:4−6:


全く。どいつもこいつもここぞと面倒提起しやがって、よほど俺を過労死させたいらしい。
人影の少ない裏道を走りながら、俺は内心毒づた。
水姫祭と言えば最も盛大であり王都の象徴とも言える一大イベントだ。言い換えれば最も敵に狙われやすいイベントでもあり、警備は慎重かつ厳重に行わなければならない。幸いにも過去水姫祭がスコーピオンに襲われた前科は無いが、それを女神の加護だと信じられる様な信仰心は俺にはない。だが、前科が無い故に油断が生じやすく、それも祭りの最中となれば若い兵士などは浮かれる心を抑えられないのだ。本当に何も起きなければ大目に見ても良いのだが・・・何故か朝から胸騒ぎがしてならなかった。

最もそんな心配をしているのは俺だけのようだが。

道端で花占い始めるなーっ!!!

気がつけば路肩でトコトン体躯に似合わぬ行為に及んでいた男を力の限り摘み上げる。少し目を離した途端になんて気色の悪い事をしでかすのかこの男は。

「すまない、あまりに綺麗だった。」

綺麗ならむしり取るなよ。そしてその台詞を俺に向かって言うな気色悪いっ!
そうして内心で毒づきながら再び歩みだそうと足を踏み出した途端、何かがつま先に当たり俺は身をかがめた。

「なんだ?これは。」

妙な箱である。色石が周囲にはめ込まれており、一見の所からくり箱か・・・?

「それは・・・。」

手に持ち上げた小箱に目を留めたルウェイが、驚愕ともとれる声を漏らした。

「使者殿の、ものだ。」

ルウェイの台詞に眉を顰める。こんな物持っていたのか・・・?そんな疑惑よりも、刹那鼻をついた異臭に、背筋が凍った。目を凝らして、数歩先にある裏路地がどす黒く染められている事を発見し、悪寒が現実の物になったと知る。

「蟲の匂いがする。」

ルウェイが、強靭な視線を余計に鋭くした。マリーンは恐らく連れていかれたのだろう、確か、『泉』と名乗ったスコーピオンに。そして、この惨事からして再開は友好的なものでは無かったらしい。あの馬鹿、だから勝手に行動するなと言ったんだ。弱くは無いが見知った者と戦えるような精神の持ち主ではない。

刹那、見計らったようにロータス大都、中央神殿の鐘が鳴り響いた。式典がいよいよ始るのだ。

「ちっ。」
「戻るのか。」
「・・・ああ。」

水姫祭に出場しない訳には行かない。けれど、スコーピオンが現れたという事は奇襲があると思って間違いないだろう。

「戻るぞ、見張りを三倍に強化する。」

けれど人は、弱い、人間の戦力は弱い。どれほど警備を固めても、もし奇襲が来た場合十中八九逃げるしか術が無いのが現状だ。歯がゆさに唇をかみ締めると、刹那、背後で悲鳴が上がった。何事かと振り返れば、ルウェイが小柄な青年を締め上げているではないか。

「何やってる!?」

驚愕して駆け寄ると、ルウェイ自信困惑したように青年を降ろした。

「けほっ、こほっ・・・と、突然なんなんだっ!!」
「すまないな、行ってくれ。」

よほど苦しかったのか咳き込む青年に謝罪をする。逃げるように走り去る後姿が消えてから、俺は訝しげにルウェイを見上げた。見た目粗野だが、暴行に及ぶ事など絶対にありえない男だ。突然何が起きたのか理解できない。

「・・・蟲の匂いがした。」

ルウェイは嗅覚が優れており、本能で敵をかぎ分ける事ができる。
直感でスコーピオンの匂いをかぎつけ、対象を締め上げたのだろうが、それが普通の人間だなんて本人にも思わなかったのだろう。

「裏路地で嗅いだ匂いがまだ残っているんだろう、気にするな。」

言い放つと、納得したようにルウェイが頷く。再び鐘が鳴り、俺は急いで神殿へと駆け戻る事に専念した。



 



 

「タイチョーさん・・・オレは一生アンタを恨むよ。」

神殿にたどり着くと、リアサーラがふて腐れた様子で立っていた。

「そう怒るな、大量だったんだろう?」
「ちぇ。ヒキョーだよな。」

舌打ちするリアサーラだが、その表情で大量であった事が伺える。所詮マリーンと入れ歯を取り替えるぐらいの奴だ。丁度この季節は数少ない渡り鳥が軌道上にくる事を知っていた為リアサーラには態と一人でロータスに向かわせた。絶滅危機にある動物を珍獣コレクターの前に差し出すのは罪悪感もあるが、見事策は成功したようである。今の今まで狩猟に飛び回っていたのだろう。

「そんなにマリーンが気になるなら丁度良い、探しに行ってくれ。」

あまり頼りたくはないが、珍獣探索でこいつの右に出る者はいない。マリーンを見つけ出すのに現時点で最も適任なのはリアサーラだろう。

「へ〜、しかし良く逃げられるネ。タイチョーさんは。やっぱりオレの方が飼うのに向いテるんジャナイ?」

手短に状況を説明すると緊迫感の無いままリアサーラがにやりと口元を細めた。
そもそもあの馬鹿娘を飼っていたつもりは無いのだが、最近のリアサーラはやたら挑戦的だ。またもやうんざりしそうな理由が垣間見えていそうな気がするので、あえて突っ込まないが。

「いいからさっさと行け。」
「ハイハイ。」
「それと言っておくが見つけたら即効で戻って来い。」
「エエ〜、せっかくダカラ色々遊びたカッタノニ、コウソクプレイトカ。
命がいらんならやってみろ。

思いっきり睥睨するとやれやれとふざけた男は頭を振った。こんな正義感も責任感も皆無な奴らの肩に人類の未来がかかっているのだから、世も末だ。

「タイチョーさんは人使い洗いナァ。まぁ、イイケドネ、こんな胸糞悪イ祭リにいるよりマシだ。」

吐き捨てるような台詞に、苦笑する。仮にも最も神聖だとされる水姫祭を謗るなど、本来咎めなくてはならないのだろうが、まるで縋りつくように神へ祈りを捧げる民の姿にやるせなさを覚えるのは何もこいつだけじゃない。

「あーデモ、今回の空気ハ、なんか心地イイカモ。」

リアサーラの台詞に、思わず眉を顰める。物騒なこいつにとっての心地の良い空気ど、ろくなものではない事は火を見るよりも明らかだ。

「それじゃあ、お姫サマを助けに行きマスカ。」

けれど俺の懐疑とは裏腹、緊張感の欠片も無い声で言い放つとリアサーラの足が地を蹴った。

周囲に誰もいなくなり、そっと胸に手を当てる。
何故か酷く落ち着かない。

水姫祭は開始を告げようとしていた。


ネット小説ランキングに入っております。宜しければ投票してやって下さい。


<<...TOP...>><<...BACK...>><<...NEXT...>> <<...HOME..>>