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辺境の集落が、スコーピオン「らしきもの」による奇襲を受けているらしい。 遠方から黒点に見えたその集落は、目の前に立っている今も、黒いままだった。 「ひっ・・・!」 「隊長!どうやら、この蟲の大群は、今朝早朝、唐突現れたそうです。泉を汚染する力は無いようですが、大きさによって持つ毒の強さも違うらしく、今のところ死者3名、意識不明の重傷者17名、その他軽症者50名近い被害が出ています。」 予想よりは小さい被害と言えるか。情報収集から戻ってきたオルドスの報告に、俺は暫く考えてから口を開いた。 「大切な物だけ持たせて、村人を全員外へ非難させろ。その後火炙りにする。」 幸いメッジモークはその気候柄、建物も家具もほとんどが石製だ。その為村全体に火を焚いたとしても、村の存亡に関わるような被害にはならない。 「コイツら、面白いよタイチョーさん。」 そんな事を考えていると、村に到着するなり意気揚々と姿を消したリアサーラが、スコーピオン数匹を片手に戻ってきた。今、恐怖の根源となっているものを、意図も易々と手づかみしている所は、さすがというか呆れるというか・・・。 「こっちから何もしなケレバ、襲われ無いみたいダネ。」 ズバッ!! 「タイチョーさん、切っちゃダメでしょ。」 そして聞け、人の話し。こちとら珍獣コレクターでも、蟲マニアでもないのだ。人の腕ほどサイズのある得体の知れない蟲に好んで触りたいとは思わない。 「敵意の無い生きモノを切ルなんて、ヒーローとして有るまじき行為なんじゃナイ?」 「隊長、準備が完了しました!」 解剖でも実験でも勝手にすれば良いが、給料分の働きはしてくれないと困る。 「シカタナイナァ・・・。」 大げさに肩を竦めて、リアサーラが飛翔する。 今、村の至るところには火薬の入った樽が仕掛けられている。リアサーラの弓が中央の火種に点火すれば、全ての火薬樽に引火し、村は瞬時にして炎に包まれるはずだ。 「ご苦労だった。全員この場から離れるぞ。」 若い騎士の一人から、驚愕の声が零れる。民だけでなく、戦うべき立場にある騎士が逃げるのかと、その目には不満が見て取れた。 「・・・炎が上がれば、パニックに陥った蟲が一斉に村から飛び出してくるだろう。剣で蟲の集(すだ)くに立ち向かう気か?」 逃げる事はできない。・・・騎士のプライドか。 「お前の気持ちは理解できるが・・・この蟲らに知能は無い。・・・ここで無駄に戦力を減らす訳にはいかないんだ。」 なんとか納得した事を確認すると、今度こそ俺は騎士たちに急いで撤退を命じた。 「ゆ、勇者様!!」 振り向けば切羽詰った形相の男が一人、訴えるような目で俺を見上げている。 「どうしました?」 必ず助けるとは言わなかったが、父親なのであろう男の顔には安堵が広がった。 リアサーラの眼力なら俺が入った事ぐらい気づきそうだが、奴に情けとか気遣いとか期待するだけ無駄だ。あと数分で救出し出さなければ、俺は蟲と一緒に火焙りの運命となるのだろう。 取り合えず落ち着いて周囲を観察する。上下左右、どこを見渡しても蟲だからけだ。 ふと見上げた窓に人影が映った気がして、俺は目を凝らした。 二階のドアを開けると、中でうずくまっていた子供が、びくりと肩を震わせた。 「えぐ・・・えぐっ・・・。」 ぐすんと鼻を鳴らして、幼女がこころもとない眼差しで俺を見上げた。零れ落ちそうな大きな瞳と、陶磁器のような白い肌。一瞬どきりとした。 「ほら、帰るぞ。」 手を差し伸べると、幼女はふるふると頭を振った。 「いや・・・ぱぱ・・・わたし、いらないって・・・。」 この娘は・・・!まったく面倒かけさせるっ!そもそも俺は子供の面倒が嫌いなんだ。 いや、抱き上げようとした。
「ぱぱ・・・わたしたち・・・いらないの。」
刹那。
ぞわりと背筋を駆け上がった悪寒に、反射的に後ずる。
「イラナイイラナイイラナイイラナイ」
壊れたゼンマイ人形のように繰り返す幼女の肌がプチプチと裂けていく。
「イラ・・・ガッ・・・グア・・・」
一瞬の内に幼女の姿から漆黒の蠍へと変化したそれは、ギチギチと体を鳴らし、百の目で俺を見据えていた。
◆
幼女の皮を引き裂いた蟲は、スコーピオンというにはまだ小さすぎた。 ちっ、なんなんだこいつらは。 とっさに振り上げられた尾針を剣で一刀両断にすると、蟲は壊れた機械音のような醜怪な悲鳴をあげてもがき足掻いた。切られた尾が再生する様子は無い。そのまま止めを刺そうとした刹那、突き刺すような殺気を感じ俺は勢い良く飛びのいた。
「・・・殺させない。」
巨体から予想外に若い声が響く。少年のようなこの声は・・・。 「泉(イズミ)か・・・?」 百の瞳が憎悪を宿した紅蓮色に光る。振り下ろされた尾を飛びのけて俺はスコーピオンの体を駆け上がった。軌道を変えて襲い掛かる尾針を避けて背後に飛び降りる。 「逃がさない。火を止めろ。」 スコーピオンの声は未熟で焦りを含んでいる。 「必死だな。何が目的なんだ?」 再び尾を振りかざすスコーピオンだが、あいにく蟲の巨体は動きが鈍い。 くっ・・・遅かったか。 四方から、恐慌状態に陥った蟲の奇声が上がった。
ドウウウウウウウンッ!!!
大地を揺るがすほどの衝撃。
「間一髪!正義の味方・ただいまけんざーーーんっ!!!」
地盤が盛大に抉れ、目の前には半身を無残に奪われたスコーピオンが凄惨と苦しみ悶えている。 「リト兄、ひっさしぶりーーーーー!!」 ぎゅうーーーーっ!バキッボキ! 「フェルシア・・・お前、相変わらず空気読まないな。」 そして、自分が岩をも砕く怪力だと言う事を覚えていてほしい。 「フェルシア、力を抜いてさしあげないと、兄上の骨が折れますよ。」 ギブアップする一歩手前で助け舟を出した声に、俺は瞠目した。
「お久しぶりです、兄上。」
黒い髪、赤い瞳。
「飛鳥・・・。」
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