないため、乖吏は 大して気に止めなかった。

「杵 故巳(キネ モトミ)と言います。宜しくお願いします。」

爽やかな笑みを浮べて、会釈をした後、故巳と名乗った男子生徒は指定された席に座った。

「な?言った通りだろ?」

女教師が出席を取り始めた所を見計らって保一は乖吏に耳打ちした。確かに、乖吏の今までの 女性関係を知っている人物なら、そう思うに違いない。。。。。。が、実際好みと言うのは良く解らなかった。基本的第一基準は、 既に男がいる女にだったからである。。。。。と、堂々といえた事ではないが。

「。。。。少しはマトモな事考えろ。」

否定するのもなんだか馬鹿らしい為に、適当にあしらう。すると、出席を取り終えたらしく、女教師はパタリと名簿を閉じると、 教壇の前に立った。極端に短いミニスカートからすらりとした足が伸びる。これでは、女生徒に注意はできないだろう。

「それでは、HRを終了します。そうそう、浅葱乖吏君。」

明るい声で呼ばれて乖吏は前を向き直った。大体言いたい事は解る。

「始めまして。欠席中の話が色々あるから、後で指導室に来てちょうだい。」
「解りました。」

思った通りの台詞に、乖吏は率直に答えた。周囲の男子生徒から羨望の視線が向けられる。そんなに羨ましいんなら変わってあげたいぐらいだ。 指導室の説教も、先生が変わるだけでこうも対応が違くなってくるものなのか。脳内出血で入院した中村先生も、これでは浮かばれないなと 彼にしては珍しく同情をしたのだった。





雪菜は、朝から人生最大の自己嫌悪に陥っていた。

(私。。。。もう乖吏と顔合わせられないかも。。。)

今まで、誰かに手を上げた事などなかったのに。。。。育ちの良い雪菜にとって それは正に悪鬼の如き所業に思えて。しかもその相手が好きな人ともなると、 落ち込みも二倍だった。

(人間失格だわ。)

波江さんにも大変な心配をかけてしまったし、 結局乖吏に家まで送ってもらったようだし(後で波江さんから聞いた。) 弥にも世話になってしまった。ぐるぐると一旦落ち込んでしまうとどんどん泥沼に 嵌ってしまう雪菜だった。ちなみに、可也過剰反応であるとは全く気付かない。

「雪菜、どーしたの?ぼっとして。顔赤いけど。」

今は体育の授業中で、マラソン大会に備え、この寒い中女性徒たちは グランドを走り回っていた。勉強、スポーツ共に学年トップを誇るまどかは既に8周目を走っていたが、雪菜は今だ2周目であった。 いくら雪菜が、スポーツ苦手だと言っても、これは流石に酷い。先ほどから走っているというよりはよもや歩いているに近かった。 何時もは嫌々ながらも、絶対サボらない雪菜なだけに、まどかは、気になって声を掛けた。

(え?なっ、なんでもないよ。大丈夫。)

慌てて首を横に振る雪菜だが、その途端、背筋をぞわぞわっと寒気が這い上がった。息が重くて、酷く熱く感じられる。 視点が上手く合わなくって。。。。

まどかが遠くで怒っていたような気がした。





代理教師、須藤 知美(スドウ トモミ)の話は、予想通りの内容で、乖吏としては特に気にも留めなかった。熱血漢な中村先生よりも、 数段短く平穏に終った事については在り難かった。。。。。。が、乖吏はなんとなく違和感を覚えていた。長年の経験から来る直感で、 知美の、言動の端々で行われた行動一つ一つが、教唆(きょうさ)的に感じられたからである。

(。。。。。。無視しておくか。)

昨日までなら、誘いに乗ったかもしれないが。。。今は只煩わしく思えた。触らぬ神に祟りなし。。。。此処は 気付かない振りをするのが一番だろう。

「I am not what I am.。。。では、これを翻訳して下さい。くれぐれも、単語だけを略さないように。」

教壇の前で喋る知美と視線が会わないように、顔を背けた乖吏は、不意に教室の隅に座っている転校生、故巳の姿が 目に入った。先ほどからしきりに校庭を見ている。なんとなく気になって、乖吏がその視線の先を追おうとした刹那、故巳がすいっと手を上げた。

「故巳君?なんですか?」
「すみません。。。。先生、少し気分が悪いのですが、保健室に行っても良いですか?」

。。。。。どう聞いても嘘としか思えないが、知美はあっさりと承諾した。

「そう、解ったわ。。。じゃあ、誰か、保健室に案内して上げてくれるかしら?」
「いえ、一人で。。。」
「俺が行きます。」

故巳の否定に間一髪入れず、自ら申し出た乖吏を、知美はなんだか残念そうな顔で、故巳は訝しげに、そしてクラス中が珍獣でも見たかのような 視線を向けていた。それもその筈、スポーツ万能、勉強はしない癖に成績は常に学年トップ10と言う狂人的&嫌味ったらしい能力を持ちながら、 部活には一切所属なし、横で人が倒れていても見捨る。。。。。っと言うより気付きもしない程の冷血人間である乖吏が、自分から 転校生に保健室を案内すると言ったのである。明日は雨が降るかもしれない。。。いや、大雪か台風か大地震か。。。クラス中の誰もが そう思っても無理はなかった。尤も、乖吏としては、知美を避けたいだけなのだが。。。。





「。。。。本当に案内はいいよ。」
「遠慮するなって。」

教室を出てしばらくしてから故巳が口を開いた。今の台詞は酷く自分に不似合いだと思いつつも、乖吏は取り合えず返事をした。

「遠慮じゃなくって。。。」
「それとも?実はサボりの口実とか?」
「。。。。。」

どうやら図星だったらしい。転校早々褒められた事ではないが、乖吏にとってはどうでも良い事だった。 尤も、彼も同じようなものである。

「お互い様だから文句はねーけど。」
「え!?どうして?」
「色々とな。保健室行く気あるんなら、此処を真っ直ぐだぜ。じゃ。」

事細かに説明するのも面倒なので、適当に話を打ち切り、乖吏は故巳に背を向けた。 その時、彼がほっと安心するような溜息を漏らした事には気付かずに。





誰かの指が、頬を撫でてる。冷たくて、気持ちの良い指先。

夢。。。。。?

頬から唇へ、ゆっくりと。。。。。そして。。。。。。


バキィ!!!!ドゴッ!!!!!ガシャ―――――――ン!!!!!

(きゃぁぁぁ!!!!なっななななななに!!???)

唐突に鳴り響いた騒音に、雪菜は跳ね上がるようにして飛び起きた。心臓がかなりバクバク言っているが、無理もないだろう。目の前には、 破壊し尽くされた保健室の装備品と、悪鬼のような形相で怒りオーラ―を漂わせているまどかの姿がある。その後ろでは、乖吏がなんだか複雑な表情をして立っていた。

(ま。。。。まどかちゃん。。。??)

朦朧とした睡眠から叩き起こされた雪菜は、状況に青ざめて親友を宥める。尤も、彼女がなんでこんなに怒っているのかはまったく理解できなかったが。

「ふふ。。。ふふふ。。。。こんの馬の骨が。。。血マツリにしてくれる。。。。。」

完全に目が行ってしまっている。今、まどかは確実に視線で人を殺せるだろうと思った。状況がわからず、大慌てする雪菜の横で、流石に見かねた乖吏が 勇敢にも止めに入る。

「止めろ。殺すのはまずい。」

なんとなくその台詞にも違和感を感じるが、まどかがまともに乖吏の台詞を聞く筈もない。なんだか良く解らないが、状況的に不味いと判断した雪菜はとっさに まどかに抱きついた。

(だめーーー!!まどかちゃん!!)
             ぐぇっ!!

何が駄目なのか解らないが、取り合えず止めに入る。雪菜に抱きつかれたまどかは、あからさまにはっと我に返った。

「雪菜ーーーーーーー!!!!間に合って良かったわ!!!!」
(え!!??なっ何が??)

ぎゅっと抱き締められつつ、雪菜が、相変わらず状況に戸惑っていると、下から息も絶え絶えな声が聞こえてきた。

「どっ。。。。どいて。。。」

きょとんっと瞳を見開く雪菜。おそるおそる視線を下ろしてみると。。。。そこには見事に下敷きにされた男子生徒の姿があった。 まどかを止めるつもりが、反対に自分で留めをさしてしまったようである。

(きゃぁぁぁーーーー!!!ごっごごごごごごごめんなさい!!!)

大慌てで飛びのいてから、必至に頭を下げる雪菜。だが、なんとか起き上がった男子生徒の顔を見て、思わず息を呑んだ。

(。。。。故巳お兄ちゃん?)
「ひっ。。。。。久しぶり。雪菜。」

信じられないというように瞳を見開く雪菜に、なんとか笑顔を浮べる故巳。そして次の瞬間、雪菜は破顔したかと思うと、ひしりと 故巳に抱きついたのだった。

(久しぶり〜!故巳お兄ちゃん、会いたかったよ〜。)

忘れてはいけないが、当然、雪菜の内心の台詞は聞こえていない。傍からみれば、生き別れた恋人たちが愛の抱擁をしているように。。。。 見えない事もないだろう。それが、普段人見知りの激しい雪菜だとすれば尚更である。余りの出来事に一瞬失神しかけたまどかだが、 直に我に返ると、雪菜に詰め寄った。

「ちょっちょっと!!!雪菜!!!!何?そいつは!!??どーゆー関係なの!!??」

まるで、娘の恋路に初めて直面した父親のような台詞である。親友の慌てように、自分がとても不味い事をしてしまった かもしれないと今更慌てながらも、何とか説明をしようとする雪菜。。。。だが、不意に、彼女を庇うようにして、故巳が前にでた。

「僕が、説明するよ。」





雪菜が、熱で倒れたらしいと聞いたのは、帰り際に彼女を向かえに行った時だった。その原因が、自分にあるとは直に解った。 (勿論、命は惜しいのでまどかには黙っていたが。)この寒い中、コートも着ずに繁華街の中を走り回っていたのだ、当然である。抱き締めた時も、彼女の体はぞっとする程冷たかった。 一体何時間探していたのか、考えたくもないのに、苛立ちと罪悪感はじわじわと心を塗りつぶした。

どうしても着いてくるというまどかと討論する気にもなれず、成すがままに保健室に行くと、 雪菜のベットの横に故巳が座っていたのである。まるで慈しむようにその頬を指でなぞりながら、そっと唇に触れて。

黒いヘビが、心の中で孵化する気がした。

尤も、行動を起こす前に、激怒したまどかが故巳を殴り飛ばしたのだが。。。。どうも、状況からするに 雪菜も、彼を知っているらしい。。。。。いや、普段人見知りの激しい彼女の反応からして、只の知人ではないだろう。

「。。。。。。。」

黒いヘビが、じりじりと心を這うようなこの感情は。。。。。考えたくなかった。不意に、雪菜と目が会うが、彼女は直に慌てて 視線を反らした。それが、昨日の事に対しての戸惑いだと、見抜ける余裕は今の乖吏にはない。只、苛立ちが募るだけで。

「僕は、雪菜の父の、兄の子供なんだ。雪菜からすれば、従兄になるかな。。。。雪菜が本家から出て行った日以来、一度も会ってないけどね。」

只の従弟が、寝込みを襲うような真似するとは思えないが、嬉しそうに頷く雪菜を見てると、喉まで出かかった言葉も、飲み込むしかなかった。 それは、まどかも同じなのだろう。雪菜には、家族がいない。それだけに、従兄と言う存在は、彼女にとって特別なのかもしれない。うかつに何か言って、傷つけたくなかった。 かといって納得できる訳ではないけど。その場にこれ以上居たくなくて、乖吏は無言で保健室を後にした。





パタパタパタ。。。。

背後から足音がして、乖吏は一瞬無視しようかと思った自分の感情に驚きながらも振り返った。案の定、雪菜が 息を切らせて追いかけてきている。

(ま。。。。まって。。。。。)

目の前までたどり着いた時には、可也息も上がっていて、顔を上げた瞬間、立ちくらみにカクンとその体が崩れた。反射的に 抱きとめる乖吏。雪菜は恥かしがるよりも先に疲れて動けないらしく、暫くそのままもたれかかった。先ほどまで 止んでいた頭痛が、また戻ってきた気がする。不意に額に冷たい手の感触がして、雪菜は顔を少しだけ持ち上げた。

「馬鹿。熱あるんなら走ったりすんな。」

困ったような、諦めたような表情で乖吏がそう言うと、雪菜は力無げにこくりと頷いた。そして、いそいそと 体を離すと小さなメモを取り出す。どうやら先ほど書いてきたらしい。

『ごめんなさい』

その紙に書かれた文字を読んで、乖吏は一瞬首をかしげた。一体何について謝りたいのか解らなかったからである。少なくとも彼女に 謝らなければならない理由はない筈だが。。。

「何が?」

聞き返されるとは想像していなかったのか、雪菜は困ったように俯いた。どうやら書く物を持ってこなかったらしい。 暫く考えてから、雪菜は躊躇いがちに手を伸ばした。少しだけ怯えた顔で、ゆっくり、恐る恐ると。ふわりとその指先が頬に触れた刹那、 体を駆けた衝動に乖吏は思いっきり後ずさった。

今。。。。。何思った?。。。

信じられない事に、心拍数が速い気がする。だが、此処で認めてしまう事は、どうしてもプライド的に許せない物が。。。。 などと己と格闘していると、不意に今にも泣きそうな雪菜の表情が目に入って。しまったと思ったがよもや遅かった。ぽろぽろと 真珠の様な涙が、雪菜の両眼から零れ落ちる。

「あ。。。いや、悪い。違うって。。。。」

違うといわれても何がなんだか解らない。雪菜は必至に涙を止めようとしているが、熱の所為かそれは酷くなるばかりだった。 今、廊下に誰もいない事がせめてもの救いだったかもしれない。でもなければ、この、浅葱乖吏が泣く女の子を宥めると言う 大スクープはデカデカと学校新聞の第一面を飾っていた事だろう。

「昨日の事は。。。気にしてねーから。。。。泣くな。」

本当は、感謝している。。。と言いたかったのだけれど、出てきた言葉はやはりそっけなくて。その微妙な間を 図星だと又しても勘違いした雪菜は、それでもぺこりとお辞儀をすると、くるりと身を翻す。咄嗟に乖吏は その腕を掴んだ。

「待てコラ!違うって言ってんだろ!!」

苛立ちに、思わず声が鋭くなる。雪菜はびくっと体を震わせた侭、逃げる事も無く、かと言ってどうしたら 良いのかも解らなくて、只俯いている。そして、元々この様な言い訳などした事が無い乖吏に、その状況は耐えられなかった。 なんてもどかしい。。。。


怯える体。

震えている手。

何を言っても届かない。。。。。。


刹那、乖吏の脳裏に笑顔がフラッシュバックした。心底嬉しそうに、
そうやって、笑いかけたのに。。。。。。。





黒いヘビが、心臓に牙を立てた。





急に頬を掴まれ、雪菜が驚いて目を見開くのと同時に。乖吏は、その唇に噛み付くような口付けをしていた。 まるで、時が止まったかの様に、瞳を見開いたまま、抵抗のない。。。いや、できない体を引き寄せて、尚も強く。 そうしなければ、苦しさに耐えられないかの様に。


雪菜!!!!

永遠にも思われたその行為を止めたのは、故巳の呼び声だった。我に返ったように、雪菜が渾身の力を込めて 乖吏から離れる。はぁはぁと全身で息をしながら、痛みで気絶しそうな頭をなんとか上げて、なんとか目の前の人物を見上げる。
何が。。。。一体。。。。今。。。。。。
混乱して視界が回る。只、彼が酷く怒っていると言う事だけは解った。

「雪菜!!!!」

呼び声が近くなって。乖吏はすぅっと瞳を細めた。びくりと 思わず体が震えるが、予想に反して乖吏は何も言わずにその場を後にした。今だ硬直する雪菜を残して。

「雪菜!!??どうしたの!??」

故巳が駆け寄ってきて、心配そうに廊下に座り込む雪菜の体を支える。だが、まるで彼の言葉など聞こえない かの様に、雪菜は何時までも誰もいなくなった廊下を見詰めていた。
乖吏君。。。。。風邪移るよ?(笑)

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