| Chapter16: 『 雪菜の決意(前編) 』 |
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夜の街は好きじゃないと思った。チカチカと光る看板やら、テールランプやら。ざわめきは昼間とはまた違った色合いを持っていて。 自分が掻き消されてしまいそうで怖くなる。それに。。。。先ほどからやたらと見られるような。。。 深夜近くに、決して健全的とは言えない繁華街を令息令嬢が通う事で有名な私立高校の制服を着て歩けば当然なのだが、そんな事に気付く筈もない雪菜は 突き刺さるような周囲の視線に怯えながら賑わう夜の街を歩いていた。 怖い。。。。。帰りたい。 でも、どうしても伝えたかった。美尾里の気持ちと、宍道の気持ちと、それから。。。 自分が可也無謀な事をしようとしている事は解っていた。大体、乖吏が何処にいるのか、検討すらつかないのだから。その上、先ほどからちっとも進まないのは他にも原因があった。 「どーしたの?そんな思いつめた顔しちゃって。お兄さんが慰めてあげよっか?」 まどかなら臭さに全身痙攣を起こし、速攻で抹消しかねない寒い台詞を吐きながら絡んでくる目の前のチャラ男。既に六人目である(三人はオヤジだった)。 言葉が話せない為に断る事もできず、残念ながら気長に書いた文章などを読む筈もない相手に雪菜は逃げるしかないのだ。 (ごめんなさい〜〜〜!!用事があるのです!!!!) この後に及んで相手に失礼を働いてしまった事に悩みつつ逃げようとする雪菜。。。。。此処まで来ると流石に飽きれるしかない。が、不意に ぐいっと手首を掴まれて驚いて振り返った。 「無視することないでしょ?」 唇だけを妙に引きつらせて、男は心底楽しそうな笑みを浮べた。何時の間にやら周りには他に数人集まっていて。嘗め回すような視線に雪菜の背筋にぞくりと悪寒が走る。 (は。。。。。放して。。。。) 力の限り振りほどこうとするが所詮は無駄な抵抗で。嫌がっているにも関わらず声の一つも上げようとしない雪菜に一瞬だけ怪訝そうな表情を浮べた男だが、大して気にする様子もなく 楽しそうに笑い出した。 「返事がないって事はOKって事だよね。」 そう言うや否や、物凄い力で引き摺られて。男の手の中で紙筒のようにくしゃくしゃと握られた腕は激しい痛みを伴っていた。少しだけでも叫ぶ事ができれば、 その力も緩んだかもしれないが、雪菜は涙を滲ませる事しかできなくて。これからどうなってしまうのか予想もできずに、只恐怖に怯えていると、 刹那、一際甲高いカークラクションが鳴り響き、それと同時にオブシディアンブラックのスポーツカーが途轍もない勢いで歩道路に突き上げた。周囲にいた人々が、腰を抜かしたり、 逃げ回ったり、野次馬精神で反対に集まったりする中、誰一人負傷していないのは奇跡に等しいだろう。 突然目の前に現れた漆黒のスポーツカーに対して、雪菜は大きく瞳を見開いたが、背後にて、壁にへばりつき、 真っ青な顔のまま口をパクパクさせる彼女を取り巻いていた男たちの反応に比べれば可也マシな方であろう。 (。。。。やっぱり夜の街は危ないね。) と、雪菜は一人で納得していた。外れてはいないのかもしれないが、やはり何処かが違う気がしてならない。。。が、 この際それはさておき、周囲を怒涛の混乱に陥れておきながら、優雅に車から出てきた人物にあっと雪菜の表情が変わる。 「お?やっぱり雪菜か。どーしたんだ?とうとう夜遊びを覚えたか?」 にっこり。。。もとい、ニヤリと実に余裕な笑みを浮かべたのは、誰を隠そう弥であった。確実に免許取れる年でない上に、 取ったとしても先ほどの交通違反。。。のレベルではもはやない殺人的行為で取り払われたに違いない。何処までも末恐ろしい女子高校生である。 (えっと。。。そうじゃなくって。。) 「なーんてな。大体予想はついてるさ。どうせ。。。。」 ビビーーーーーーーー!!!! 刹那、弥の台詞を遮るようにして、又もやカークラクションが鳴り響いて。振り向きざまに、車と車の間を突っ切るようにして此方に猛突進してくる。。。。 ベンツを見つけた弥はニヤリとそれはそれは楽しそう(邪な)笑みを浮べた。 「ふーん。早いじゃん。今日は。ちったぁー遊んでやるかな。乗れよ!雪菜!!!」 ほえ?っと何がなんだか解らずに首を傾げる雪菜を、もう一度急かしてから車に乗り込ませた弥は、力強くアクセルを踏むと、そのまま車をバックさせ、 一気に人ごみを突っ切った。危険を通り越してもはや神業である。 (わっ。。。弥ちゃん、はっ速すぎ。。。) 特急で繁華街をつっきるBMW7と、それをこれまた豪速で追いかける酷く場に似合わない漆黒のベンツ。 なんだか訳が解らないが、行き成り巻き込まれたカーチェイスに、雪菜は大混乱に陥っていた。当の弥は日常茶飯事だとでも 言うかの如く、さらりと髪を掻き揚げてから口を開く。 「で、雪菜は結局あいつを探してるんだろ?」 鋭い。。。鋭すぎる。そして爆走中にも関わらずこの余裕はなんなのか。 「まぁーなぁ。。。鬱螺院長が亡くなった事はまだ公開されてないけど、父上と母上が言ってたからな。」 流石は世界を誇る結城大企業である。情報網は並ではない。絶え間なく流れる景色とは対照的に、車内に妙な沈黙が続いた。 弥が何を思っているのか、雪菜には解らなかった。弥の考えが解る人間なんて、いないのかもしれないけれど。 「ホント、健気だね〜。雪菜は。。。。よし、この僕が手伝ってあげよう。」 暫く考え込んだ後にようやく口を開いた時、弥は既に何時もの悪戯な笑みを浮べていて。え?っと瞳を見開く雪菜を 余所に、片手ハンドルの侭、車のスピーカーに電源を入れる。 ”お嬢様!!!お嬢様いい加減にして下さい!!!!!” 途端に響き渡った男の怒鳴り声に、雪菜は思わず仰け反った。弥はというと笑いをかみ殺している。 「セイ、お前まさかずっとそーやって叫んでた訳?ごくろーさん。」 ”お嬢様〜〜〜〜〜!!!!!!” もはや切れかかっている様子の相手に、弥は相変わらず可笑しそうに笑っていて。姿の見えない相手を、雪菜は少しだけ哀れに思うのだった。 「まぁ、良いや。取り合えず、今からとある人物のデータ送るから、そいつの現位置を衛星で調べろ。5分でな。」 ”何馬鹿言ってるんですか!!!またそうやって会社の機関を私物化して!!!” 「私物だし?」 ”ふざけないで下さい!!社長の許可なしにそんな事ができる訳ないでしょう!!” 「っつーかな、ベンツで繁華街カーチェイスすんのも十分違反してると思うぞ。今更だ今更。」 ”誰の所為ですか!!!!” 今、スピーカーからでなく遠く背後から声が聞こえたような。。。 とうとう切れてしまったらしい相手に、弥はやれやれと首を振る。まったくもって反省の色ゼロなその様子に雪菜は心底相手の男性に同情を覚えた。 (わ。。。弥ちゃん、私はいいから。。。。) くいくいと弥の袖を手繰り寄せて、なんとか止めてみようと心見る物の、弥は大丈夫の一点張りで全く聞き入れようとしない。 ”お嬢様が本家に戻ると言うなら別ですが。” 「ほぉ。。。イタイケな少女を脅すよーな奴に成り下がったか。セイ。」 ”そういう台詞はマトモな女性に言って頂きたい物ですね。” 弥と対等にこれほどまでに言い争える人物は今まで知らなかった。尤も、やはり弥はどこか楽しんでいる節があるが。。。。 一体誰だろうと、雪菜の胸にちょっとした好奇心が湧き上がる。やがて、諦めたのか弥はやれやれと頭を振った。 「解った。一日だけ戻ってやるよ。じゃ、約束どーりさっさと調べな。五分以内に調べられなきゃ交渉はなしだ。」 ”。。。。了解いたしました。” プツリとスピーカーが切れる。どうやら相手の方が電源を切ったらしい。少しだけスピードを緩めた弥に、雪菜は恐る恐る顔を上げた。 (弥ちゃん。。。ごめんね。。。私の所為で。」 申し訳なさそうな視線に弥はにっこりと笑う。ニヤリとした怪しげな笑みではなく、彼女にしては純粋な笑顔だった。 「良いって。どーせ最後は戻るつもりだったし。あいつの場合、そーでもねーと、本気で死ぬまで追いかけるだろーからな。」 弥がそう言うやいなや、又もやスピーカーから電源が入り、先ほどの男性の、今度は随分と事務的な声が響いた。 「捕まりました。48分前、この先三ブロックを右にまがった地点を最後に消息が途絶えております。恐らくは建物の中に入った物かと。」 はっきり言ってたかが高校生男子に、こんなスパイ映画紛いな捜索をかけるなど馬鹿馬鹿しいような気もするのだが、それはあえて突っ込みを入れないでおこう。 その簡潔な結果を黙って聞いてから、弥はお得意の得たいの知れない笑みを浮べた。 「3分45秒ね。まぁまぁじゃない?」 ”約束は守ってくださいね!” 「解ってるよ。」 シツコイと吐き捨ててから、弥は再びアクセルを踏んだ。心地よい振動と共に、車がスピードを上げる。あまりにも早い展開に 雪菜はなんだか着いていけずにいた。只、乖吏に会える事だけは理解できたけれど。。。。 やっぱり弥は凄い。結局誰かに頼らなくては何もできない自分が今は少し悲しかった。 ゥ 繁華街の中心地には、当然高級カーが二台も止まれるようなスペースなどない。仕方なく少し離れた所にて弥は車を止めた。 先に雪菜を下ろしてから、バタンと車のドアを閉じて、自分も降り立つ。そして車の横に寄りかかるようにして立ち、挑戦的な視線で背後に広がる闇を 睨みつけた。 まもなく漆黒のベンツが追いつき、中からすらりとした男性が降り立つ。綺麗なグリーン・アイズ。日本人離れした美しい 容貌を持つ男性だった。あまりに高貴なその見た目から、先ほどまで怒鳴り散らしていた人物とは到底重なり合わない。 「お久しぶりです。お嬢様。」 「そーか?この前会ったばかりだろ?」 「三ヶ月前ですけれどもね。」 なんだか顔をあわせた途端、バチバチと火花を飛ばす二人に、雪菜は冷や冷やする。 「ったく相変わらずカタッ苦しいやろーだな。僕の友達にまず自己紹介してくれないか?」 やれやれと、呆れるようにして弥が放った言葉に、男はようやく雪菜の姿に気がついたらしく、慌てて近づいてその小さな白い手を取った。 「始めまして。セイ・ヤニュアコヴスキーと申します。弥お嬢様の教育係を勤めさせて頂いて降ります。以後お見知りおきを。」 (わっ。。。。/////) 手の甲に掠めるようにキスを落とし、紳士的に一礼をしてから、先ほどとはまるっきり別人としか思えない穏やかな笑みで自己紹介を述べたセイに、 雪菜は一瞬にして赤面に陥った。此処まで紳士的な態度を取られた事がまるっきりなかったからかもしれないが、セイが、王子的外見も重なって 実に様になっていたからだ。なんだか住んでいる世界が違う人だ。。。などと雪菜が感動していると、それを察したように弥が可笑しそうに口を開いた。 「雪菜、感動する事はねーぞ。今時ンナ中世の貴族のよーな時代遅れな自己紹介するつまらなーい野郎なんだ。」 (え。。。そんな事ないよ。。。) 「考えてもみろって、もし今時、平安朝の口調を使うヤローがいたらどーする?嫌だよな?それと同じよーなもんだって。変態あーんど気色わりぃーよ。」 いくらなんでも其処まで言う事はないと思うが、確かに一理あるかもしれない微妙な屁理屈に雪菜は一瞬困惑する。 それと同時に、セイの端正な顔に酷く不釣合いな青筋がぴきぴきと浮き上がった事にぎくりと後ずさった。 「お嬢様。。。。。。。。。。その口の悪さは私の教育のせいですか。。。。。」 もやは声が臨界点を超えている。揺らめくオーラーが見えるのは気のせいか。。。。。 「いやいや、そんな事ないって、セイの教育なんてこれっぽっちも耳に入ってないから。」 (ひぃぃぃ〜〜!!わっ。。。弥ちゃ〜ん!!!) あぁぁ。。。こんな時にまで人の神経逆撫でしなくても良いのにぃ!!っと言う雪菜の心の叫びも届かず 弥の台詞にぷつりと何かが切れた音がした。知る限りで、今日二回目である。 「ふふふふふ。。。一から教えなおす必要があるみたいですねぇぇぇぇーーーー!???」 。。。。。。。目が行ってしまっている。 「悪い悪い!セイは一旦切れるとしつこいから連れて帰るわ。んじゃ、目的の店はこの二つ先だから、頑張れよー!雪菜!!!」 自分で其処まで追い詰めておきながら、まるで人事の様にそう言い放つと、弥は切れて異様な高笑いをする美男子(セイ)の首根っこをひっ捕まえて リムジンの中に押し込めた。そして自分はその運転席に乗り込むと、猛スピードでその場を後にしたのである。 (弥ちゃん。。。。。この車、どうするのかなぁ。。。。あっセイさんに自己紹介するの忘れちゃった。) あの状況で自己紹介するのは可也無茶な気がするが。。。。十秒程、その場で見当違いな事を考えた後、やっと状況を飲み込んだ雪菜は既に影も形も無くなった リムジンに向かってぺコリとお辞儀をした。 (あした。。。弥ちゃんに会ったらちゃんとお礼をしなきゃ。) そんな事を思いながら、雪菜はパタパタと目的の店へと走り出した。 |
| 予定外に長くなったので区切りです。 楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆) <<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>><<...RAKUEN...>> |