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翌朝、俺と国王と、重役である家臣、そしてラメアは、日の出と共にオアシスに向かった。本心、来て欲しくなかったが・・・俺の希望に反して、女神の使者はあっさり其処にいた。相変わらず誰の趣味かは定かではないが、黒いレースの刺繍が施された人形服のようなドレスを着ている。頭の天辺からからつま先まで真っ黒だ。本当に水の精霊かと問いたくなる。しかも、女神の昨日の台詞から連想すると、空から現れるものかと予想していたが、彼女はなんと女神像の横にちょこんと座って、しかもザリガニなんかと遊んでいた。同伴して来た家臣は、早くも昨日とのギャップに戸惑っているようだ。 「をを・・・女神の使者様・・・お待たせしてしまったかのう。」 こんな状態で、動揺が見られない国王は、さすがだと思う。 「あ、いいえ〜。待ち合わせには10分早く到着しなければ駄目ですから♪」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 笑顔で答えた神の使者と、俺たちの間に、一陣の風が吹きぬける。 「し、しかしそのお姿は・・・昨日となんら変わらぬようにお見受けしますが?」 そうだな、性格は破壊的に変わったかもしれないが。 「あ、陛下、敬語は結構でございます。陛下の方が、私なんかよりもずっとお偉いですし。私の事はマリーンって呼んで下さい。」 誰もそんな事聞いてないのに、神の使者は嬉しそうに言うと、国王陛下の下に跪いた。素っ頓狂な事を言う辺り、かなり疲れるが昨日の態度と比べると彼女の態度は好感的だった。 「あ・・・あの、それで、私・・・精霊体を見せなくてはいけないのですけれども・・・その・・・皆様、水の女神様の使いと言ったら、多分伝説とかで人魚のイメージがあるのかと思いますが・・・その・・・私、違うんです・・・。」 言いながら、神の使者は、不自然なまでにもじもじとしている。そんなに見られたくない姿なら、見せなくても構わないと思うが。そうもいかないらしい。 「それで、多分、皆様、私を疑っている人はいないと思いますが・・・もし、いても、私は何も弁解でいない訳で・・・。」 まだあるのか。一体何を疑う言うのだろう。寧ろ、俺が疑わせたくても誰も神など疑わないと言うのに。 「見て、綺麗な物でもありませんから・・・その・・・女性の方とかは、あまり見られない方がよろしいかとも思うのですが。」 そう言いながら、女神の使者は、俺の隣に立つラメアに視線を向けた。それを挑発と取ったのか、ラメアはむっとして言い返す。 「いいえ、平気ですわ。私とて、王女です。何を見せ付けられても平気です。」 何時も温和なラメアにしては尖った声に、俺は小さくため息を吐いた。やはりなんだかんだ言いながらも気にしているに違いない。競争心を持つ必要などないと言うのに。だが、神の使者は気にする様子もなくそうですかとだけ言うと、朝日を受けて光るオアシスに顔を向けた。 「では、皆さん〜、危ないですから、気をつけて下さいね〜、ぼーっとしていると、下敷きにされてしまいますよ〜。」 待て、誰に話しているんだ!?しかも下敷きだと!? 女神の使者の放ったやたらと物騒な台詞に、全員が、その場から3m程ざざっと後退した。 ・・・・・・・・・・・・・・ ごくりと誰かがのどを鳴らす。 そしてひたすら沈黙が続く。一体なんなんだ?っと困惑が上昇していく中、刹那、 なんだかやたらと不気味な影である、しかも凄く長い。半端でなく長い。
「す、すみませーん、大丈夫ですか〜?だから、ご忠告したんですけど・・・。」 そして頭上10m程の高さから降り注ぐ底抜けに明るい少女の声。違和感を通り越して不気味だ。馬鹿かこいつ、忠告するなら、あの無駄に長い前置きの変わりに、一言「蛇」だと言え。 「水が掛かってしまいましたですね〜、すみません、非難予告は一応出したんですけれど・・・。」 不釣合いな巨体を動かして、上半身だけ王様の目の前まで屈めると、神の使者は何処からともなくハンカチを取り出し、それを口に咥えて陛下の服を拭き始めた。真っ青な顔でなんとかそれに耐える陛下は、涙を誘う程勇敢に見える。インパクトのあり過ぎる胴体が動く度に、オアシスの水は渦を巻き、それが異様なまでの迫力と不気味さを醸し出していた。 それにしても、少しは状況を読み取れ。来た家臣は既に全員逃げ出すか、気絶してしまっている。まともに立っているのは、俺と陛下ぐらいしかいない。なんとも不甲斐無い事だ。
「あの〜・・・隊長さん、すみません。王様、動かなくなっちゃったんですけれど・・・。」 と思ったのもつかの間、陛下はどうやら目を開けたまま気絶したらしい。前言撤回、その姿は最上級に情けなかった。 「・・・どうしてくれるんですか?女神の使者様。」 別に、彼女の責任でもないのかもしれないが、皮肉を込めてそう言うと、神の使者は申し訳なさそうに謝罪をした。その途端、 ゴゴゴゴゴッ・・・ 「いやっ!いいっ!!謝るなっ!!」 っと言うより、動揺するな。地面が揺れる。 「それより気絶した者たちを運びましょう。」 かなり違和感はあるが、神の使者の機嫌を損ねるのは、この国の為にならない。俺はなるべく敬意を表して言った。 「あ、それなら、私が運びましょうか。」 まさか蛇の胴体で締め上げて王都まで運ぶつもりではあるまいな。そんな事をすれば大騒ぎ所ではない。っと言うよりも、陛下の身の上が心配だ。 「はい、一度に二人までですので、ちょっと時間掛かってしまいますけど。」 そうか、なら違うな。この体なら10人は軽く運べそうだ。 「では、お願いできますか?」 そう言うと、少女はぱっと元の人間体に戻った。視界が一気に広くなったな。 「では、参ります〜。」 適当に近くに倒れていた兵士二人を担ぎ、元気良く宣言する神の使者・・・・意外と力もちなんだな。この場合、一番に陛下と姫を運ぶものなのだが・・・それを俺が言う前に、彼女の姿は、兵士もろともその場から消えていた。 「念の為に言っておきますけど、私、呪いかけてませんよ?」 ラメアの部屋から出てきた俺に、神の使者は真面目な顔でそう言い放った。 「誰もそんな事思っておりません。」 何処までも緊張感のない女だ。本当に神の使者かと問いたくなる。大体、神の使者ならば、姿を変える事もできるのではないのか?態々あの姿を見せる必要が何処にあった。 「俺は、軍人ですから。魔物には慣れて・・・。」 まずい。仮にも神の使者を、魔物呼ばわりするなど、大失言だ。 「申し訳ありません。」 が、謝罪をすると、神の使者は、やはり笑顔のまま、へらへらと手を振った。つくづく変な奴だ。 「それでは、俺は失礼します。」 それ以上話すこともないので、俺が立ち去ろうとすると、不意に服をぎゅっと掴まれた。 「あの・・・私、やっぱり追い返されちゃうんでしょうか。」 誰が誰を追い返すと言うのだろうか。それとも、彼女の質問は悪ふざけなのだろうか。神の使者追い返したりなどすれば、天誅が下る事確実である。そんな事を国王がする筈がない。明日はきっと逃げ腰で目の前の少女に詫びを入れに行くのだろう。 「いや、やっぱり皆さん怖がってましたし・・・。」 言ってしまってから、また後悔する。どう考えても、今の言い方は皮肉に聞こえるだろう。またもや失言だ。この娘を前にすると、どうも苛立ってならない。 「えーっと、そんな大それた者でもないので、そう考える必要もないんですけれど・・・追い返されちゃうと、私も困ると言いますか・・・。」 が、怒る所か、逆に彼女は恐縮しきっている。初日のあの威厳は何処に行ったのだ。 「申し訳ありません・・・そう言う意味で言ったのではありません。今日は、驚いてしまった者もおりますが、ご機嫌を悪くされないで下さい。皆、神の使徒の力を、心より必要としているのです。貴方が此処にいる事を喜ばない者はおりません。」 俺以外は。 内心でだけそう付け足して。俺個人の感情を、表に出す必要はない。騎士隊長として、俺は、この国の為になる発言をするべきなのだ。 「・・・・・そですか。良かったです。お役に立てるなら、私、頑張りますね。」 予想外に、一瞬怪訝そうな表情をした神の使者だが、直に笑顔になると、嬉しそうにそう言い放った。やれやれ・・・これでやっと開放される。俺は、礼儀どおりに会釈をしてから、その場を離れた。 つ・・・・疲れました。そして、緊張しました。隊長さんってばやっぱり格好良いです。オーラーが只者じゃないです。はぁ・・・・でも好きな人に初っ端からあんな姿を見せる事になるなんて・・・初恋が実らないって本当なのですね。ものすっごく嫌われてるみたいですし。そりゃ、あんな姿みたら仕方ないのかもしれませんけど・・・流石騎士とあって見た目は平静を装っておりましたけど、かなり内心驚いてたに違いないです。 はぁぁ〜〜〜〜。せめて体長が後8m短かったら良かったのにな。
・・・って戻る所ないじゃないですか!?忘れてましたっ!?どうしましょうっ。そうなのです、私、もう神界には戻れないし、メッジモークにもまだ住みかがないんです。王様はまだ気絶したままですし、そうでなくとも今私の姿なんて見たくはないでしょうし。 けれど、転送魔法を唱えようとした途端、ぐらりと視界が大きく回転して、私は、その場に座り込んでしまったのです。立とうとしても足に力が入りません。 転送魔法の使いすぎですね・・・此処何日かで疲れてたかもしれません。不味いです。どうしましょう。お水・・・・・お水がないと・・・・わたくし、干乾びます。 それにしても、苦しいです。私は、海蛇ですから、陸の上でも長時間行動できますが、力を使うと、それだけ体力を消耗しますので、活動可能時間が短くなってしまうのです。 ほんっとうに・・く・・・苦しいのです〜・・・ぜぇ、ぜぇ・・・。 「何やってるのですか?」 こ・・・この状況で何やってるんだとか問わないでください〜あ・・・・もう駄目。
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