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ああ、一体どうしてこんな事になっているのでしょう。 「あ、あの、私リトに来るなと言われているのですが。」 屋敷の裏に設置された巨大な闘技場。その客席で、在所無く身を隠しながら、弱弱しくダカンさんに訴えかける私。何故か、ダカンさんに捕まった後、ここまで連れてこられたのです。当然、未来からやってきたと言う事は、しっかりバレました。ああ、この世界の人たちはどうして非現実的な出来事に対する順応能力がこうも高いのでしょうか。 「そうですか。それはそれは・・・なるほど・・・。」 一人で納得したように頷かれても。 「可愛らしい所もあるものですね。」
一体誰の事を言っているのか理解できず、首をかしげていると、意味ありげに微笑まれました。謎は深まるばかりです。 「まぁ、良いではありませんか、貴方も興味がありますでしょう。ほら、先ずはリアサーラ対フェルシアですよ。」 そうダカンさんが言い放った先、リング上にフェルシアちゃんとリアサーラさんが現れました。 「イグニード将軍が訓練をつける訳ではないんですね。」 観賞を決め込んだように柔らかな物腰でベンチに座ると、ダカンさんは私にもそうする様に促しました。観客ですか・・・この方は高みの見物に来たんでしょうか。 「嫌ですね、救急医ですよ。私は。」 やはり怖い方です。思わず謝った私に、くすりと笑みを浮かべるとダカンさんは闘技場に視線を戻しました。
「あきらくんのかたきぃぃぃーーーっ!!」
リング上では既にフェルシアちゃんが、小さく愛らしい体に似つかわしくない格闘技を纏い、拳を唸らせておりました。今だお猿さんの事を根に持っているようです。 「フェルシアは一段とやる気まんまんですね。」 私恨がありますからね。対してリアサーラさんは、余裕のある動きでフェルシアちゃんの攻撃を交わして行きます。外れた鉄拳は次々と壇上に穴を空けていきます。 「フェルシアは怪力を持つ地底族の末裔ですからね。その中でも岩を砕く拳を持って生まれた子供です。怒らせたら怖いですよ。イグニードがうっかりフェルシアのおやつを食べてしまった時、死にかけましたからね。」 数メートル先で怒涛のバトルが繰り広げられていると言うのに、全くお構い無く物騒なお茶の間秘話を語るダカンさん。どちらが怖いのか解りません。 ドガガガガガッ!!バキャアアアッ!! 「にげるなこしぬけっ!!」 声を張り上げているのは、当然イグニード将軍。動きたくてうずうずしているようです。 「リアサーラは、卓越した狩猟技術を持つ遊牧民族の子供です。その身体能力と視力は一族の長をも超越していたのですが、掟を破って破門された所、私が拾わせて頂きました。至って人畜無害なのですが、家畜には有害なのが玉に瑕ですね。お陰でモルモットを飼う事もできません。まぁ、その分実験材料を仕入れてきてはくれますが。」 ひぃーっ!そんなマッドサイエンティストと猟奇殺人者のようなタッグ組まないで下さいっ!怖すぎます。 「今日はがんばってますねぇ、フェルシア。」 確かに、リアサーラさんは身軽に距離を取っては弓を構えようとしますが、その度に素早く近づいたフェルシアちゃんに阻害され不発に終わります。 「効いてますね、イグニード将軍のアドバイス。」 い、いますっごくさり気無く愚弄しませんでしたか? 「とは言っても、後三秒が限界でしょうね。」 とは言っても、三秒なんてあっというま・・・。 ガシャーン!! は、はうあああっ!! 心中での呟きさえも終わらぬ内に、目の前を突風のごとく何かが過ぎったかと思うと、すさまじい勢いで壁に衝突しました。パラパラと石垣が崩れ、その中から微動だにしない小さな手が。 「ひぃぃぃっ!」 思わず青ざめ、石の如く凝固してしまう私。 「場外失格!!うむっ、しかし今回は良くやったな、フェルシア!」 ぴくりとも動かない幼女が瓦礫の下敷きになっているというのに、リングの上で場違いとも言えるコメントを吐き出すイグニード将軍。あんぐり開いた口が塞がらないでいると、ひょいと高飛びしたリアサーラさんが、瓦礫の側まで飛び降り、中から気を失った幼女の体を引きずり出しました。その姿、罠にかかった兎を生け捕りにする狩猟者そのもの。 「そんじゃ、後よろしく。センセ。」 ぽんと投げよこされたフェルシアちゃんを荷物のように受け取ったダカンさんは、ガクガクとブレまくってる私に気がついたのか、なだめるような笑みを向けてきました。 「フェルシアは石頭ですから気にする必要はありませんよ」 そういう問題じゃありませんっ!けれど、ダカンさんの腕の中でいたいけな幼女から小さな呻きがもれた事で、少しだけ胸を撫で下ろす私。 「こんなお小さいのに、酷すぎですっ!大体何もリアサーラさんと戦わせる事無いじゃないですかっ!」 私恨があると言えどなんて無謀な挑戦をする子なんでしょう。 「それにリアサーラ以外はフェルシアに手を上げられませんからね。老若男女、平等なのが彼の良い所ですよ。」 それって悪い意味で無差別と言うのでは・・・。 「理解できないのも、無理はありません。けれど、センチュリオンは言わば異端の子供。生き残る為に彼らは強くならなくてはいけないのです。」 そう言ったダカンさんの表情は相変わらず穏やかでしたが、揺ぎ無い意思の強さを感じて私は何も言えなくなってしまいました。異端者は強くならなければならない。 「でも、飛鳥君は、この国を守る為に強くなるのだと仰ってました。」 ふと意外そうにダカンさんが瞳を見開いたので、私はその視線を追うように、リング上に視線を向けました。 「おかしいですね、キーリトスの相手はルウェイの筈ですが・・・。」 そ、そんな、体格からして二倍以上差があると思うんですが。そもそも成長期真っ只中の青年と、見るからにひ弱・・・せ、繊細そうな少年を戦わせたりしないでしょうっ! 「とは言っても、キーリトスの相手になるのは、ルウェイしかいませんからね・・・。」 ぶはっ。笑顔で切り返された返答に思わず噴出す私。ヒーローにあるまじき肩書き、良いんでしょうか、こんな事で。 「まぁ、英雄の血を受け継いでいると言う点を省けば、彼は普通の子供ですから。センチュリオンたちと比較しては不公平なのかもしれませんが。」 英雄の血を受け継いでいる・・・普通の子供・・・? 「まぁ、イグニードはあれで手癖が悪いですからね。とある日見知らぬ女が赤ん坊を抱えて、『これがあなたの息子よ』と言われても何も否定できない訳ですが。」 そう言ったダカンさんの目に無言の怒りを感じ、私は恐ろしさに背中を震わせました。 「えーっとそ、それってもしかして。」 センチュリオンは卓越した能力を持つ天才だ。 刹那、私はようやく理解しました。どこの馬の骨かもしれない子供と、リトは自分の事を指していたのですね。ああもう、私の馬鹿馬鹿。あんな寂しそうな顔を見ても解らないなんて鈍すぎです。
「っリトーーーーーーーーーーっ!!」 突如勢い良く立ち上がり、思い切り声を張り上げた私に、闘技場にいた全員が好奇と驚愕の眼差しを向けます。リトはというと絶句しているもよう。はっ、しまった!私とした事がつい目立ってしまいました。でもここまで来たら後には引けません、女は度胸ですっ! 「が、がんばって下さいっ!負けても大好きですっ!!」 高鳴る胸を抑え付け、思いのままに叫ぶ私。が、何故だか周囲の空気が主にリトを中心として凍りついている気が。傍らには何故か肩を震わせているダカンさん、そして壇上の飛鳥ちゃんが何を言ったと思った次の刹那、リトの手には二本の剣が握り締められていました。ひぃぃぃっ!な、なんだかその凄まじい視線が私に向けられているような。リト、相手は飛鳥ちゃんですよっ!お気を確かにっ! 「おやおや、あの子は二刀流が嫌いだった筈ですが・・・ふふふ・・・やはり私の予想は正しかったようですね。」 訳の解らないコメントを満足気に述べるダカンさん。リングの上では、飛鳥君も構えを終えているようでした。リトと同じように、両手に二本の剣、少しだけ形の違うそれは細く長く、まるで針のような形をしています。小柄な少年たちから発せられているとは思えない押し迫った空気が周囲に張り詰めました。 「始めっ!!」
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