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水姫祭では、鐘が四度なる。 「相変わらず似合ってますね。さすが天然スケコマシ。」 開式直前の控え室。関係者以外立ち入り禁止の場所に我が物顔で侵入してきた男は、ここぞとばかりに最も嫌みったらしい台詞を吐き出し、苛立だしい笑みを浮かべた。 「おやおや、苛立っていますね。」 さも心外だと言わんばかりにダカンが肩を竦めた。この野郎、苛立ちの根源がいけしゃあしゃあと。 「まぁ、自分で気付いてないようでしたら、何も言いませんが。」 妙に含みのある台詞に、眉を顰める。だが問いただす前に三度目の鐘が鳴り響き、俺は仕方なく重苦しい衣装を引き摺りながら控え室を出た。 壇上に続く扉の前では、ラメアが既に緊張した面持ちで立っていた。水姫祭の始まりを待つ民の熱気と歓声が扉越しに感じ取れる。 「緊張なさらずに。俺がついております。」 宥めるように手を取ると、ほっとラメアは顔を緩ませた。 「あら・・・キーリトス、手が冷たいわ。貴方も緊張しているの・・・?」 驚いたようなラメアの声に俺は始めて自分が緊張している事に気がついた。珍しい事もあるものだ。記憶にある限り俺は緊張しない体質なのだが。 「ふふふ、珍しい。」 確かに。・・・だが、何か、違う気がする。ピリピリと神経を刺激する大気とどうにも落ち着かない心臓。それは緊張と言うより胸騒ぎに近かった。
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「うっ・・・くっ。」 暗闇の中で覚醒した私は、周囲を見渡そうとして体が鉛のように重たい事に気づきました。 ・・・って悲観にくれている場合ではありませんっ! 「あぐあぐっ・・・むぐーっ!」 あぅあぅ、でも口を塞がれては呪文が唱えられません。それだけでなく、両手両足をも拘束されているようで。動こうにも重りがついているのか、びくともいたしません。どうやら私は今、いわゆる拉致監禁状態にあるようです。南無。って念仏唱えてどうするんですか私っ!
「・・・目が覚めたんだ。」 突如、暗闇から声がして、目の前に誰かが立ちはだかりました。いいえ、誰かなんて聞かなくても解ります。この状況で私の側にいるのは泉ちゃん以外にありえないでしょう。 「むぐぐぐ・・・。」 ふふふ、作戦成功です。実際は無意味に呻いていただけなのですが、相手が言っている事ってどうしても気になってしまうものなのですよ。好奇心と言う名の心理を利用した見事な作戦ですね。 「・・・黙らないと首へし折るよ。」 ささ、作戦失敗です。身も凍るような台詞に、思わず体が石のように硬直してしまいました。 どうやら、地底洞窟・・・のような場所なのでしょうか。メッジモークにこんな所があるなんて知りませんでした。暗く、地上よりもひんやりした大気が身を包みます。う、海蛇にとってなんて心地良い環境。一瞬ここに住みたいと願望が湧き上がってしまいました。 悩んでいると、不意に泉ちゃんが屈んで私の口から戒めを取り外しました。急に息が楽になり、軽く咳き込みながら、言動と違う行動を取った泉ちゃんを訝しげに見上げます。 「まぁ、魔法を使ってもこの大岩ごと運ぶのは無理だろうしね。」 まるで私の思考を読んだかのように、そう言うと泉ちゃんは私の向かい側に腰を下ろしたのでした。 「ここは、何処ですか。」 泉ちゃんの言葉に、嫌な予感が現実の物となりそうで、私は身を乗り出して尋ねました。 「待って下さい、泉ちゃん・・・それは、つまり・・・。」 ああ、最も恐れていた事が、現実に。 水姫祭は人にとって希望なのだと、とても大切なものだと聞きました。だからこれ以上民が不安にならないよう、なんとしても成功させなくてはならないのだと。 「だからだよ。ロータスが落ちれば王都は目と鼻の先だ。人が消えるのはもうすぐだよ。」 そんな事を言うなんて信じられません。だって泉ちゃんは好きだと行ったではありませんか。人を守りたいと言ってくれたのに、どうして。 「もう僕には好きな人間なんていない。しょせん相容れない生き物なんだよ。僕らは。」 泉ちゃんの手が乱暴に首を掴んだかと思うと、私は冷たい土の上になぎり倒されていました。 「君の言い分は甘い。甘くて甘くて、反吐が出そうだ。」 首にくいこむ爪が意識を手放してしまいそうな程痛いけれど、もっと痛いのは、泉ちゃんの憎しみに燃える瞳。 「人間は所詮、自らと違う者を受け入れたりはしない。もし僕らが攻めずとも、奴らはどんどん縄張りを拡大させていくんだ。世界を己だけのものだと勘違いして。」 刹那、心に千切れる程の痛みが走りました。 「人前に姿を見せるな。」 脳裏に木霊したのは、リトの言葉。 「本当は、あの時に殺すべきだと思っていた。」 私の首から手を離し再び向かい側に座ると、泉ちゃんが少しばかり落ち着いた声で言い放ちました。 「けれど兄さんが、君は僕らと同族だからと。」 予期していなかった台詞に、思わず瞠目する私。だってあのスコーピオンの棟梁に命を救われていたなんて、夢にも思いませんでした。 「だから、君にはここで選択肢をあげる。」 無機質な泉ちゃんの瞳が、射抜くように私を捉えます。 「僕らの仲間になるか・・・ここで死ぬか。」 それは有無を言わさぬ選択でした。 「ごめんなさい、泉ちゃん。仲間にはなれないし、死ぬ気もないです。」 はっきりと言い放つと同時に、ポンっと音を立ててその場から消え失せる私の体。 小さな体で縄からするりと抜け出すと、私は再び人の姿になり呪文を唱えました。
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