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「飛鳥っ!!」
「兄上、どうしました?そんなに慌てて。」

乱暴にテント内に押し入った俺に、飛鳥が怪訝な眼差しを向ける。
ダカンと違い、こいつの場合態となのかそうでないのか、見分けがつかない。
小さく舌打ちし、俺はなんとか心を落ち着かせた。

「何故勝手にあいつを実験体にした。」
「本人に承諾は得たのですが・・・すみません、兄上の所有物だとは存じ上げませんでした。」

俺の記憶にある限り、センチュリオンの中で飛鳥は最も平和主義であり、無意味に他人を挑発したりしない人間だった筈だ。今も、飛鳥から敵意を感じる訳ではない。よって、どれほど苛立っても、責任は俺にあるのだろう。溜飲を下し、俺は続きを問い質した。

「泉を浄化させる薬を作り上げたそうだな?」
「ええ。」

「・・・あいつのを使ったんだ。」
「驚きました。兄上は知ってらしたのですか?」

知っていた訳ではないが、薬の知識などなくとも、それぐらいの事は容易に想定できる。
むしろ、ダカンがマリーンの血を使ってスコーピオンの毒に犯された患者を治療する前から薄々感づいていた。
マリーンの体は、スコーピオンの毒を受け付けない。
にも係わらず、マリーン自身が毒を包含している訳ではない。
相殺している訳で無いのなら、体内で毒が浄化されているという事だ。

「答えろ、一体を使ったんだ。」
「落ち着いて下さい兄上。心配はいりません、ほんの少し血を採取しただけです。」

やはりそうか。
予想通りの答えに、俺は頭を抱えたくなった。マッドサイエンティスト二人に目をつけられやがって、あのヘボ天然娘はっ!いくら再生できるからと言って自分の体をホイホイ提供する奴があるかっ!!

 

「見てください、兄上。」

俺の心中を察する事無く、飛鳥はテーブルに並んでいた小瓶の一つを手に取った。
見た目毒と見まごうようなダカンの妙薬とは違い、透き通った液体が入っている。

「一応・・・赤い色では不気味がられると思ったので色だけ変えさせて頂きましたが・・・姉上から採取した血が入っています。」

説明しながら、もう一つのやや大きめのグラスに入った水を手に取る。

「こちらは、スコーピオンの毒水です。近くに汚染されている泉が無かったので、今朝集落を襲った蠍の亡骸から毒を採取させて頂きましたが、同じ濃度の毒を含んでいる筈です。」

「そして、この中に、薬を混ぜると・・・。」

小瓶の中身がビーカーに投入される。
双方とも透明な液体の為、一見なんら変化があるようには見えないが、次に飛鳥はそれを魚が一匹泳いでいる水槽の中に注いだ。
スコーピオンの毒水に触れたら、殆どの生き物は一瞬にして命を落とす筈だ。
しかし、水槽の魚は、暫く待ってもなんら変化が無く泳ぎ続けている。

「・・・なるほどな。だが、泉一つを浄化するのに、どれだけ薬がいるんだ?」
「この薬は即席で作りましたのでまだ効果は薄いですが、改良していきます。私とて、マリーンさんを無為に傷つけたい訳ではありません。」
「・・・。」
「兄上、解っていらっしゃるのでしょう。失った泉を取り戻す事で、どれだけの民が救われるか。兄上は、それを望まれないのですか。」

望まない訳ではない。
生まれた時から神に見放されたこの大地を見てきたのだ。騎士隊長として、俺は民の望みを最優先に考える必要がある。言われるまでも無く、飛鳥の言い分は理解できている。

しかし・・・。

 

「・・・考えさせてくれ。」
「・・・。解りました。」

それきり、飛鳥は言葉を尽くしたというように黙り込み、俺は静かにテントを後にした。

「り、リトっ!!」

天幕を開いた途端、空中に魔方陣が出現したかと思うと、マリーンがその中から落ちてきた。

「・・・大丈夫か?」
ひっ!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!頭は大丈夫ですっ!!」

誰もそんな事を聞いていないのに、なんだか勝手に青ざめてガタガタ震えている。
尋常でないまでの怖がりようだ。一体何があったと言うのか。

「いや・・・頭の事を聞いた訳ではないが。」
「そ、そそそうですか。」
「・・・着地できない所に態々飛ぶな。危ないだろう。」
ひぃぃぃっ!!

何気なく言った一言に、マリーンは顔を赤らめたかと思うと、次の瞬間には青くなり、更には訳の解らない奇声をあげて慄いた。一体なんだって言うんだ。

「り、リト、大丈夫ですか!?一体何があったんですかー!?」
「・・・は?」
「ひーんっ!ごめんなさいっ!」


一体何に対しての謝罪なのか・・・良く解らないが錯乱しているようなので落ち着かせようと頭を撫でてやると、逆効果だったらしく、マリーンはますます盛大に泣き出した。

「すみませんすみませんっ!でもそういう怒り方はますます怖いと言いますか心臓に悪すぎますからっ!!」
「だから一体何の事・・・。」
「何時もの毒舌で関心なくて人の事動物扱いばっかしているリトに戻って下さいーーーっ!!」
「・・・。」

このヘボ精霊・・・落してやろうか。

「お前はそうとう俺に不満があるらしいな?」
「ひっ!いえっ!めめめめめっそうもございませんっ!」

小動物のようにがたがたと震えながら後退りするマリーン。全く、そんな反応をするからリアサーラ辺りに面白がって追い詰められる事になるんだ。このヘボい天然ボケ精霊が、女神の御使いで、死神に閣下と呼ばれていて、その上この世界を救う鍵を握っているなんて・・・一体何の冗談だと神に問いたい気分だ。

「大体、人の事を毒舌だとか言うが、俺は事実しか言っていない。そもそも、そういう文句は厄介事を呼び込まなくなってから言え。」
「うっ・・・。」
「それに、散々自分で動物っぽい生態を暴露しておいて、動物扱いが気に入ってなかったのか?むしろ動物扱いしてほしいのかと思っていたぞ。」
「がふぅっ!」


「・・・あと、別に関心が無い訳じゃない。」
「え?」

予期しない言葉だったのか、動きを止めて、マリーンは俺を見上げた。
瞬く大きな瞳が、どういう意味だと問いかける。

だが、俺は答えられずに硬直してしまった。
それは、誰より言った俺自身にとって予想外の台詞だったからだ。
・・・。
関心が無い訳じゃない。
むしろ実に不本意だが記憶にあるかぎり、何時も考えている気がする。
・・・いや、だがそれはこいつが目を離した途端もめごとに巻き込まれるからだ。
そうに違いない。それ以外にはありえない。

「・・・お前ほど厄介事を呼び込む人間を放っておけるか。」
「あぅっ・・・す、すみません〜〜!」

マリーンが、涙目で謝罪する。その姿になんとなく罪悪感を感じて俺は視線を逸らすしかなかった。

 

 

 

 

リトの様子が変なのです。
お小言を言わずに心配して下さったり、突然機嫌が良くなったり悪くなったり。
具合でも悪いのでしょうか。

あ、皆様こんにちは、マリーンです。集落の修復もひと段落済んで、実は今リトの・・・基、イグニード将軍のご実家でパーティーの真っ只中であったりします。
何故そんな事になっているかと申しますと、飛鳥ちゃんとフェルシアちゃんが戻ってきた事でセンチュリオンの全員が揃ったらしく、せっかくですから、お祝いをしましょう!と私が提案したのです。泉を浄化する方法も見つかって良い事づくしですからね・・・と我ながらに妙案だと思ったのですが・・・。

口にした時の、リトの微妙な表情の理由が今解りました。


いえ、途中までは普通に平和な団欒が繰り広げられていたのですよ。家政婦のイールモーザさんが(皆さん覚えてますかー?覚えていない方は一章目五話を参照なのです。)感動して大量の料理を作って下さって、皆でわき合いあいとパーティーを楽しんでいたのです。

・・・すみませんっ!!嘘ですっ!
ダカンさんと飛鳥ちゃんは末恐ろしい(主に私の実験に関する)師弟の会話をしているし、フェルシアちゃんは長旅でお腹が空いていたのか、皿ごと平らげんばかりの勢いで食べ物をむさぼっておりますし、ルウェイさんは最初から「石像ですか?」と尋ねたくなる程に微動だにしませんし。リトに至っては戻ってきた途端、係わりたくないとばかりに部屋に引き篭ってしまいましたし。

ここまで心温まらない家族の再会があって良いのでしょうか!と理不尽な気持ちになりかけた矢先に、リアサーラさんの登場。

「フェルシアは相変わらず食べっぷりが良いネェ。ミヤゲダヨ。」

そういって、肩に担いでいた身より大きな獣をどっさりと床に振り落としたリアサーラさん。
・・・な、なんでしょうか、あれは、見た所猪のような動物に見えますが・・・。
フェルシアちゃんへのお土産という事は、食料でしょうか。
多少野性的すぎる気もしますが、リアサーラさんも妹思いな所があるのですね・・・と思った瞬間。

それまで食べ物以外目にもくれなかったフェルシアちゃんの手が止まりました。

「り・・・リア兄・・・。」

目の前に横たわる獲物を見て、わなわなと体を振るわせるフェルシアちゃん。

「ナ〜ニ?」

 

「今日と言う今日はマジ殺すっ!!

 

ドカアアアアアアッ!!

 

怒号と同時に、テーブルがこっぱ微塵に砕け散りました。
ひぃぃぃぃっ!!子供の頃よりレベルが遥かに上がっております、フェルシアちゃん!今眼力だけでテーブル粉砕しましたよっ!?

あたしの・・・あたしの太郎君をよくもっ!!

え、た、太郎君・・・?

お前も同じ目にあわせてやるっ!!

憎しみに目をぎらつかせ、リアサーラさんに拳を振り上げるフェルシアちゃん。
それを身軽に交わしたリアサーラさんの立っていた位置に、凄まじいクレーターが描き出される。ついでに周囲数メートルの家具は全滅。
そしてパーティは家族の団欒から一気に骨肉争う修羅場へと転落したのでした。

ああもう、どうしてこんな事に・・・。

「ふ、ふたりともおちついて・・・。」

蚊の鳴くような声で止めようとしても、どうしようもない事は解っているのですが。
ああ、もう私もいっその事逃げてしまいたい・・・。
けれど、このままでは家が壊れかねませんし。
ここは蛇の姿になって脅かすとかするしか無いでしょうかと困り果てていた時です。
背後からそっと口を覆われたかと思うと強すぎない力で抱え上げられた私は、その誰かの手によって、バルコニーの外へと連れ出されたのでした。

 

 


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