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移転魔方陣を失敗した事で、まさかのタイムトリップをしてしまった私は、十年ほど前のメッジモークまで飛ばされてしまいました。そこで目のあたりにした驚くべき事実。

リトもリアサーラさんもルウェイさんも、皆同じ家に住んでいた事。
その上、互いを兄弟と呼び合う仲である事。

「あの、皆さんは兄弟なのですか?」

屋敷を案内してくださると言った飛鳥君の申し出を有難く受け入れ、私たちは屋敷の広い廊下を歩いていました。ただ黙って歩くのも何なので、疑問に思った事を尋ねてみます。

「正確に言うと血は繋がっていませんが・・・私たちは、センチュリオンになる為にここに集められた子供なんです。」
「えっ!?」
「あ、センチュリオンというのは・・・。」
「・・・スコーピオンと互角に戦える戦士・・・。」

思わず脳裏に浮かんだ事を口にすると、飛鳥君が僅かに瞠目しました。

「良くご存知ですね。その通りです。私たちは全員、何かしら普通の人間より卓越した能力を持って生まれてきた子供。イグニード様に集められ、ゆくゆくは国を支える者たちとなれるよう、ここで修行を積んでいるのです。」

誇らしげにそういうと、飛鳥君はにっこりと穏やかな微笑みました。

「・・・。」
「わっ!だ、大丈夫ですか!?僕が何か傷つける事を言ったのでしょうか。」
「す、すみません、ものすっごく癒されて・・・。」

だってこの世界に来て初めての癒し系キャラですよっ!?もう一生苛め狩られ解剖されて過ごすのだと覚悟していた私にとってはまさに青天の霹靂。これが感涙せずにいられましょうか。

「は、はぁ・・・なんだか良く解りませんが、お悩みがあるのでしたら、僕でよければいつでもご相談下さい。」
「あぅぅぅぅ〜・・・。」
「うわっ!え、えーっと。は、ハンカチをどうぞ。」
「ずびばせん〜〜!」

もうこれ以上感動させないで下さい。私、優しさにはすこぶる弱いのですから。
濁流のごとく感涙に咽ぶ私に、おろおろしながらハンカチを差し出す飛鳥君。な、なんて良い子なんでしょうっ!

「感動ですーー!もう、私の息子になって下さいっ!」
「わ、わわっ!」

高ぶった感動を抑えられず、思わず抱きついてしまった私に、狼狽し顔を赤く染め上げる飛鳥君。なんて可愛く愛らしいのでしょうっ!母性本能をくすぐるとはこの事なのですね。

「む・・・息子って・・・。貴女と僕は同じぐらいの歳だと思いますが。」

いえ、私の方がウン百倍は長く生きてますよー。ふっふっふ。

「でも、そうですね・・・。貴女とは、他人の気がしませんし。」

くすりと小さく笑みを漏らすと、飛鳥君は私の顔を覗き込み、秘密だと言う様に、小さな声で囁きました。

「息子は少し遺憾なので。姉上・・・で宜しいですか。」

うわぁ・・・。可愛い可愛いとばかり思っていましたが。この笑顔は、なんというか・・・凄艶。顔はリトの方が整っているのですが、飛鳥君は、表情の一つ一つがとても魅力的なのです。そんな笑顔で言われてしまったらノーなんて言える筈もなく、こくこくと頷いてしまう私。お恥ずかしい事ですが、なんだか精神年齢は飛鳥君の方が歳上な気がしてなりません。それなのに、あえて私を姉に配置するなんて、さり気ない気配りさんでもあります。将来が末恐ろしい子です。

「それでは、姉上となった記念に・・・これを差し上げます。」

そう言ったかと思うと、飛鳥ちゃんは懐から縁の無い眼鏡を取り出しました。
くれると言われても、私視力は両目共3.5あるんですが・・・。

「この眼鏡は、僕がカモフラージュに使っているものですから・・・度数は入ってないんですよ。」

私の困惑を読み取ったように、飛鳥ちゃんは微笑むと、自らの眼鏡をそれと取り替えました。
その途端、瞳の色が真紅から翠に変化したのです。驚きに瞳を見開く私の前で眼鏡をはずすと、紅色に戻った瞳で、飛鳥君は悪戯っぽく微笑みました。

「ね?・・・こんな姿ですと・・・望まずとも不和を招きやすいですから。」

寂しげに瞳を伏せる飛鳥君に胸きゅん。ああ、なんて保護欲をそそられるのでしょうっ!

「飛鳥君は、どうして・・・あ、いえ。なんでもありません。」

どうしてそんな外見なのですかと尋ねようとしたのですが、そんなの私だって聞かれたら困ってしまいます。 飛鳥君はただでさえそれで苦労をしているのかもしれないのですから。

「気にする必要はありませんよ。ですが、なぜと聞かれても・・・遺伝であると説明するしかありませんが。」
「えっ・・・?」
「僕の一族は、みな黒髪に赤瞳なんです。とは言っても、過去形ですが・・・。」

やんわりと微笑んだ飛鳥ちゃんの笑顔に、ふと翳りが注した気がしました。

「過去形・・・?」

嫌な予感がして、心臓が激しく鳴り響く。

「ええ。今は、もうありませんから。」

静かに言い放った飛鳥君の表情からは悲しみも苦悩も読み取れませんでした。
けれど、それがどういう事なのか、解らない程馬鹿ではありません。私だって、この姿の為に幾度となく瀕死体験をしてきたんです。実際再生能力なければ今頃はとっくにレイムのお迎えが・・・。

「でも、それを尋ねるという事は・・・貴女はやはり僕の一族では無かったのですね。」
「あっ!ご、ごめんなさいっ・・・。」

飛鳥君の表情が少し寂しげに見えてしまい、激しい罪悪感を感じて私は懸命に謝りました。

「あ、いえ。謝らないでください。困らせたい訳ではないのです。あ、姉上。」

きゅーんっ!!なんって良い子なんでしょうっ!ちょこっとドモってしまう所なんて可愛すぎです。リトに爪の垢を煎じて飲ませたい・・・って。

「ああああっ!!!」
「ど、どうかしましたか!?」
「り、リトっ!リトは今どちらにっ!?」

図らずも押しつぶすように石段から転がり落ちてしまった訳ですから、普通に考えて私以上の重症になっていたとしてもおかしくありません。ああ、私とした事が驚く事多すぎて今の今まで忘れていたなんてっ!!

「キーリトス兄上ですか・・・?ふらりと何時も一人でどこかへ行ってしまうので。何処にいるのかは僕にも良く・・・。」
「け、けけけ怪我などはっ!?」
「大して無かったと思いますよ。」

返ってきた答えにどっと肩の力を抜く私。歴史を変える所か人一人殺める所でしたよ。洒落になりませんっ!

「ふふ、随分と兄上を気になされているのですね。一体どういう仲なのですか?」
「えっ。」

現状況で一番困る質問を投げかけられ、私の額に汗が浮かびます。なぜなら、この時代でリトにとって私は初対面の赤の他人で・・・未来での私とリトは・・・。う、うーん。友達でもありませんし部下でもありませんし。

「その、関係を上手く説明はできないのですが・・・私の片思いなので・・・。」

うう、言ってしまうと気恥ずかしさが。思わず顔を赤らめると頭上から飛鳥君の含み笑いが聞こえてきました。

「羨ましいですね。兄上。」
「へ・・・?」

にっこりと笑んだ飛鳥君の視線が私の背後に注がれている事に気がつき、ピシリと本能的に体が石化しました。ああ、とてつも無く嫌な予感が。背後から突き刺さるような冷たい視線がそれを裏付けているようです。ギギギと錆付いたからくり人形のごとく私は背後を振り返りました。

「・・・。」

はうっ。

何も言われていないのに思わずごめんなさいと謝ってしまいそうな緊迫感が。
予想を裏切らず、彫像のように整った顔を微塵も変えること無くそこに立っていたリトは、私が振り返ると同時に、踵を返しました。

「あっ・・・あ、飛鳥君ごめんなさいっ!」

焦りながら飛鳥君に向かって慌しく一礼し、私は遠ざかるリトの背中を追いかけるべく駆け出しました。

「ま、待って下さいリトっ!」

走りながら曲がり角を曲がると、驚く事にリトはそこでちゃんと待っていて下さいました。
てっきり全速力で逃亡されると思っていた私は自分で叫んだにも関わらず瞠目してしげしげと小さなリトの姿を見つめてしまいます。背は私の方が少し高いでしょうか。ふふふ、可愛らしいです。・・・無表情ですけれど。

「何。」
「あ、えと有難うございます、待って下さって。」

相変わらず天使のような外見とは裏腹につれない態度ですが。
冷淡な音声に少し怖気づきながらも笑顔を保とうとフレンドリーな話題を持ちかけてみますが。

「・・・また潰されたら適わないから。」

一蹴でした。見ればしっかりと階段前数歩の猶予を持って立ち止まっているリト。
・・・周到な子供だったんですね。

「す、すみませっ・・・あ、助けて頂いて有難うございました。リト、怪我が無くて良かったです。」

それでも笑顔でお礼を述べると、僅かに眉をひそめて、リトは私から視線を逸らしました。

「別に・・・。」

うう、やっぱり反応が薄いです。大人のリトもお世辞にも感慨深い性格とは言えないのですが、子供の頃は更に能面的だったなんて信じられません。

「・・・何か用。」
「えっ。」

苛立だしげに振り向いたリトにきょとんと立ち止まる私。

「なんで着いて来るんだ。」
「え・・・なんとなく。」
「迷惑だ。怪我が治ったんならさっさと帰れば。」

帰り方が解らないから困ってるんですーっ!と突っ込みを入れかけた途端。玄関前の扉が勢い良く開かれました。

バターンッ!

 

「今帰ったぞーっ!」

石造のドアが玩具の如く壁に叩きつけられると同時に響き渡る咆哮。そして仁王立ちで現れた人物を目の当たりにした瞬間。

「きゃああああっ!!」

私は恐怖の悲鳴をあげリトにしがみついてしまいました。
何しろ現れた人物はとんでもない巨躯の大男。それだけなら未だしも全身を血で染め上げ、その瞳はギラついた獣のよう。なんだか紫とか緑とか明らかに人外の血も垣間見える所が一層恐ろしさを煽ります。これはとんでもない殺戮者とか残虐者紛いかに違いありませんっ!いえ、ルウェイさんの親戚という可能性もありますが

「・・・父上。」
ええええっ!?

狼狽していた私は、溜息と共にこぼれた台詞が、他の誰でもなくしがみついていた少年リトの口から出た事に思わず素っ頓狂な叫びを上げました。そんな私の視線には一瞥もくれず、何処か疲れたような形相で血みどろなお父さん(?)を見上げる少年リト。

「お、キーリトス。出迎えとは可愛い事するようになったじゃねーか。」
「いえ・・・。」
「その妙にマニアックなのはお前のコレか?流石は俺の息子だ!ガハハハハハッ!」
「なっ・・・違っ!」

コレって何でしょう。いえ、そんな事より血だらけの手を伸ばして頭を撫でようとする父君からさり気なく逃れるリトの姿は、どう見ても嫌がっているようにしか見えないのですが。

「よーし、他の奴らは何処だっ!稽古するぞーガキどもっ!!」

全身からぼたぼた血を垂れ流しにしたまま、豪快に声を張り上げる方が本当にリトの父君なのだとしたら、彼が善騎士隊長、伝説の勇者イグニードと言う事になる訳ですが・・・あまりにも想像と違ったお姿に私は言葉を失っておりました。

「お帰りーっぱぱーっ!」

イグニード将軍の声に一番速く反応して現れたのは先ほどの女の子。紫色の髪をふわふわと靡かせて階段を駆け下りてきたかと思うと、勢い良く血だらけの胸元に飛び込みました。・・・慣れてるんですね。きっと。

「お帰りなさいませ、父上。」
「お帰りなさーい、隊長。」

続いて現れたのは、幼い美少女もどきなリアサーラさんと飛鳥君です。
その背後には無言のまま立ちそびえるルウェイさんの姿。

「旦那様―っ!血を撒き散らしながら家ん中歩かないで下さいって何度っ!何度言わせたら気が済むんですかーっ!」

おお、あれは久しぶりな登場のイールモーザさんです。覚えている方はいらっしゃいますでしょうか。リトの家で働いている家政婦さんです。とりあえず、現状況から見て一番お変わりない人かもしれません。

「イグニード、止血が終わるまで動き回るのは禁止ですよ。」
「うぐっ!?」

前言撤回。ここに、尤も変化の無い人がおりました。十年後とまったく同じ姿なんて・・・只者ではないと解ってはいましたが、優雅な紅蓮のベールを纏ったダカンさんは、俊足で懐から取り出した針のような物でイグニード将軍を無言の内に撃沈すると、周囲を見渡しマリア様のごとき笑みを浮かべました。刹那、視線が合ったような気がして、咄嗟に物陰に隠れる私。
子供たちならともかく、さすがに過去のダカンさんと係わるのはまずい気がするのです。

「お帰りなさいませ、師匠。」

し、師匠っ!?飛鳥君の台詞に思わず噴出しそうになる心境を必死に堪えます。

「ただいま、飛鳥。修行に励んでますか・・・とは、聞かなくても良い事ですね。」
「はい、新しい研究の成果を師匠に見て頂きたく。」
「解りました、後ほど参りましょう。」

既に独特の空間を作り出しているお二方。確かに言われてみれば飛鳥君の丁寧な口調とか、優雅な佇いなどダカンさんにそっくりです。なんとなく逆らえない笑顔とかも。
イグニードさんはなんとなくルウェイさんと似てますね、なんか眼光だけで会話とかを交わしていそう。リアサーラさんとフェルシスちゃんも、喧嘩するほど仲が良いと言いますし、なんだかんだ言って楽しそうなご家族です。

そこまで考えて私はふとリトの姿が居なくなっている事に気がつきました。
・・・何処に行ったのでしょう、さっきまで傍に居たのに。

 

なんとなく気になって私はリトの気配を辿ると、まだ近くにいるようでした。これなら上手く座標を絞れそうです。そっとざわめきから遠ざかると私はそっと小さな声で転移呪文を唱えたのでした。

それを見ていた視線には、少しも気づく事無く。
長らく更新なくて御免なさい。リアサーラ以上の勝手に動くダークホースが勝手に生まれてしまった為書き溜めていた物全部破棄する羽目。 どうなるマリーン!?<作者にもわからない予告。
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