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たった今ついたばかりで、状況などは全く解りませんが。 「・・・闇の精霊か。なれば泉は遺漏したのか。」 柳眉を僅かだけ吊り上げて、呟くように言うと、朧は圧迫される程鋭い瞳で私を見下ろしました。 「再び我を殺めに来たか。死神よ。」 罪悪感に痛む心よりも鮮明に、ぞくっと、刹那背筋が戦慄きました。朧の声が、憎しみでも怒りでもなく、悦楽を纏っているように感じたのです。 「お・・・王女様を放して。ここから出て行って下さい。でなければ・・・仲間の命は保障しません。」 多分今の一言で一番心臓にダメージを受けたのは私自信だと思います。バクバクバクバク。 「そうか・・・くくくっ・・・再び・・・我は、今時を所望していた。」 だから、朧が口元をゆがめて言い放った言葉が、私には理解できませんでした。 「甘味な旋律であった。疎ましく、醜悪な・・・幾久しい我が生、古今未曾有の刺戟であった。」 こ、こきんみぞう・・・?なんだか意味が解りませんが物騒な風向きになってきた事だけは理解できます。昂奮に一層赤みを増した瞳で見つめられ、体は金縛りになったように動かなく、只このまま朧が退くことは有り得ないだろうと私は確信しました。
「見せよ魅せよ、汝が力・・・。我に、絶望を与えよ!」
刹那、王女様を無造作に投げ下ろし、朧の尾が空を切りました。
っ間に合わな・・・!
思わず目を閉じてしまった私は、幾ら待っても衝撃がこない事におそるおそる目を開けました。 「悪いがこちとら見世物じゃない。」 冷ややかな声、白銀の外套。私と朧をさえぎるようにして、リトが盾で朧の赤い尾を食い止めていました。 「・・・笑止。」 朧が唇をゆがめた刹那、硝子細工のように粉々に砕け散る盾。 「リトっ!!」 思わず叫んでしまった私にそう言い捨てると同時に、リトの粉砕された盾より描かれた軌跡が、朧の尾を両断しました。 「ルウェイっ!今だ。」 リトが叫ぶと同時に朧の頭上に、紅蓮の陰が飛び降りる。それを紙一重の差で交わし、横に飛び退く朧。うわ・・・立っていた所の地盤が凄まじく抉れているのですが。そのクレーターの中心に立つルウェイさんは赤いローブをなびかせ、凄まじい眼光で朧を睥睨しております。その姿はさながら、あらぶる炎の獣、逆鱗に触れた竜神。全身から戦気と怒気を滲ませ、そうとうご立腹なもよう。 「ラメア様を・・・よくも・・・。」 あぁ、王女様を人質にとられたから怒っているのですね。 「一つだけ答えろ、なぜ人間の姿になる事ができた。」 そう言い放った朧の口元が、次の瞬間、耳まで裂けました。ルウェイさんとリト、両方を相手しなくてはならないと見て、変化をする事にしたようです。それが『合図』であったのか、同時に攻撃を開始する他のスコーピオンたち。いけません・・・このままでは・・・。
「ああ、ヤメタホウが良いヨ〜。」 至急存亡の秋突如、緊張感の欠片もない声が響き渡り、みしりとその場に突っ伏してしまう私。なんたって、なんたって、なんたってこの人は。 「ヒドイナァ。お人形サンは・・・・利用するダケ利用して捨テルなんて。」 というかこんな状況で突っ込ませないで下さいっ! 「貴様・・・。」 あのスコーピオンの棟梁たる朧が、リアサーラさんの姿を目の当りにした途端ものすっごく嫌そうに眉を顰めました。なんていうか、こう、恐れとかではなく生理的嫌悪の表れであるような表情です。ああ・・・確かに珍しいですからね、朧さん。ほら尻尾の色とか。脳裏に嫌な絵図が思い浮かび、私はふるふると頭を振りました。す、末恐ろしい。
「良いアングルデスよ、隊長サン。頭蓋骨貫ケル。」 心底嬉しそうにいうその姿には恐怖を覚えずにはいられませんが、前方にリト、右にはルウェイさん。そして後方にはリアサーラさん。朧が動けば、変化する前に全員が攻撃をかけるでしょう。三対一では多少卑怯な気もしますが、勝負はついたように思えました。 「劣弱なだけではないか、人間よ・・・欣快の至りだ。」 ニヤリと朧が笑って、刹那、ぞくりと私の体に悪寒が走りました。 「今度は退こう。」 そういうな否や、数メートルの高さまで飛び上がった朧は、そのまま宙で体を回転させると、壇下にいたスコーピオンの背に飛び乗りました。 「待てっ!」 今だ怒りが収まらないのか、目を血走らせてルウェイさんが朧を追いかけようとして・・・ 「り・・・リトっ!!」 咄嗟に私は必死でリトのマントを掴んでいました。瞠目する視線が、私の指先を辿る。 「っ!!」 何を狙っているのか私は把握できないまま、リトが急に疾走する姿だけが見えました。
ううん、白濁としてない。 「い、やあぁっ!!!」 悲鳴に、どれだけの人が気付いたのか、解りません。 だって、人は、再生、できないのに。 「・・・ほう、これが鍵か・・・。」 尾を再生させた朧が、何かを言っているけれど、頭に、入ってきません。 体の中から、溢れ出てくる何かを止められません。悲鳴が、阿鼻叫喚が聞こえるような気がしても、何も、考えられません。 「マリーンっ!」 不意に、視界が真っ暗になりました。息苦しい圧迫感と、体を縛る冷たい腕。その冷たさが怖くて、必死にしがみつくと首に衝撃を感じて、私の意識は闇に飲まれて行ったのでした。
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