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「すまなかったのう・・・キーリトス。ラメアはちょっと我侭かもしれぬが・・・これも、お前を思うが故なのじゃ。」
「解っております、陛下。」

口ではそう言いながらも、本心は相当に疲れていた。俺は騎士だから、恋愛事には大して関心無いが、だからと言って鈍感と言う訳でもない。神の祝福を断ったのは、ラメア王女の涙の理由を解っていたからだ。周囲は残念がっているが、俺ははっきりいって祝福などと言う物に興味はなかった。勿体なかろうと不敬であろうと『どうでも良い』と言うのが本音である。

「それでのう、お前と、ラメアの結婚を延期したいんじゃ・・・神の使者は、お前を気に入って此処に残ると言っておる。お前が結婚してしまえば、神界に帰ってしまうかもしれん。」
「・・・・・・。」

俺は、絶句した。元より、水の女神の化身と謳われるラメアと俺との結婚は、国を活気付かせる為の政略でもある。延長の決断が真に国の為になるのならば、俺は異論がない。
だが、神の使者が一体なんだと言うんだ?民の苦しみも、元はと言えばその神の所為だと言うのに、気まぐれな情けを受けただけで、人間はまるで犬の様に跪かなければならないか。陛下までが、そんな神の使者とやらの為に、愛する娘を傷付けようとしている事が俺には理解できなかった。

「キーリトス、お前からラメアに言ってくれんか。わしが言っても逆効果になりそうじゃからのう・・・。」
「何故・・・何故そこまで神に拘るのですかっ!?神がなんですっ!?人間など、所詮虫けら同然としか思われていないのですよ!?」
「だが、現にわしらは救われた。」

感情的になった俺にも関わらず、陛下の声は穏やかだった。

「民の心も、既に女神様のものじゃ。お前には辛いかもしれんがの。お主が今まで民の為にしてきた事も、この上もなく尊い事じゃ・・・じゃがのう、キーリトス。例えお前が生涯この国の為に尽くしたとしても、女神様が今日なさってくれた事に勝てはしないんじゃよ。たとえ、それが指一本動かしただけだとしてものう。」

穏やかながらも陛下の言葉は確信を突いていた。俺が最も聞きたくなかった真実。だが、それを知っていながら、陛下はあえて口にしているのだろう。真実を見ろと。

「解りました・・・。」

消えないしこりの様な憤りに胸をつまされながらも、俺はやっとそれを口にした。ラメアの涙を思うと、罪悪感が沸いた。









「いやっ、嫌よっ!キーリトスっ!どうしてそんな事を言うのっ!?解ったわっ、お父様ねっ!!私、今から話してくるわっ!」

王女の寝室にて、陛下に言われた通り、結婚延期の話をした途端、ラメアは堰を切った様に泣き出した。俺とて、中途半端な気持ちで許婚となった訳ではなく、ラメアには好意を抱いている。だが、はっきり言って彼女の涙の理由は時々下らなく思えてならなかった。もちろん、それを口にする事はしないが・・・女とはそういう物なのだろう。

「いいえ、これは私の考えでもあります。女神がオアシスを与えてくれたとは言え、民の心はまだ不安定。私たちよりも、女神の使者と言う存在の方が、皆の心の支えとなりましょう。」

認めたくはないが、それは事実だ。だが、ラメアは必死に被りを振って俺の胸で泣きじゃくった。

「いやよっ!嫌っ!!ずっと、ずっと待っていたんだもの!!私、キーリトスと結婚するのっ!もう離れたくないっ!!」
「ラメア様・・・・・・。」
「大体、あんなのが、神の使者だなんて・・・民が認める筈ないわっ!スコーピオンと同じ姿じゃないっ!!」
「・・・ラメア様、気持ちは解りますが、王女として、貴方は民の事を一番に考えるべきです。」

パシン

そう言った途端、引っかくような痛みが俺の頬を走った。ラメアは、右手を押さえながら、鋭い視線で俺をにらんでいる。俺は大きくため息を吐いた。

「どうして・・・どうしていつも私ばっかり聞き分けがない様に言うの!?どうして、キーリトスはそんな平気そうな顔してるの!?いつもいつもいつも、貴方は民の事ばっかりどうして!??私は、貴方を世界で一番愛してるのっ!!貴方以外は何も要らないのにっ!!」

そういうとわっと今まで以上に激しく泣き崩れた。不味いな・・・どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。ラメアは、王女としての自覚が足りないのが玉にきずだ・・・そう思ってしまう俺を、悪友は冷血だと言う。そんな事はないつもりだが。

「申し訳ありません・・・私とて平気などではありません・・・だけど、国の為には・・・。」
「いやっ!聞きたくないわっ!国の為なんて綺麗事言わないでっ!これ以上は・・・私、この国を嫌いになってしまう・・・。」

俺の言葉をさえぎるように、ラメアは抱きついてきた。そして、泣きながら言葉を続ける。

「お願いよ、キーリトス。愛してるって言って。私だけ、愛してるって。」

密着すると、体の震えが伝わる。国王は、何故こんなむごい事を自分の娘にできるのだろう。それは、口にした俺にも言える事か・・・・。
俺は、震える体を抱きしめ返すと、ラメアの望む言葉を言った。

「愛しております。貴方だけを・・・。」

そして俺たちは必然である様に口付けを交わした。




「ねぇ、神の使者は、貴方を好きなんでしょう?」


ベットの上から俺を見上げるようにしてラミアは言った。俺は、窓辺から星を眺めながら曖昧に「そのようですね。」とだけ答えた。

「どう思ったの? 神の使者だけあって・・・見た目は悪くなかったでしょう?」

どうと言われても困る。あの髪と瞳の色には驚いたが、印象に残ったのはあのすっ飛んだ告白ぐらいだ。英雄とか呼ばれるようになってから、告白は嫌でも多く受けて来たが、女から惚れたと言われたのは初めてだった。はっきり言ってあの時は、本当に驚いた。
水の女神の使者にしては不釣合いな紅い瞳と、巻かれた長い黒の髪に、陶器のような白く整った幼い顔。人形の様な無表情さもあって、妙な艶かしさを醸し出していたのは、登場シーンだけで、神の使者と言う事も忘れ、俺は思わず笑いそうになってしまった。

「貴方の方が綺麗ですよ。」

そう言っておけば、ラメアが満足すると思った。失礼かもしれないが、どちらが美しいとか、あまり深刻に考えたくない問題だ。恋とか、愛とか、少なくとも、今日はこれ以上話したくない。

ラメアは感知してくれたのか、それ以上追及はしなかった。俺は星が無数に散らばる空を見上げた。


あの中に、神に愛された星は、どれだけあるのだろうか。


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