| Chapter17: 『 言葉にならない 』 |
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乖吏はこれでもかと言う程にイライラしていた。 只でさえ不機嫌だった事に加え、恭子の昼間の言葉が図星をついていたと言う事も理由の一つである。 傍らに擦り寄る昼間と違う女。落としたのは自分の方からだったけれど好きでもなければ嫌いでもなかった。 ”本当の恋”とか”愛情”とか、はっきり言って聞くだけでムナクソ悪い。そんな物存在しないし、 存在したとしても彼にとっては関係がない上に関わりたくない物だった。だからそんな綺麗事を言う人間を見てると無償に腹が立って、壊してやりたくなる。 そうして腕の中に落ちた女は自分の考えが正しいのだと証明する物だった。けれど。。。 不意に、脳裏を酷く怯えた面持ちが横切って、奇妙な罪悪感がじわりと胸を這い上がる。 雪菜のあんな表情を見たのは初めてだった。それが、尤も嫌いな同情の視線だったら、対処のしようもあっただろう。 只、切り捨てれば良かっただけの事。けれど、悲しみと恐怖の入り混じったような瞳は、苛立ちと、言いようのない胡乱とした感情を引き起こして、 どうしても頭から離れない。 「ねぇ、何考えてるの?」 「。。。。。別に。」 考えを一々聞かれるは酷くうっとおしい。 投げやりな返答に、女は少し不機嫌になるが、直に気分を取り直してそのすらりとした長い指を乖吏の胸に這わせた。 何処までも艶かしい真赤なマニキュアがゆっくりと首筋から頬へと這い上がりその侭引き寄せられ、口付けを受ける。相変わらず慣れてる女だと 思いつつも、乖吏は黙ってそれを受け止めた。だが、濃厚であるにも関わらず、それが常に冷たい事に、乖吏は気付かない。 冷たく、空疎な肌の触れ合いによって己を築き上げてきた彼にとってはそれが当然の事なのだ。 只一度だけ、衝動に突き動かされた事を抜いては。。。。 「ねっ、出よ?此処、五月蝿いし。」 それが何を意味するのかは、言うまでもなく。乖吏は黙って立ち上がる事で肯定を示した。 「うわっ、寒いっ!!」 店を出た途端に吹き付けた冷風に、女は羽織っていたコートをぎゅっと手前できつく握り締めた。確かに、秋の終わりにしては随分と 温度が低いかもしれないと思いながら、乖吏はタクシーを呼ぼうと、道脇に足を向けた。 刹那、ぐいっと腕を掴まれて。又変な絡みかよと思い、鋭い視線を向けた乖吏だが、その目線の先にいる筈の人物はない。怪訝に思いつつ、自然と視線を落とした 乖吏は一瞬我が目を疑った。 「。。。。。。。。雪菜。。。。。。。?」 ゥ (。。。。。。。っ。。。。) ガクガクと、手が震えてるのが解る。必至でその腕を掴んでいる筈なのに、ちっとも力は入らなくて。 混乱と恐怖で、雪菜は顔を上げる事すらできなかった。 店の前までなんとかたどり着いたのは良いものの、なんとなく雰囲気が怖くて足を踏み入れる事ができなかったのだ。 そうしてうろうろしている内に、乖吏が出てきて、気がついた咄嗟に腕を掴んでしまったのである。 乖吏は乖吏で、まったく予想していなかった状況に困惑しきっていた。 何故こんな所にいるのか。。。。。。いや、それは解っていた。恐らく自分を探しに来たのだろう。だが、 雪菜は今までに一度たりとも、彼の女性問題に意見をした事はなかった。ましてや止めようとするなど。尤も、それをされていたら、 当の昔に関係は壊れていたのだろうが。。。それ故、今正に目の前にいる彼女の行動は、全くもって理解ができなかった。 ただ。。。。。。。 「。。。。。。何?」 酷くイラつく。困惑を隠すように冷たく放たれた声に、雪菜の体がビクリと震えた。それでもぎゅっと袖を握った手を離そうとはしなくて。 うつぶせた侭、雪菜はきゅっと唇を噛み締めた。泣いてはいけない。。。。けれど、どう伝えれば良いのか。。。。そもそも何を伝えたいのか、 一瞬解らなくなる。此処まで随分と考えてきた筈なのに、緊張して頭はぐちゃぐちゃだった。顔は見なくても、彼の苛立ちはひしひしと伝わってきて、 それが更に雪菜をどうしようもなく悲しくさせる。 怒らないで。。。 ごめんなさい。。。。 思わず手を離してしまいそうになる。けど。 (。。。。駄目。。。) それを覚悟の上で来たのだから。恐る恐る顔を上げて彼を見た。伝えなければ。。。。 「。。。。。っ。。。」 (きゃっ。。。) 視線が合って。一瞬だけ乖吏の表情が歪んだかと思うと、次の瞬間、雪菜は物凄い勢いで突き飛ばさた。ガツンッと、植木の幹に体がぶつかり 背中が僅かに痺れる。けれど、そんな事はさほど気にならなかった。瞳を反らせた乖吏の横顔は酷く苦しそうで、ずきずきと心臓が痛む。でも、 それと同時に此処では引けないと思った。 「何、この子。」 脇で驚きつつも一部始終を見ていた女が初めて口を開く。改めて女性の姿を見た雪菜は、その美しさに思わず息を呑んだ。妖艶とは こう言う人を言うのかもしれない。どうあっても適わないその違いが、決意の壁を壊さないように、雪菜はぎゅっと瞳を閉じた。 「。。。。さぁ。」 視線を反らせたまま、乖吏は刺々しく答える。視界が揺らぐ程の痛みが、心臓を突き抜けた。視界がじわりとぼやけて。 どんなに頑張っても、結局強くはなれないのだと思った。 そんな雪菜の様子を気にする事もなく、乖吏がやって来たタクシーに向かって手を上げる。 (駄目。。。。行っちゃ駄目。) ゆっくりと道路脇に止まった車のドアが開いて。。。。 (行かないで!!) 激しい衝動と共に、雪菜は思わず走り出していた。強くはなれなくても、決意を貫き通す事はできるから。嫌われても良いなんてどうあっても思えないけれど、 今逃げるぐらいなら、それを選ぼう。 「。。。。。。!?」 タクシーに乗り込もうとした矢先に目の前に立ちはだかった雪菜に、乖吏は驚愕に大きく瞳を見開いた。何時も守られてばかりいる少女だから、 此処まで冷たくされれば、諦めるだろうと思った。諦めて欲しかった。これ以上は関わりたくない。。。。関わらせたくない。 そんな目でみるなよ。 せめている訳ではなく、只酷く悲しげで一生懸命で、何処までも汚れのない澄んだ瞳。 今にも涙が零れそうな程に潤んでいるそれは、どうしようもない程の罪悪感を駆り立てて。 見ていられないくて、視線をそらしながら、心の動揺を必至に隠して乖吏は尚も冷たく言い放った。 「退けよ。」 びくりっと雪菜の体が震えるが、それでも直に頭を振る。どうあっても退く気はないらしい。 なんでこんなに強情なんだと、乖吏は頭を抱えたくなった。それでも、先ほど乱暴に扱ってしまった事に対する罪悪感で、振り切る事は 出来そうにない。自分はこんなにも彼女に弱かったのだろうか。繁華街のざわめきの中、その場だけが切り離されたような沈黙が続く。 その静寂の中で、痺れを切らしたのは乖吏の傍らに立つ女性だった。 「ちょっと、貴方何?タクシー待たせてるの解んない?」 刺々しいソプラノの声に、雪菜は又もやびくりと体を震わせた。乖吏と対峙する覚悟はあっても、見知らぬ人物に対して雪菜が、恭子程強くなれる訳はない。 かと言って泣き出す事もしないのだが、人見知りをする性格故に、どうしたら良いのか解らず、雪菜はおろおろし始めた。 (。。。。うっ。。どうしよう。) 何時もなら、乖吏が助けてくれるのだが、この状況でそれを望む事はできない。他に手立てもない為、ごそごそと鞄の中からメモ帳を取り出した。 先ほどからもう震えっぱなしの手は上手く動いてくれない。 「何するつもり?私たち暇じゃないのよ!さっさと退いてちょうだい!」 ぱしりっとペンが弾き飛ばされてコロコロと夜道に転がった。この暗さで探し出すのはもはや無理だろう。半ば無理やりに雪菜を押しのけて、女性はタクシーの 中に滑り込む。運転手に行き先を伝えた後に、まだ乗り込んでいない乖吏に対して僅かに苛立った様に手招きをした。それに答えるように、乖吏がタクシーに近づいて、 ドアに手を掛ける。 結局駄目なんだ。。。。。 諦めたくはないのに、どんなに叫んでも言葉にはならない。 ぽたぽたと雪菜の瞳から涙が零れた。 「。。。。。今日は止めとくわ。」 「え!?っちょっと何言ってるのよ!」 次の刹那、乖吏が放った言葉に、女性の声と共に、雪菜も驚いて大きく瞳を見開いた。 「悪いな。」 そして、女性の返答を聞かぬ侭バタンとドアを閉じる。行き先を既に伝えられたタクシーは、当然その侭走り出して。乖吏はげんなりと溜息を付いてから今だに驚き呆けている雪菜の 方へと近づいた。 「取り合えずこっから離れるぞ。」 そう言って彼女の手を取って、その手首が僅かに紅く晴れている事に気がつき乖吏は一瞬顔を顰めた。其処までして、なんで来たのか、何時だって弱いくせに、無鉄砲で。。。。 苛立ちだけでない胡乱とした感情が、心に渦巻くが、乖吏は無言で雪菜の手を引いてなるべく早くその場から遠ざかる事にした。 彼女は気がついていないだろうが、先ほどから可也注目の的になっているのだ。知らなかったのだろうが、 制服で繁華街をウロつく馬鹿がいるかと内心毒づかずにはいられない。取り合えずさっさと家に届けて帰りたいと思った。 ゥ 振り向かない侭の背中を雪菜は酷く切ない気持ちで見詰めていた。 先ほどの声は怒っていたけれど、腕を握る力は酷く優しい。 あぁ。。。。やっぱり大好きなんだと思いしらされる。情けないけれど、彼が例え、世界で一番酷い人間だったとしても、 きっと変わらないだろうと思った。 「。。。。。。お前は、俺のジャマをするような面倒くせー女じゃねーと思ってたぜ。」 変わらないから。尚更悲しい。人気が居なくなった辺りで、乖吏は振り向かずにそう言い放った。 (解ってる。。。。でも。。。。) 胸の痛みには態と気付かない素振りをして、雪菜は僅かに抵抗して乖吏の手を振り解く。伝えなくてはいけないと思った。 だけど、メモ帳を取り出してから、先ほどペンを落としてしまった事に気がつく。 (どうしよう。。。。。) 自分の役立たなさに、悲しくなるけれど、そんな泣き言を言っている場合ではない。暫く考えた後、不意に中国の古文に、 筆がなくて、自らの血で文章を書いた人物がいた事を思い出し、雪菜は指を口元に運んで思いっきり噛み破いた。 どうやら一度限界まで追い詰められると、何処までも暴走する性格らしい。当然、乖吏は雪菜の行動にぎょっと瞳を見開く。 「ちょっと待て!!!まさか。。。。何考えてるんだ!!止めろ!」 実際信じるのに暫く時間がかかったが、慌てて彼女の手を掴むと、近くの椅子に座らせた。時代的に間違っているし、今時そんな事をする女子高生は 何処をどう探してもいないだろう。一気に疲れがたまった乖吏は、自らその横に座るとげんなりと溜息をついた。 「アホかっ!ったく。。。。書かなくて良いから言え!!」 唇を読むと言う意味で言った事なのだが、雪菜は一瞬解らなくて戸惑いを見せる。血が滲みでる指に仕方なくハンカチを巻いてやりながら、 乖吏は可也ドスの聞いた声で吐き捨てた。 「唇読むっつってんだよ!さっさと言え!!」 機嫌の悪さからか、可也ガラが悪くなっている乖吏にびくびくしつつも、雪菜は勇気を出して口を開いた。聞いてくれるだけでも良いのかもしれないと 思いつつ。ゆっくりと丁寧に唇を動かす。何度か同じ台詞を繰り返している内に、乖吏の顔がみるみる内に冷たく、無表情になって行った。 「。。。。。。兄さんも随分とお喋りだな。」 何を考えているのか解らない、雪菜が一番怖いと思う表情で、淡々と言葉を吐き出す。ぞくりと背筋が震えた。 「で?結局お前は何が言いたい訳?」 収まっていた震えが、一気に舞い戻る。まるでヘビに睨まれた蛙のような心境だった。何か言わなければ。。。。と思うのに、 何も思い浮かばない。家に戻った方が良いと言えば良いのだろうか?それとも、家族を信じてと?自棄になるのは駄目だって? そんな事が言いたい訳ではなかった。何も知らないのに、どうしてそんな安っぽい言葉が言えよう。 只。。。。。。。。。 (悲しい顔を。。。。しないで欲しかったの。) 「。。。。善人ぶった事言うな。」 きょとんと雪菜の瞳が、無表情に大きく見開かれる。 「お前は知らねーだろーけど、俺はこれが普通なんだよ。別に父親が死ぬのは始めてじゃないし。。。。最初から。。。家族だと思ってた訳でもない。どーせこうなる事は前から 解ってたから籍も入れてなかったしな。蛙の子は蛙って所だな。。。。美尾里と違って俺は遺産に興味ねーから、面倒に巻き込まれねー用に家には帰らないだけだ。」 怖い程に冷たい笑みを浮べながら話す乖吏を、雪菜は瞬きもできずに見詰めていた。 本当に、そう思っているとは、どうしても思えない。。。けど。。。何かふつふつとした黒い物が胸に湧き上がる。ずっと昔にも、 一度。。。こんな風に思った事があった気がするけれど。。。正体のつかめないそれを、取り合えず気にしない様にしながら、震える唇を動かして、雪菜は尋ねた。 (お母さんを、信じてないの?) 「。。。。俺が物心ついた頃には、既に男引っ掛けてたような。。。。死んだ夫の葬式にも出ないような奴を信じられると思うか?。。。まぁ、 お互いに余計な干渉はなしだからな。勝手にすれば良いさ。。。。別に何人殺そうと俺は。。。」 パン!!!!! 切れの良い音が、夜空に響く。滑稽な事に、一瞬何が起こったか解らないのは、二人共同じだった。只、僅かに痛む頬を押えて、瞳を見開く乖吏とは 対象的に、雪菜は立ち上がり、ボロボロと涙をこぼしている。明らかに平常心は失っていると思われた。 (。。。。。。。っ馬鹿ぁぁぁ!!!!!) 声にならないと解っていても、叫ばずには居られなかった。怒涛の渦の様な感情が全身を駆け巡って止められない。まだ正常に動く脳裏の端で、 それは怒りなのだと解った。 (ばかっ。。。ばかぁぁ!!!悲しいなら、悲しいって言えば良いじゃない!!!!そーやって格好つけて。。。。辛いのは貴方だけじゃないわ!!!) 美尾里は、決してそんな事をしている訳ではない。幼い子供の視点で、解る事はほんの少ししかないのだから。。。宍道だって、無くなった彼の父も、 きっと彼を家族だと思っていた筈だ。ロクに現実も見ないで、否定だけをしないで。 沢山言いたい事はあるのに、何一つ。言葉にならない。どうして。。。?言葉は、話せない訳じゃないって病院の先生は言った。彼女が 話したいと強く思った時に話せるようになると。今は、まだその思いがたりないと言うのか。。。 歯がゆくて、悲しくて、雪菜はその場にへなへなと座り込むと顔を覆って泣き出した。 ゥ 初めて目の当りにした雪菜の怒りを、乖吏は半ばあっけに取られて見ていた。普段温和を通り越して天然ボケと思われかねない(実際そうなのだろうが) 程に穏やかな雪菜から、平手打ちを食らう日が来るとは、夢にも思ってなかったからである。しかも彼女が誰かをののしるなど、初めてではないか。。。と、 一瞬他人事の用に思ってしまった。尤も、『馬鹿』と言われた事以外はまったく解らなかったのだが。 「。。。。泣くなよ。」 糸が切れたように、その場に座り込み、子供の様に泣きじゃくる雪菜の姿を見ていると、苛立ちが急激に引いて行くのが解る。 本当にどうしようもない奴だと思った。 「なんで。。。。お前が泣くかね。」 苦笑しながら、彼女の前に膝立ちして、その体を引き寄せる。雪菜はじたばたと抵抗をしたが、構わず強引に抱き締めた。 「。。。悪かったよ。。。。。。ごめん。」 なんで謝られるのか、いまいち納得がいなかいが、それでも、腕の中は暖かくて、雪菜は抵抗を止めた。涙が止まらずに衣服を濡らして行くけれど、 乖吏は気にする様子はない。 (結局。。。。。私、何しにきたのかなぁ。。。。) 彼を慰めるつもりが、反対に慰められている状況に雪菜は小さく溜息を付いた。でも、気持ち良い。もう少し、このまま。。。。 「。。。。。ありがとな。」 暫くの沈黙の後、乖吏が呟くようにしてそう言って腕を放す。。。。が、とさりと崩れかかってきた雪菜に、慌ててその体を再び抱きかかえた。 「。。。。。。。寝てるし。」 なんと言うか。。。。気の抜ける奴だ。けれど、この方が雪菜らしいかもしれない。苦笑しつつも、この状況をどうしようかと思っていると、不意に背後から 声が掛かった。 「何夜道でイタイケな女の子襲ってるのよ。馬鹿息子。」 驚きと嫌悪の入り混じった表情で振り向いた其処には、案の定、美尾里が立っていた。 「なんでこんな所にいるんだよ。」 「雪菜ちゃんにコートを返そうと思っただけよ。まったく。。。さっさと車に乗りなさい。」 なんで雪菜のコートを借りているのか、そもそも何故知り合いなのか、幾つもの疑問が湧く乖吏をまったくもって気にする様子はなく、 さっさと車に乗り込んだ。此処からタクシーを呼ぶのも困難だと判断した乖吏も、仕方なくその真赤なスポーツカーに乗り込む。何故か、 手放す気になれなくて、雪菜はそのまま膝に乗せた。 「酔いがちょっと覚めてから気付いたのよ。それ、かけてやって。」 そう言って投げ渡されたコートで、雪菜の体を包む。これだけ動いているというのに、よっぽど疲れていたのか、雪菜は一向に目を覚ます様子は なかった。只すやすやと、一定の速度で呼吸を繰り返す。 「それにしても、アナタが雪菜ちゃんと知り合いだとはねぇ〜。。。。。世の中解らないもんよね。」 「それはこっちの台詞だ!なんで美尾吏がこいつを知ってるんだよ。」 「母上様と呼びなさいって言ってるでしょ!!」 「。。。。。。。。。」 何言ってるんだこのババァ。。。。と乖吏が思ったのは言うまでもない。 「父さん。。。。たちの、お墓参りをする時に良く会うのよ。」 「。。。。。は?」 美尾里の説明は、明らかに嘘に思えた。何故なら、三人の父親の墓は、それぞれ全く違う別々の場所にあるからだ。また嘘つくつもりか。。。。 と半ばげんなりしながらも、此処で無視すれば雪菜が悲しみそうな気がして、仕方なく口を開いた。 「。。。それって何処?」 「。。。。。結構遠いわ。電車で2時間はかかるわね。。。。。帰郷柱神社の裏にあるお墓よ。」 言いにくそうに話す美尾里は、乖吏には、言葉を濁らせているようにしか聞こえない。 だが、同時に、そんな見え透いた嘘をつくのも、なんだかおかしいと思った。 「父さんたちの墓地じゃないだろ?」 「。。。。。。。父さんたちのお墓よ。私が作って貰ったの。土の下には。。。何もないけどね。」 「なんでまた。。。」 「。。。本物の在り処が解らないからよ。」 乖吏は驚愕した。父親の墓参りは、自分とて長年してないが、それでも場所ぐらいは父方の祖父母から聞いていたからである。 それを美尾里が知らない筈はないと思っていた。 「俺は知ってるけど?」 「それは知ってるわ。。。。でも私には知らされなかった。葬式の日もね。無理やり行って、一々怒鳴りあいする必要もないし。 だから、全部一人でやったわ。そう言う物は、気持ちの問題だから。 お墓も、近い方がお参りしやすくて便利よ。」 乖里は呆気にとられた。淡々と、自分の事しか考えてないと思っていた美尾里がそんな事をしていたとは夢にも思っていなかったからである。 それでも、全て一人でやったのかが納得できなかった。幼心には、祖父母に連れられるよりも、たった一人の母に、着いていきたかったのに。 数多くの罵りの言葉が、どれ程悔しかったか。 「なんで。。。。。」 「言い訳は嫌いだからよ。実際、私と一緒にいて皆死んだ訳だし。。。。相性の合わない人間と無理して係わり合いになろうなんて思わないわ。 それが例え親戚でも、義父母でも。。。。自分の息子でもね。」 やっぱり何処までも自分勝手な女だと思った。だけど、それが自分の母なのかもしれない。意地っ張りというかプライドが高いと言うか。。。。。 諦めにも似た気持ちと共に、なんだか肩の荷が下りた気がして、乖吏はくつくつと笑い出した。 「何よ。気持ち悪い。」 「くくくっ。。。諦めたんだよ。」 「ちょっと、それが自分の偉大なる母に向かっていう言葉?。。あ〜ぁ。。。私も雪菜ちゃんみたいな素直〜な子供が欲しかったわ。」 「お前からじゃ死んでも生まれないな。」 「。。。。そーね、アナタが妥当よね。」 悪かったな。。。。。とどつきながらも、それはけっして不快な気持ちではない。雪菜が小さく寝返りを卯って、二人は 会話を中断させた。心地よい沈黙が広がる。 「。。。。それにしても、アナタってば何時趣味が変わったの?」 「は?」 突如の質問に乖吏は思わず間抜けな返事を返した。美尾里は可笑しそうに笑う。 「雪菜ちゃんよ。アナタ、今まで私と同じようなタイプとばっかり付き合ってたから、心配したけど、良かったわ〜。」 「お前それでも母親か!!大体こいつとはそういう関係じゃない!」 見ていないようで、実はしっかりと息子の観察はしているらしい。尤も突っ込んではいけない突っ込みを実にさり気無く述べてくれたようだ。 乖吏とあっては、もはや呆れと絶句で一気に頭痛が起こってきそうだった。。。。。母親に向かって言う事でもないが、やはり相性が会わないのかもしれない。 「冗談よ。でも、人なんて、直に居なくなっちゃうんだから、早く素直になった方が良いかもね。」 それを言ってから、美尾里は再び黙り込んだ。不服に思いながらも、返す言葉が見つからずに、乖吏も黙り込む。相変わらず、腕の中では、 雪菜が規則正しいく寝息を立てていた。街灯の明かりに照らされて、涙の後がいく筋も頬に浮かびあがって、思わず抱き締める腕に力を込める。 怖いと思ったのは、手放せなくなりそうなこの温もりだったのだろうか。 何の警戒心もなく、穏やかに眠る腕の中の少女を、愛しいと思った。 愛しいと、思ってしまった。 |
| 自分勝手な所が似ている親子です。(爆) 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆) <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |