:4:



翌朝、俺と国王と、重役である家臣、そしてラメアは、日の出と共にオアシスに向かった。本心、来て欲しくなかったが・・・俺の希望に反して、女神の使者はあっさり其処にいた。相変わらず誰の趣味かは定かではないが、黒いレースの刺繍が施された人形服のようなドレスを着ている。頭の天辺からからつま先まで真っ黒だ。本当に水の精霊かと問いたくなる。しかも、女神の昨日の台詞から連想すると、空から現れるものかと予想していたが、彼女はなんと女神像の横にちょこんと座って、しかもザリガニなんかと遊んでいた。同伴して来た家臣は、早くも昨日とのギャップに戸惑っているようだ。

「をを・・・女神の使者様・・・お待たせしてしまったかのう。」

こんな状態で、動揺が見られない国王は、さすがだと思う。

「あ、いいえ〜。待ち合わせには10分早く到着しなければ駄目ですから♪」

・・・・・・・・・・・・・・・

笑顔で答えた神の使者と、俺たちの間に、一陣の風が吹きぬける。
全員が硬直する中、いち早く我に帰ったのは、やはり陛下だった。

「し、しかしそのお姿は・・・昨日となんら変わらぬようにお見受けしますが?」

そうだな、性格は破壊的に変わったかもしれないが。

「あ、陛下、敬語は結構でございます。陛下の方が、私なんかよりもずっとお偉いですし。私の事はマリーンって呼んで下さい。」

誰もそんな事聞いてないのに、神の使者は嬉しそうに言うと、国王陛下の下に跪いた。素っ頓狂な事を言う辺り、かなり疲れるが昨日の態度と比べると彼女の態度は好感的だった。
しかし、陛下はすっかり恐縮してしまっている。あの老体でそんなに腰を折って、大変な事にならねば良いのだが。

「あ・・・あの、それで、私・・・精霊体を見せなくてはいけないのですけれども・・・その・・・皆様、水の女神様の使いと言ったら、多分伝説とかで人魚のイメージがあるのかと思いますが・・・その・・・私、違うんです・・・。」

言いながら、神の使者は、不自然なまでにもじもじとしている。そんなに見られたくない姿なら、見せなくても構わないと思うが。そうもいかないらしい。

「それで、多分、皆様、私を疑っている人はいないと思いますが・・・もし、いても、私は何も弁解でいない訳で・・・。」

まだあるのか。一体何を疑う言うのだろう。寧ろ、俺が疑わせたくても誰も神など疑わないと言うのに。

「見て、綺麗な物でもありませんから・・・その・・・女性の方とかは、あまり見られない方がよろしいかとも思うのですが。」

そう言いながら、女神の使者は、俺の隣に立つラメアに視線を向けた。それを挑発と取ったのか、ラメアはむっとして言い返す。

「いいえ、平気ですわ。私とて、王女です。何を見せ付けられても平気です。」

何時も温和なラメアにしては尖った声に、俺は小さくため息を吐いた。やはりなんだかんだ言いながらも気にしているに違いない。競争心を持つ必要などないと言うのに。だが、神の使者は気にする様子もなくそうですかとだけ言うと、朝日を受けて光るオアシスに顔を向けた。

「では、皆さん〜、危ないですから、気をつけて下さいね〜、ぼーっとしていると、下敷きにされてしまいますよ〜。」

待て、誰に話しているんだ!?しかも下敷きだと!?

女神の使者の放ったやたらと物騒な台詞に、全員が、その場から3m程ざざっと後退した。
やはり、本来の姿とやらを見るのは止めておいた方が良いのでは?っと家臣が国王に視線で訴えかけるが、どうやら時既に遅し。神の使いはざぶーんっと勢い良く水中にダイブしていた。

・・・・・・・・・・・・・・

ごくりと誰かがのどを鳴らす。

そしてひたすら沈黙が続く。一体なんなんだ?っと困惑が上昇していく中、刹那、
水面に波紋が広がり、黒い影が浮かび上がった。

なんだかやたらと不気味な影である、しかも凄く長い。半端でなく長い。
既にその物体が湖面を出る前から、家臣の何人かは腰を抜かしてしまっている。
神聖なる存在降臨・・・・というより、禍機到来といった雰囲気の中、 水面が徐々に盛り上がる。そして、高き水しぶきを上げて現れたのは、神々しさよりも禍々しさ全開な漆黒の大蛇だった。


黒い、でかい。長い。 重々しい胴体の数メートル先に、ランランと光る真赤な瞳が、地上を見下ろした刹那、ラメアを含む何人かが失神してその場に崩れ落ちた。無論、俺はラメアをしっかりと抱えたが。

「す、すみませーん、大丈夫ですか〜?だから、ご忠告したんですけど・・・。」

そして頭上10m程の高さから降り注ぐ底抜けに明るい少女の声。違和感を通り越して不気味だ。馬鹿かこいつ、忠告するなら、あの無駄に長い前置きの変わりに、一言「蛇」だと言え。

「水が掛かってしまいましたですね〜、すみません、非難予告は一応出したんですけれど・・・。」

不釣合いな巨体を動かして、上半身だけ王様の目の前まで屈めると、神の使者は何処からともなくハンカチを取り出し、それを口に咥えて陛下の服を拭き始めた。真っ青な顔でなんとかそれに耐える陛下は、涙を誘う程勇敢に見える。インパクトのあり過ぎる胴体が動く度に、オアシスの水は渦を巻き、それが異様なまでの迫力と不気味さを醸し出していた。

それにしても、少しは状況を読み取れ。来た家臣は既に全員逃げ出すか、気絶してしまっている。まともに立っているのは、俺と陛下ぐらいしかいない。なんとも不甲斐無い事だ。


しかし、流石は一国を率いる王、例え肥満で歩くのすら苦しかろうと、箸以上重たい物を持った事がなかろうと、度胸だけは並の貴族とは違う。

「あの〜・・・隊長さん、すみません。王様、動かなくなっちゃったんですけれど・・・。」

と思ったのもつかの間、陛下はどうやら目を開けたまま気絶したらしい。前言撤回、その姿は最上級に情けなかった。

「・・・どうしてくれるんですか?女神の使者様。」
「す・・・・すみません〜〜〜っ!!!」

別に、彼女の責任でもないのかもしれないが、皮肉を込めてそう言うと、神の使者は申し訳なさそうに謝罪をした。その途端、

ゴゴゴゴゴッ・・・

「いやっ!いいっ!!謝るなっ!!」

っと言うより、動揺するな。地面が揺れる。

「それより気絶した者たちを運びましょう。」

かなり違和感はあるが、神の使者の機嫌を損ねるのは、この国の為にならない。俺はなるべく敬意を表して言った。

「あ、それなら、私が運びましょうか。」
「・・・・できるのですか?」

まさか蛇の胴体で締め上げて王都まで運ぶつもりではあるまいな。そんな事をすれば大騒ぎ所ではない。っと言うよりも、陛下の身の上が心配だ。

「はい、一度に二人までですので、ちょっと時間掛かってしまいますけど。」

そうか、なら違うな。この体なら10人は軽く運べそうだ。

「では、お願いできますか?」
「はい、では、行きますね〜。」

そう言うと、少女はぱっと元の人間体に戻った。視界が一気に広くなったな。
それにしても、もっと早く戻ってくれたら、気絶する人数も少なくて済んだかもしれないと言うのに。神の使者とは全員これほどまで呆けているのだろうか。

「では、参ります〜。」

適当に近くに倒れていた兵士二人を担ぎ、元気良く宣言する神の使者・・・・意外と力もちなんだな。この場合、一番に陛下と姫を運ぶものなのだが・・・それを俺が言う前に、彼女の姿は、兵士もろともその場から消えていた。








「念の為に言っておきますけど、私、呪いかけてませんよ?」

ラメアの部屋から出てきた俺に、神の使者は真面目な顔でそう言い放った。
なんとか、全員を王宮まで運んだのは良いのだが、よっぽど衝撃が大きかったのか、何人かは未だ悪夢に魘されているらしい。ラメアもその一人だ。

「誰もそんな事思っておりません。」
「あはは、なら良かったです。でも、隊長さんは凄いですね、一人だけ、平気でしたし。」

何処までも緊張感のない女だ。本当に神の使者かと問いたくなる。大体、神の使者ならば、姿を変える事もできるのではないのか?態々あの姿を見せる必要が何処にあった。

「俺は、軍人ですから。魔物には慣れて・・・。」

まずい。仮にも神の使者を、魔物呼ばわりするなど、大失言だ。

「申し訳ありません。」
「あはは、良いですよ〜、皆さん好戦的な方でなくて、助かりました。」

が、謝罪をすると、神の使者は、やはり笑顔のまま、へらへらと手を振った。つくづく変な奴だ。

「それでは、俺は失礼します。」

それ以上話すこともないので、俺が立ち去ろうとすると、不意に服をぎゅっと掴まれた。
この場には、俺と神の使者しかいないから、引き止めた相手は、嫌でも解る。はっきり言って、神の使者との対談は、早く終わりにして欲しかったのだが、振り向いた先にあった不安そうな表情に、俺は何も言えなくなってしまった。

「あの・・・私、やっぱり追い返されちゃうんでしょうか。」
「・・・・・・は?」

誰が誰を追い返すと言うのだろうか。それとも、彼女の質問は悪ふざけなのだろうか。神の使者追い返したりなどすれば、天誅が下る事確実である。そんな事を国王がする筈がない。明日はきっと逃げ腰で目の前の少女に詫びを入れに行くのだろう。

「いや、やっぱり皆さん怖がってましたし・・・。」
「神の使者ともあろうお方を、追い返すなど、する筈ないでしょう。」

言ってしまってから、また後悔する。どう考えても、今の言い方は皮肉に聞こえるだろう。またもや失言だ。この娘を前にすると、どうも苛立ってならない。

「えーっと、そんな大それた者でもないので、そう考える必要もないんですけれど・・・追い返されちゃうと、私も困ると言いますか・・・。」

が、怒る所か、逆に彼女は恐縮しきっている。初日のあの威厳は何処に行ったのだ。

「申し訳ありません・・・そう言う意味で言ったのではありません。今日は、驚いてしまった者もおりますが、ご機嫌を悪くされないで下さい。皆、神の使徒の力を、心より必要としているのです。貴方が此処にいる事を喜ばない者はおりません。」

俺以外は。

内心でだけそう付け足して。俺個人の感情を、表に出す必要はない。騎士隊長として、俺は、この国の為になる発言をするべきなのだ。

「・・・・・そですか。良かったです。お役に立てるなら、私、頑張りますね。」

予想外に、一瞬怪訝そうな表情をした神の使者だが、直に笑顔になると、嬉しそうにそう言い放った。やれやれ・・・これでやっと開放される。俺は、礼儀どおりに会釈をしてから、その場を離れた。









つ・・・・疲れました。そして、緊張しました。隊長さんってばやっぱり格好良いです。オーラーが只者じゃないです。はぁ・・・・でも好きな人に初っ端からあんな姿を見せる事になるなんて・・・初恋が実らないって本当なのですね。ものすっごく嫌われてるみたいですし。そりゃ、あんな姿みたら仕方ないのかもしれませんけど・・・流石騎士とあって見た目は平静を装っておりましたけど、かなり内心驚いてたに違いないです。

はぁぁ〜〜〜〜。せめて体長が後8m短かったら良かったのにな。


私も、戻りましょう。

・・・って戻る所ないじゃないですか!?忘れてましたっ!?どうしましょうっ。そうなのです、私、もう神界には戻れないし、メッジモークにもまだ住みかがないんです。王様はまだ気絶したままですし、そうでなくとも今私の姿なんて見たくはないでしょうし。
うーん・・・・北のオアシスに・・・行くしかありませんね。人間に見つかったら大騒ぎになりそうですが、背に腹は代えられません。

けれど、転送魔法を唱えようとした途端、ぐらりと視界が大きく回転して、私は、その場に座り込んでしまったのです。立とうとしても足に力が入りません。

転送魔法の使いすぎですね・・・此処何日かで疲れてたかもしれません。不味いです。どうしましょう。お水・・・・・お水がないと・・・・わたくし、干乾びます。

それにしても、苦しいです。私は、海蛇ですから、陸の上でも長時間行動できますが、力を使うと、それだけ体力を消耗しますので、活動可能時間が短くなってしまうのです。
どうしましょう。お城で働いている方は、私が神の使者だからか、近づこうともしません。そりゃあまさか神の使者が力の消耗で足腰立たない・・・なんて事があるとは思わないでしょうけど・・・。

ほんっとうに・・く・・・苦しいのです〜・・・ぜぇ、ぜぇ・・・。

「何やってるのですか?」

こ・・・この状況で何やってるんだとか問わないでください〜あ・・・・もう駄目。


楽園にエントリーしております。この小説を読んでまぁ、許せる出来だわvと思った方は投票してやってください。
開いたページの投票ボタンをクリックすれば投票されます。


<<...TOP...>><<...BACK...>><<...NEXT...>>          <<...HOME..>>