Chapter14: 『 Cracked Heart 』


変化は、唐突にしてやってくる。

「おーい、雪菜、放課後、ヤキイモしよーぜ。」

大財閥の令嬢にしては、妙にすれている弥から誘いがあったのは、文化祭が終って間もなくの事だった。 季節は11月の終わり、まぁ、やきいもに適した季節である事は間違いないが。。。雪菜心にはひっかかる事があった。

「顔に出てるわよ、雪菜。どーせ今日も来ないでしょ?もーかれこれ1週間は休んでるじゃない?」

側でまどかがすかさず茶々をいれ、ばれてしまった事に一瞬真赤になる雪菜だが、今更誤魔化しようもないので、素直に頷く。その表情は、 やはり晴れない。まどかの言ったとおり、乖吏は文化祭終了直後から、一度も学校には現れなかった。勿論、学校に来ない間、一度も会った事が 無いわけではない。。。。だけど。。。。

「しっかし随分と溜まったもんだよな〜、まぁ、落ち葉集めなんて肉体労働しないだけ済んで良いんだけど。」
「あっ!ちょっと弥!右の山は使っちゃダメよ。後で犯人狩りに行くんだからね!!」

ヤキイモの筈がなんだかまるっきり別の話をしている様な気のする弥とまどかの目の前には丁度良いころあいの焚き火に、 落ち葉の変わりと思われる封筒の山がつまれていた。
実は、これらは全部、文化祭の後、雪菜に送られてきたファンレター/ラブレターである。(まどかのも混ざっているらしいが。) 人魚姫舞台の後、当然と言うかなんというか、雪菜に対する人気はそれはそれは鰻のぼりで、それに伴うように、 ブラックメールも数を増やしていた。っが、どちらにしろ、まどかに言わせればロクでもない物に変わりはないらしく、 とりあえず悪意はないファンレターは清く正しくリサイクルをし、ブラックレターの場合は。。。言わなくともご理解いただけるだろう。

(はぁ。。。。。)

そして、親友の二人が(自分の為とは言えど)世にも恐ろしい計画を練っているとは夢にも思わず、 相変わらず心此処にあらずと言った様子で、ぼーっと焚き火を見ながら、雪菜は溜息を吐いた。 恭子は一緒になって学校さぼり、乖吏を探し周っている。雪菜は何もできずにいた。

「雪菜、元気ないね。。。。。」
「そっとしといてやれって今回ばかりは、正念場だろーな。雪菜も。」
「どーゆー意味よ。ふん。。。。戻ってきたら肋骨ぐらいはへし折ってやらないと気がすまないわ。」

なんだか先ほどから心配そうな眼差しを向けてくる二人に気がついて、雪菜は慌てて微笑んだ。

ごめんねと、有難う。

それは正直な気持ちだった。とても大切な二人に、心配をかけさせたくはないのだけれど、どうしても考えは同じ所に 引き摺り戻されて。笑顔を長く保つ事はできなかった。





乖吏とは、もうかれこれ一年と少しの付き合いだ。
初めて助けられて来た日から、雪菜は一定の距離を保ってきた。
何時好きになったのかは解らない。一目ぼれだったのかもしれない。けれど、なんとなく、 彼は関わりをもつ事が嫌いな様に思われた。現に、乖吏は自分の事を話たりしない。雪菜も聞かなかった。それは、 彼女の道徳であったし、何よりも、怖かった。

噂を聞いたから?
女の人と一緒にいるのを、良く見かけたから?

ううん。。。。きっと。。。

時々見せた瞳の色。。。。。。


ドン!!!

急に強い衝撃がしたかと思うと、次の瞬間、雪菜はしりもちをついていた。

(ごっ。。。ごめんなさい〜〜〜)
「いったぁ〜〜〜!!!」
声には出ないのだから、当然相手には聞こえないが、それでも反射的に謝る雪菜。が、直にぶつかった 相手らしい人物の聞き覚えのある声に驚いて瞳を見開いた。

「もう!!前を見てよね!!!って、あれ?三月先輩じゃあないですか。こんな所で何をしてるんですか?」

酷く苛立った声を一転させて、驚愕した声を上げたのは、紛れも無くここ数日間、乖吏と同様行方をくらませていた恭子だった。

(えっと。。。)

何をしているのかと聞かれても、正直困る。 特に用事も無かったのだけれど、休校し続けている乖吏が気になって。 元々、出席日数は良い方では無かったのだけれど、大通りに行けば会える気がしたのだ。 会っても、どうにもできないけれど。。。略無意識に此処まで来てしまったに等しかった。

「なーんて、愚問ですよね。浅葱先輩に会いに来たんでしょ?」

が、雪菜が返答に困っているうちに、恭子はさっさと答えを決め付けてしまい、当らずも遠からずな見通しに、 雪菜は何時もの如く流されるしかない。そんな雪菜様子を、肯定と取ったのか、恭子は胸を張って「負けませんよ」と 言い放った。

(ふふふ。。。。可愛いな。。。恭子ちゃんは。)

宣戦布告をされたにも関わらず、のほほんとそんな事を思う雪菜であったが、実際その時は恭子に癒されていた。 自信満々な恭子を見ていると、勇気が沸いてくるし、行動力のある恭子が、雪菜は羨ましかった。どうしたら、 そんな風に振舞えるのか。。。。悩んで悩んで、結局何もできない自分と比べると、悔しいけれど、尊敬せずにはいられない。
そんな事を考えていた刹那だった。
人混みの中に、探していた影を見つけたのは。乖吏は、やはり見知らぬ女性といた。

「あぁ〜〜〜!!!!!浅葱先輩!!!!」

突如、恭子が大きな声を出して乖吏を呼び止める。周囲がそろって振り向く程の呼び声に、当然乖吏も気付かない筈は無かった。 いつもの用に、嫌々あきれた顔して振り向くものだと雪菜は思った。この状況で、割って入る事ができる恭子に凄いなぁ。。などと のんびり関心していた矢先だった。

向けられた視線に雪菜は硬直した。

その瞳は、明らかな拒絶の色を浮べていたから。
怖かった。気付いてないのか、その振りをしているだけなのか、乖吏はその侭視線を戻して、傍らの女性に笑みを浮べた。 そう、笑顔を浮べた筈だったのだ。それなのに、その表情が冷たい刃の様に思えるのはどうしてだろう。

(。。。。。。。いや。。。。)

ぞくりと背筋に悪寒が走った。好きな人が、他の女性と一緒に いるのだから、他に気にすべき事が沢山あるのかもしれない。だけど、その時の雪菜には、 彼が見知らぬ女性と一緒にいるという事実より、見たこともないような乖吏の表情が、 手痛く心に突き刺さった。

(。。。。。どうしたの?。。。)

なんとか、平常心を保とうとして、胸に手を添える雪菜には目もくれず、恭子はやはりというかなんというか、怒って駆け寄ろうとして、雪菜は咄嗟に彼女の腕を掴んで引きとめた。

「なんですか!!?先輩!!離して下さい!!」

街中で痴話喧嘩は良くない。それに、今の乖吏の行動はいわば彼の自由だ。悪いと言えば悪いのだが、法律上問題はない。 だけど、それら全ての問題を差し引いたとしても、雪菜は恭子を止めなくてはいけないと思った。本能的に、自分たちの存在は 場違いな気がしたのだ。。。少なくとも乖吏にとっては。

「もうっ!!邪魔です!!!」

けれど、他人の気持ちに鈍感な恭子は、引き止める雪菜の手をいとも簡単に振り切って駆け出す。
本当ならば、自分もそうすべきなのかもしれない。
恭子は、気がついているのだろうか。乖吏の変化を。。。気がついて直もそんな行動に出たとしたなら。。。。

なんて勇気だろうと思った。

私は。。。。一歩を踏み出すだけでもこんなに怖いのに。

暫く途方にくれて立ち尽くしてから、雪菜はようやく恭子を追いかけるように走り出した。間近にいる筈なのに、酷く遠い距離に思えて 、訳もなく息が上がった。





一日一日が、なんだかやけに長い気がする。
憂さ晴らしをしたくて、女を何人も落としたけど。余計にイラついた。

いや、違うか。。。。。

元に戻っただけだ。

「うるせぇーよ。。。。」

目の前でキャンキャン叫ぶ少女に、乖吏は静かに言い放った。いつもよりもずっと落ち着いた声で放たれた筈のそれだが、静かな怒りを 称えたそれに、一瞬、流石の恭子も怯む。此処最近、何日か恭子には会っていたが、毎回毎回しつこく邪魔をされ、いい加減乖吏の 我慢も限界に達そうとしていた。

「ですからなんなんですか!!三月先輩!!」

そんな乖吏の心情など、まったくお構いなしで恭子が再び口を開こうとした瞬間、がしっとその腕を掴んだ人物に、乖吏は一瞬瞳を見開いた。
何故か疲れているらしく、息を切らせて、不安げに瞳を伏せるその少女は、雪菜だったから。何かを言いたかったけれど、言うべき台詞など 見つからなくて。

「行くぞ。」
「そうね。まったく、一体誰なの?この子たち。」

ますます苛立ってしまった心の矛先を代える為に、乖吏はデート中だった女性を引き寄せると、そのまま立ち去ろうとする。。。が、 当然そうはとんやが下ろさない。

「待って下さい!!!!!」

基本的に恋愛至上主義である恭子にとっては、乖吏の心を掴むためならば、手段は問わなかった。 その為ならばなんでもするし、当然乖吏が他の女性と付き合えば、断固阻止せねばならないのである。

「何かしら?急いでるんだけど。」
「五月蝿いわね!!!貴方なんて眼中にないわよ。ちょっと、黙ってよ!!オバサン!!」
「なっ。。。なんですって!!??言わせておけばこのガキ。。。」

それに加えて、相手の女性の態度が気に食わなかったらしく、尤も言ってはいけない台詞を吐き出す恭子。当然、女性の方も、 自分の容姿にはそれなりの自信とプライドがある訳で、青筋を何本も浮べて、鬼のような形相で喧嘩を始めた二人は はっきり言って注目の的にもなる上に、恐ろしい事この上ない。

(。。。どっ。。。どうしよう。)

そして、当然この様な修羅場に入っていける勇気がある筈もない雪菜が、只冷や汗を流しながらおろおろしていると、またもや 恭子の威勢の良い声が響いた。

「先輩、もうこんな事止めて下さい!!だって、先輩はこの人の事別に好きじゃないでしょう?見てたら解ります!!本当の恋はそんな 物じゃないです!!こんな事をしても、寂しいだけじゃないですか!!」

それは、誰が聞いても真っ当な意見だった。真っ直ぐな物言いに、雪菜は又もや感嘆するが、それと同時に脳裏に警告の鐘が鳴る。 確信という名の酷く脆い壁を崩した言霊は、時として強すぎる力を持つ物で。それは決して良くない 副作用を呼び起こすのだ。雪菜は一瞬にして絶対零度の冷たさに到達した乖吏の瞳を息もできずに見つめていた。

(と。。。。止めなきゃ。。。)

そうは思っても、足が動かなくて。

「言いたい事はそれだけか?」

凍てつきそうな程の怒りオーラーを、流石に感じ取ったのか、恭子も瞳を大きく見開く。

「それじゃあこっちも言わせてもらうぜ。何様のつもりで俺に意見するのか知らねーけど、いい加減うざってーんだよ。二度と俺の前で その解ったような口を利くな!!」

今までも十分否定的な態度を取っていた乖離だが、此処までストレートに言葉にした事はなかった。 実際、そこまで言う必要もないと思っていたのだろう。だが、その時は既に何も考える余裕すら なかった。只、黒い衝動が、全身の感覚を麻痺させて行く。これで相手が女でなければ、間違いなく手を 上げてただろう。暫く、硬直したまま立ち尽くす恭子だが、直に大きく泣き出すと、その場から走り去った。

(恭子ちゃ。。。。。)

その泣き声に、やっと金縛りから解き放たれた雪菜は、乖吏をちらりと 見上げるが、視線が合った瞬間に、彼はふいっと視線を反らす。表情のないその横顔に、胸を 突かれる思いをしながら、雪菜は踵を返して恭子の後を追いかけた。泣かせたのは自分ではないけれど、 酷い罪悪感で、こっちも泣き出してしまいそうだった。





「。。。。ぐすっ。。。。」

人気のない公園のベンチに座って感傷に浸っていた恭子は、息を切らせて駆け寄ってくる人物の姿に気付き、思いっきり立ち上がった。

「なっ。。。なんで追いかけてくるんですか!!放っておいてください!!!」

仮にも恋愛仇に泣き顔を見られる事は、彼女のプライドが許さないのと、多少の八つ当たりも加わって、恭子は嫌悪の眼差しを向けるが、以外にも 雪菜は怯む事なく近づいてきた。走る事になれていないのか、ばててはぁはぁと荒く息を吐いている。

「変な慰めはいりません!!どうせ、こうなってざまーみろって思ってるんでしょ!!!???せいせいしたんでしょーね!さぞかし!!」

段々と再び涙声になってくる恭子に、雪菜は途方にくれる。そんなつもりは無いのだが、無いと言った所で偽善にしか聞こえない事も 確かで。どうしようもなくて、取り合えず雪菜は恭子を座るように促した。

「三月先輩は。。。。どうして平然としていられるんですか!?浅葱先輩が他の女の人といても。。。」

暫くの沈黙の後、不満と怪訝の混じった声で尋ねられ、雪菜は困ったように首を傾げてから、メモ帳を取り出して、 さらさらとペンを走らせた。

そんな事ないよ。
「どーみてもへーぜんとしてますよ?私だったら、すっごーーーーーーーくムカツイてくるのに!!」

話している内に怒りがふつふつと湧いてきたらしく、拳を握り締める恭子に、苦笑しながら、雪菜は返答ができずに困惑していた。 雪菜は、怒りという感情に対する経験があまりない。日常生活上、些細な不満は無論あるが、我を忘れる程の怒りに駆られた事は、 両親の葬儀以来一度もなかった。当然、先ほどの情景は見たい物ではないが、どうしても理性の方が先に動いてしまう。 全ては彼の自由、余計な事はすべきではないと。
それに、やはり、拒絶されるのは怖いのだ。先ほどの瞳を、自分に向けられたら、きっと耐えられないから。そう考えると、 自分は保身の為に、恭子を盾にしてしまったように思えて。雪菜は酷い自己嫌悪に陥った。

恭子ちゃんは、凄い。

雪菜が書いた台詞を見て、恭子は瞳を見開く。

「馬鹿にしてるんですか?」

ちょっと怒ったような台詞に、雪菜は慌てて頭を振って続きを書き足す。

勇気があるから。私は、平然としてる訳じゃなくて、怖くて、何もできないの。体ごとぶつかっていけるのは、凄いね。
「。。。。言いたい事は言わなきゃ気がすまないだけよ。」
ちゃんと、言えるのもやっぱり凄いから。

にっこりと微笑んだ雪菜を、呆れにも似た視線で見つめてから、恭子は深々と溜息を吐いた。

「三月先輩って、変わってますよね。アタシ、先輩の前で堂々と宣戦布告したんですよ?何時もなら平手打ち食らわされるか、ネチネチ後で 嫌がらせされるんですけどね。」
(い。。。。何時も?)

経験豊かな恭子の台詞に、どう反応すべきか困っていると、恭子が「あーーーーあ。」と空を仰いだ。

「アタシの何が悪かったって言うのよーーーーーー!!!!」

突然の絶叫に、雪菜はびくりと後退するが、なんとか彼女を宥めるべく再びノートにペンを走らせる。

本当の事って、辛い時もあるから。
「。。。。。」
ちょっと、タイミングが悪かっただけだよ。
「。。。。。。。適わないですよね。。。。アタシ。」

相手は、仮にもライバルなのだが、そこらへんに気付かない所が雪菜らしいといえば実に雪菜らしい。ほわほわとした笑顔を 浮べる雪菜に、怒りとも諦めともつかない感情を抱きながら、恭子は大きく溜息を吐いた。なんで此処まで良い子なのだろうか。。。 圧倒的に自分は不利ではないか。純情になりきれないこっちの身にもなってほしい物である。でも、仕方がない。 いくら悔しくても、それはやはり只の嫉妬だから。女として、そこまで落ちたくない。恭子はすくりと立ち上がった。

「三月先輩!アタシ、先輩の事認めてあげる。だから、頑張って下さいよね。私だって勇気出したんだから。先輩だって逃げないで下さい。」

一気に言い終えると疾風の如くその場から走りさった恭子の後姿を、雪菜は困惑して暫く呆けたように眺めていた。
認めてくれた事は嬉しいのだけれど、頑張れ。。。とは具体的にどうすべきなのか、雪菜にはやはり解らなかった。只、 先ほど乖吏が一瞬だけ見せた視線が、一瞬だけ悲痛を帯びたように思えたのは確かで。何かが。。。あったのかもしれない。。。いや、 恐らくあったのだろうと確信した。

でも。。。。。。。

やはり怖いのだ。恭子からあれだけの勇気を見せ付けられても、考えるとどうしても息が苦しい。迷惑だとは思われたくなかった。 思い出すだけでも震えが蘇る乖吏の瞳の色が、脳裏にこびりついて離れなくて。拒絶は怖い。。。。今のままで良いのに。 嫌われたら、一緒にいられなくなるから。。。。だけど。。。。



やっぱり知りたい。



分かれ道は二つ。



一瞬躊躇してから、雪菜はゆっくりと足を進めた。

家からは反対の方向へと。



乖吏君ガラわる!!!( ̄口 ̄;)あんまり年老いた母に恥かかせんとくれ。(爆)

楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。人魚の歌で検索をすれば出て来る。。と思います。(爆)

<<...TOP...>><<...PREV...>><<...NEXT...>>        <<...HOME..>><<...RAKUEN...>>