| Chapter1: 『 Princess' Story 』 |
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「雪菜ってさぁ…本当に物好きよね。」 こともなげに言われて、雪菜と呼ばれた少女は少しだけ瞳を見開いた。艶やかな漆黒の髪が首を傾けた反動で肩からさらりと流れ落ちる。 「アイツの事だって、アイツ。お前、良く付き合ってるよなって意味。」 隣の少女(断じて男ではない)の台詞に、やっと何事かを理解し、苦笑する。口を開きさえしなければ、知的少女そのものである北斗(ほくと) まどかと、男同然の言葉使いと名前を持ちながら、 大財閥の令嬢である結城(ゆうき) 弥(わたる)。だが、そんな学園内でも指折りの変わり者と言われるこの二人を親友に持つこの物語の主人公、三月(みつき)雪菜(ゆきな)と言えば、 何の変哲もないごく普通の少女だった。良く、自分の周りには一癖も二癖もある人物ばかりが集まると言われるが、そうかもしれない。そして、今話しの矛先となっている人物もその一人である事は間違いない。 浅葱 乖吏…一目見れば冷たい無機質な印象を得られる整った顔立ちと、モデルも顔負けの体格を誇る彼は、 学園のアイドル的存在ながら、実に悪質な習性を持っていた。異名カップルクラッシャー。要するに、人の彼女にしか手を出さないのである。 当然、弥の言う付き合っていると言う言葉は、彼氏彼女の意味ではない。只単純に関わっていると言う意味なのだ。 それも当然であろう。乖吏と雪菜は、只一緒に下校するだけ。それ以外に何の接点もないのだ。それでも、雪菜の彼に対する気持ちは、 親友名乗る彼女たちから見れば一目瞭然だった。 「なんであんなのが良いんだか…雪菜って面食いじゃねーよな?前に誰だっけ…?二組の佐藤だっけ?」 「伊藤君よ。」 「そーそー、そいつも確か顔は良かったけど、断ったしな?僕の下部にしてやろうと思ってたのに。」 「あんた、それ最悪。」 雪菜は決して美人と言われる顔立ちではない。只、決め細やかな髪と、あまり健康的ではない白い肌に華奢すぎるほどに華奢な体。 そして、話せない事もあってか、物静かだというレッテルを勝手に貼られてしまい。か弱く、守ってあげたい少女ナンバーワンに 祭り上げられているのだ。今では保護委員会などと称される物まであるらしいが、本人まったくもって気づいてはいない。 「まぁ、いいじゃん。話戻そうぜ。雪菜とアイツって基本的に違う人種じゃん。なんでそんなに好きな訳?」 「そうそう。そもそもどうやって知り合ったのかが気になるわよね。」 何故好きなのか…といわれても困るのだが・・雪菜は少しだけ首をかしげた。 目の前の友人は、どうも答えをはぐらかせてくれそうもない。まぁ、まどかを怒らせてしまいそうな内容でもないし、 話しても良いかと、雪菜はノートを取り出すと、それにカリカリと文字を書き始めた。彼女の唯一の会話手段。 手話を知らない人には、この手でコミュニケーションするしかない。 ゥ 雪菜が始めて乖離と出合ったのは丁度一年前。今日の様に桜の花弁が踊る日だった。乖吏は、お世辞にも 優等生とは言えず(成績は常にトップなのだが、態度は目に余る物があるので)その日も入学式をサボってデートをしていた。新入生ばかりが集まる入学式など、人の物にしか手を出さない彼としては、まったくもって興味の欠片もない イベントなのだ。説明していて悲しくなるが…それはさておき、当時はその新入生の一人だった雪菜は、式典を終え一人家に帰る所であった。 「ねぇ、乖吏、さっきから何を見てるの?」 傍らの声に、乖離はあぁ…と視線を戻した。 この彼女も、元はかなりのラブラブカップルとか称されていたのに、少し手を 出しただけで、あっさりと彼の元へと寝返った女性の一人である。(…といえば言い方は悪いが、 実際乖吏の頭の中ではその様に解釈されている。 )適度に冷めたコーヒーをすすってから、彼は短く答えた。 「別に。なんでもない。」 しれっとした動作の一つ一つが様になっており、思わず頬を赤らめてしまう彼女を他所に、 乖吏の視線は、又もや違う方へと飛ばされる。つまらない…彼の場合、恋愛の醍醐味は 挑戦する輩がいなくなった時点で冷めてしまうのが体質だった。 「ねぇ、乖吏!!また余所見してるじゃない!!もうっさっきから何を見てるの!!??」 「……あれ。」 全く持って上の空である彼氏の様子に、流石に屈辱を覚えた少女が講義を口にすと、乖吏は言い訳をする様子も なく、あっさりと窓の外を指さす。少しふてくされながらも、彼女が窓の外に視線をやると、そこには何の変哲もない 光景が繰り広げられていた。今時いかにもナンパ師ですとでも言うような格好をした男子三人と、それに囲まれるようにして おろおろする少女が一人。本当に何の変哲もない光景である。こんなのの何処がそんなに乖吏の注意を引くのか、 彼女の心に浮かぶのは不可解感と、嫉妬。 「只のナンパじゃない。何処がそんなに面白いの?」 確かに彼女の言うとおりだ。何処が面白いのかと聞かれれば、回答に困る所なのだが、どうも目が行ってしまう。 囲まれている少女は、心底困り果てている様だが、叫ぶ様子も、講義を口にする様子もない。怯えきって潤んだ瞳が、男たちを 獲物を追い詰めたような昂揚感にさせている事など全くもって想像できていないだろう。終に腕をつかまれ、ぐいぐいと 引き摺られて行かれる少女。 見ていられない。 やれやれ…と乖吏は溜息を 着いた。そして席を立つと、目の前に座る彼女にキスを一つ落とす。 「悪い。今日はお開きな。ちょっと用事ができた。」 あまりにも優雅な一連の動作に、彼女が思わず硬直している間に、乖吏は料金を置き、さっさと喫茶店を出る。 この辺はお手の物だった。別にナンパされている少女が好みのタイプだった訳ではない。尤も、彼の好みであるか、 好みでないかは、女性に既に相手がいるかいないかで左右される為、現状況で判断は不可能かもしれないのだが… それでも、ほんの気まぐれで、彼はらしくもない人助けをすることにしたのだ。 それは運命のいたずらでもあるような… 刹那の風。 「悪いな。先約なんだ。」 「!!??」 男たちからぐいと小さな体を引き離すと、…少女は驚いて瞳を見開いた。さらさらと滑らか黒髪が揺れる。 ある意味血色が悪いと言って良いほどに白い肌を持った少女だった。ほっそりした腕は少しでも力を入れれば掴んだ手首に跡がついてしまいそうで、 思わず手を緩めそうになる。 「なんだ?てめーは。」 「聞こえなかったのか?先約だって言っただろ。」 やんわりな言葉とは裏腹に視線で失せろと言い放つ。 大体、今時こんな古典的なナンパなど流行らないだろ?それを助ける自分の行為も全く持って流行らないとは解っているが。 捨て台詞を吐きながらも男たちが立ち去ると、今更己のとった行動が陳腐に思えて乖吏は人知れず眉を顰めた。 「こんなモンか……もーちょい粘るかと思ったけど。」 「……」 相変わらず黙ったままの少女を流石に怪訝に思い、目線を下げると、見事なまでに 視線が絡んだ。怖い程に真っ直ぐ見入られて、なんとなく居心地が悪い。大体、初対面の人間を、普通そこまで見詰めようとするだろうか??見惚れている様な熱い視線でもなく、嫉妬に震えた突き刺さるような視線でもない。 無心と言っても良いほどのそれに、流石に耐えられなくなって、乖吏は口を開いた。 「何?」 くるりんっと少女の瞳が大きく見開かれる。そして、今までの清楚でおしとやかなイメージが一気に崩れていく程パニックしながら、 慌てて深々とお辞儀をしたのだった。 百面相。 それが、浅葱 乖吏の……三月 雪菜に対する初印象だった。 ゥ 「んで?其処から帰ることになったわけ?何それ!!もう立派なナンパじゃない!!」 「へぇ…人の女にしか手ー出さないと思ってたら、無節操と来たか…見直したかも。」 「なんでよ!!!!」 本気で弥をどつこうとするまどかの裾を慌てて掴む雪菜。まだこれで終わりじゃないからと、 必死に視線で訴えかける。覗き込むような角度で見上げられ、その可愛さにまどかは思わずふるふると拳を握り締めた。 「も〜!!!あんたってばどーしてそんなに可愛いのよぉぉーーー!!!!」 むぎゅ〜っと雪菜を抱き締め、ハート乱舞。これの所為で、色々と彼女についてはあらぬ噂も立っているのだが、 本人は全く気にしてはいない。横では、弥がその様子を楽しそうに眺めていた。 ゥ さて、初のナンパ事件から一週間後。 乖吏は、同じ時刻に、同じ場所で、盛大に溜息を吐いていた。 「お前って……ある意味脅威的だよな?これで一週間連続だぜ?」 呆れ返った乖吏の様子に、少女は申し訳なさそうに頭を下げる。そう、雪菜は、あれから 毎日、下校のたびにナンパに合っているのだ。そして、あまり広くもない街故に、不幸にも 何時もそれを目撃してしまう乖吏は、デート中であるにも関わらず、何故か放ってはおけなくて、毎度助けに 出ている訳である。大して美人でも、色気がある訳でもないのに、なんでもこうも毎回毎回…… 確かに男受けが良さそうな外見と言えなくもないが…… 「いい加減自分で断れって……黙ってばっかいると、お前、その内誘拐されっぞ?」 基本的に、乖吏は他人の事などどうでも良い。自他ともに認めるわが道を行くタイプなのである。 それが、会ったばかりの…しかも、名前すらしらない少女の世話を焼いているなんて。 何やってんだか… 自分で自分に突っ込みを入れる。不意に、少女の少し困ったような表情が目に入った。 「??なんだ??言えって、はっきり。」 ますます困った様に首をフルフルと横に振る少女。暫くの沈黙。 「…あっ…」 もしかして。 考えても見なかった予想が浮かび上がる。 「お前、喋れねーのか?」 少女はこくりと頷いた。 「悪い。全然気がつかなかった。考えてみりゃぁー直に解ったんだろうけど。」 周りにあまりにそういう人物がいないので、思考が周らないのも納得できる。少女は、今度はフルフルと 首を横に振ると、それは嬉しそうに花が咲くような笑顔を浮べたのだった。 あぁ……こいつ、俺と違う人種かも。 その笑顔を、本能的に苦手だと感じた乖吏は、苦笑を浮べた。この手の人間は、あまり…というよりも、殆ど関わった事がない。基、関わりたくもない。 聖人の様な面の顔に裏があったにせよ、なかったにせよ、博愛主義者や、平和主義者とは基本的に合わないのだ。放っておくのが一番だろう。 が…… 「仕方ねぇな…ったく、お前、家は?」 普通の女性ならば、ここで警戒心の一つも抱くのだろうが、雪菜の場合、其処まで気が回らない。いそいそとかばんから生徒手帳を取り出すと、 それをさっと見せた。 「…近く…と言えば近くだな。しかも学校まで同じかよ。」 そう言えば今まで気づかなかったが、彼女の制服は間違いなく自分と同じ高校の物である。興味のある事以外は、 一切眼中にない乖吏であった。 「まぁ、関わったのが運のツキだしな。送ってやるよ。これから。」 雪菜はパチパチと何度か瞳を瞬かせた。そして、たっぷり十秒の沈黙の後、思い切り後ずさった。 そして身振り手振りで必死に何かを伝えようとしている。彼女としては、そんな迷惑は掛けられないとでも言いたいのだろうが、 この取り乱した様子を見ていると、彼女の外見イメージはある意味詐欺だと思う乖吏だった。 「今更遠慮されてもな…どーせ放っておいても毎日会う羽目になるんだろ?」 すみません〜〜。 と無言の謝罪が聞こえてきそうな程に項垂れる少女を解り易いと思いながら乖吏は彼女を急かした。 「ほら、行くぞ。雪菜。」 途端に大きく見開かれる瞳。 「生徒手帳に書いてあるだろ。名前。」 半ば呆れにも、苦笑にも近いような表情を浮かべる。雪菜はそうかと納得すると慌ててその後を追いかけた。今まであまり 構ってくれる人も居なかったので、嬉しい。 この人は良い人なのね。 それが、雪菜の、乖吏に対する初印象だった。尤も、その考えを悉く打ち破る出来事が、後一ヶ月も経たぬ内に続々と発生する事になるのだが。 それは、敢えて語らない事にしよう。 ゥ 「それだけで今まで続いてるんだ?可也信じられないよな…噂の浅葱乖吏から考えると。」 雪菜の、夏休みの読書感想文並に長い文章をずらずらと読んだ後、弥はぼそりと感想を溢した。それも無理はないだろう、 浅葱乖離といえば、校内誰もが認める自己主義者である。その笑顔には必ず裏があるとか、奪った女性の数は100をも超えるとか。噂の 数は計り知れない。 しかし、彼自身に確かめようとしても、楽しそうに含みのある返事をされるだけで。 それらは、雪菜の耳にも 当然入っているのだが、彼女が何を思っているのかは解らなかった。窓の外に目をやれば、 既に生徒たちが、ぞろぞろと帰って行く所で。今日は来ていた筈だから、そろそろ迎えに来てくれるかな…と雪菜はそんな事を考えていた。 「雪菜、今アイツの事考えてたでしょ。」 突っ込む所が見つからなくて、なんとなく不機嫌なまどかに 突然言われてまたもやぎょっとする雪菜。図星と書いてある様な表情に弥は笑いをかみ殺した。 「まぁーったく、解り安すぎだよな。雪菜は。」 「笑ってる場合じゃないわよ!!あんな天然極悪遊び人なチャランポラン男にこれ以上関わっていたら、ロクな事にならないわよ!!??純情な 雪菜にどんな悪影響を及ぼすか…何?そんな事ないって!??雪菜!あんたはねぇ〜〜〜〜!!甘すぎるのよ!!!」 ふるふるとなにやら焦りつつ首を振る雪菜と、これまた必死に笑いを堪える弥。そして… 「誰が天然極悪遊び人だって?」 突然背後から聞こえてきた声にぴしりと言う効果音が聞こえてきそうな勢いでまどかは固まった。ぎぎぎ…っと 首だけ後ろに回すと、案の定、其処には彼女がもっとも嫌悪している…たった今ののしっていた。基、 噂をしていた人物が立っていた。長身のまどかですら見上げなければならない程の身長と、モデル顔負けの容姿は、大抵の女性ならば見惚れてしまう程の物であろう。あの悪質な習性さえ無ければ文句の半分は減るのに(全く無くなる訳ではないらしい)と 思うまどか。冷気すら漂うその笑顔に押されつつも、強気な反論にでるのは、流石彼女と言うべきか。 「人の話を勝手に盗み聞きしないでよ。失礼な奴ね。あんたの事に決まってんでしょーが!!」 「ふーん。じゃあそお前のモノの言い方は失礼じゃないと?大体そんなデカイ声で叫べば廊下の端から丸聞こえ。」 確かに尤もな意見ではあるが、だからと言ってはいそうですかなどと言えようか。眼鏡がぴしぴしとひび割れて 行きそうな程にまどかの怒りは頂点に達そうとしていた。 「ふふ…ふふふふ…今すぐあの世に送ってやるわ!!」 こう見えても、まどかは実は柔道黒帯の実力を持ち合わせており、少林寺拳法も習っていたりする。 彼女が本気になれば、そんじょそこらの暴走族ですら裸足で逃げて行くのだ。これでは何時もの事だから などとのんびり構ってもいられない。雪菜は慌てて間に割り込んだ。あぁ…どうして 自分の周りの人はこんなにも喧嘩が好きなのだろうか…などと嘆きつつ。 |
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えへ。。。主人公ちゃん全然目立ちません。(爆笑) <<...TOP...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>> |