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「お帰りなさいませ・・・ご主人さ・・・・」 家の玄関にて、何時もどおり出迎えに出てきた使用人のイールモーザは、俺が腕に抱えているものを見て、ピシリと表情を強張らせた。 まずい。さっさと説明しなければ・・・ 「いやぁぁぁぁーーーーー!!ななななななんとけがらわしいっ!!」 っと慌てた矢先に叫び声が耳を劈く。反応が速くなってやしないか? 「待て、イール。想像する前に説明を聞け。」 だから一体何処からそんな想像が出て来るんだ。怒りよりも、呆れと疲労に、俺はどっと溜息を吐いた。この50も半ばを過ぎた筈のイールモーザには、長い間家を任せてある。任務で長期留守にする事が多い俺にとって、多くの使用人は必要ないし、俺自身がそれを望んでいない。さすがに彼女一人では大変かもしれないが、適当に手を抜く様に言ってある。 「いつもいつも、硬派だと言われて・・・わたくしはずっと心配だったのですよっ!!!日頃の我慢が終に・・・あぁぁ・・・なんと嘆かわしいっ!!!」 好い加減無駄に文字数を取るのは止めて欲しいのだが。 「め、女神の使者なのですかっ!?」 女神の使者をベットに横たわらせてから、なんとか事情を説明する事に成功した俺は、素っ頓狂な声で驚くイールに、疲れた溜息を吐いた。なんだか、一大任務を成功させた気分である。 「それにしては、姿形が禍々しいですね?こっ、これはもしやっ!スコーピオンの罠っ!?」 『スコーピオン』女神の使者の姿を見た者は、誰もがその名を思い浮かべたに違いない。 「それにしても、中々目覚めませんね・・・キーリトス様、お水でもお持ちしましょうか?」 イールが苦しそうに椅子から立ち上がり、のったりとした様子でキッチンに向かう。流石に歳も50を過ぎると、動きが怠慢になるのは仕方ないのだろう。今更、彼女にそんな文句を持ったりもしない。 しかし・・・・本当に血色が悪いな。 元から色白だったが、あどけない存在感を生み出していた薄紅色の頬からは、血色が消えかかっていて。何となく嫌な予感がした俺は、眠る少女の腕をそっと取って、脈を図った。 死ぬ訳はない・・・・・よな? 初日にして、女神の使者を殺したとなれば、この世界は間違いなく滅びるだろう。 ・・・・・・まずい。拙すぎる。頼むから死ぬなら他の場所で死んでくれ。いや、他の世界で死んでくれと実に利己的な考えが脳裏を過ぎるのも、仕方ないだろう。危急存亡の秋(とき)なのだ。 「ごしゅじんさま、水をお持ちしました・・・・・」 物思いに耽っていた俺は、気付かなかった。盆を片手に載せて戻ってきたイールが、もう片手に毛布を抱えていた事を。そして、その毛布の先端が床まで崩れ落ち、イールが正にそれを踏みつけてすっ転ぶぼうとしている事に。 「あっ!!」 声がして俺が振り返った時は、既に盆のコップが宙に踊り出た後だった。 バシャッ!! しまったと思った瞬間、冷たい飛沫を上げて、それはベットに横たわる女神の使者の顔面に直撃していた。 「・・・・・・・・・。」 とりあえず、寝ていて良かった。
うろたえるイールの床に落ちた眼鏡を拾ってやってから、俺は穏やかに言った。 「取り敢えず、タオルを取ってきてくれないか?」 神の使者を濡れた侭にしておく訳にはいかない・・・そう思って視線を向けた刹那だった。 おい・・・・・冗談だろ・・・・? 怪奇現象。いや、人間じゃない事は解っているが・・・・。 「・・・・・・いっ・・・生き返りましたーーーーーーーっ!!!!!!」 うわっ!! 行き成りがばりと起き上がり、興奮に頬を紅潮させた女神の使者は、次の瞬間、衝撃二メートル程背後に飛び退いていた俺に向き直り深々と礼をしたのだった。 「有難うございます。命をお助けいただきましたお礼は必ずさせて頂きます。なんなりとお申し付け下さい。これからは、ご主人様と呼ばせて頂きますね!」 呼ぶなっ!呼ばなくて良いっ!いや、 「呼ばないで下さい。」 なんでそうなるんだと言う疑問よりも先に出た祈願の言葉に、神の使者は心底怪訝そうに首を傾げた。 一番おかしいのはオマエだ。 |
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