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予期せぬ人物の登場に気を取られたのはつかの間だった。
一度の爆風で蹴散らされた蟲たちが再び集まり始めている。

「一体どうやってここまで来たんだ?」

尋ねるとフェルシアが誇らしげに胸を張った。

「ふふーん、百聞は一見にしかず・・・地底族の究極の新兵器の威力、見せてやるよ!!」

そう言うや否や、フェルシアはその華奢な肩に体の二倍ほどもある大筒を構えた。

「ちょっと待て、お前ひょっとして先ほどの攻撃またやるつもりか?」
「とーぜん!」
「止めろ。」
「ええーーーっ!!」

間髪入れず止めると、納得できないと抗議の声が上がる。こいつ、村を破壊する気か。

「フェルシア、私たちだけなら、武器を使わずとも逃げ出せますよ。そう易々周りを壊しないって、約束したでしょう?」
「う・・・はぁーい・・・。」

相変わらず他人を説伏するのが上手い奴だ。
ジュッ。
飛んできた火の粉に、髪が少し焼けた。急がなければ不味い。二人を急かして足を踏み出した刹那、ぎしりと、息絶えた筈のスコーピオンが動いた。
抉れた躯の断面から滴る青黒い血が、紅蓮の瞳を濡らす。ピクピクと足を動かす姿は、
いたたまれない程に『蟲』そのものだった。

「兄上・・・。」

飛鳥が許可を取るように尋ねる。
だが俺は首を振った。

「放っておけ。」

楽にしてやった方が良いのかもしれない。再生できない体で、この怪我では放っておいてもすぐ息絶えるだろう。だが、人間に情けをかけられるのは、死んでも不本意に違いない。

「行くぞ。」

無感情に言い放ち、走り出す。数歩後ろで、炎が黒い躯を包んで燃え上がった。

 

 

「どうだ?様子は。」
「できる限り手当てはしていますが・・・私が所持している薬草だけでは数が足りません。」

なんとかギリギリで燃え盛る集落から逃げ出し、俺たちは村近くに設けられた緊急避難所に来ていた。村人たちはここで一晩過ごし、集落の炎が消えるのを待つ事になる。

今回の奇襲で、死者こそ出なかったものの、蟲の毒にやられた負傷者の数は凄まじく、飛鳥がその手当てに忙殺されていた。
ダカンの弟子として十年ほど薬物の勉強をしていた飛鳥の腕は、師匠に負けずとも劣ら無い。
得体の知れない実験やら、迷惑な産物も生み出さない分、ダカンより助かると言っても過言ではないのだが・・・。

 

「リトーーーーーー!」

 

 

きゅいーん、ポンッ!

 

 

「お前・・・人が真面目な話ししている時に降ってくるなっ!」

いや、待てこの突っ込みはおかしい。何時の間にやらこのヘボ精霊が空から降ってくる事に慣れきってしまっている。

「回を追うごとにコントロール下手になってるな、お前。」

ガーンッ!

効果音が鳴りそうな勢いでマリーンが落ち込む。
今のは的確な突っ込みだ。俺は悪くない。

「す、すみません・・・。」
「・・・まぁ、良いが、何しに来たんだ?」

尋ねると、思い出したように、ポンッと手を叩いて、マリーンは嬉しそうに言葉を放った。こいつが喜んで話す内容には、ろくな事がない。俺は身構えた。

「あ、そうです、ダカンさんに言われてお手伝いに・・・。」

・・・やはりな。

「その本人は一体どうした。」
「薬草を集めてから来るそうです。」

全てお見通しか・・・。一体何処から情報を仕入れているのか。相変わらず食えない奴だ。しかも来てくれるのは有難い・・・が、態々マリーンを寄越す辺りが嫌がらせとしか思えない。

「解った。もう帰っていいぞ。」
「えーっ!お手伝いしますっ!」
「お前にできる事なんてない。」
「ふ、普通に手当てぐらいできますっ!」

確かに、手際が悪い訳ではないが。マリーンは自分の容貌に自覚が無さ過ぎる。
水姫祭で、スコーピオンが黒髪紅眼だとは限らないと人々が理解しても、この世界の人間に、黒髪紅眼はいないのだ。・・・飛鳥を除いて。

「・・・ど、どうしても駄目ですか?」

黙り込んだ俺を、否認の態度と取ったのだろう、心細げにマリーンが見上げてくる。
・・・くっ・・・。

「そんなに邪険にしたら可哀相ですよ、兄上。」

飛鳥の声を聞いたその瞬間、マリーンの顔に明らかな驚愕が浮かぶ。勢い良く振り返り、そして、まだ知るはずの無い名前を、その唇から紡いだ。

「あ、飛鳥ちゃんっ!?」

・・・ちゃん・・・?

「・・・お久しぶりですね、姉上。」

・・・姉上・・・?
状況に全くついていけず眉を顰めると、マリーンが慌てたように俺を見上げた。

「え、えええっとじ、じ、実は・・・。」

明らかに今言い訳を探してます、という顔だ。狼狽するマリーンの横で、通常なら助けを出す頃合の飛鳥が含み笑いを零している。・・・不愉快極まりない。

「い、以前お知り合いになりまして、その・・・。」
「以前・・・?飛鳥が王都を離れたのはお前が来る前だが?」
「あ、えーーーっと、そ、そこらへんは説明が難しく・・・。」

何処でどうやって会ったのか、それを一言で説明することのどこがそんなに難しいのか、是非とも教えてほしいものだな。
一体何を隠してるんだこの馬鹿娘は。
さっさと言え、一言で言え。

「だったら説明する必要は無い。」

待て、違うだろ。・・・何言ってるんだ俺は。が、言ってしまったものは取り返しようが無い。仕方なく腕の中にいた小さな体を降ろす。
明らかに戸惑い、口を幾度か開きかけたマリーンは、それでも結局口を噤んで俯いた。

「そんなに怒らないで下さい、兄上。そもそも、兄上が城から出る事を禁じるからいけないのですよ。」
「・・・?どういう事だ。」
「私は、お忍びで出ていらっしゃった姉上にお会いしたのです。黙っているという約束でしたが・・・すみません、姉上。」
「い、いえ・・・。」

マリーンがもごもごと、微妙な表情を浮かべている。・・・怪しいな。

「それでなんで・・・姉上なんだ?」

どう見てもマリーンの方が遥かに年下だ。
しかし、しばしの沈黙の後、飛鳥は奇麗に俺の疑問を笑殺した。

「そういうプレイです。」

・・・・・・。頭が痛い。

 

 


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