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皆様こんにちは。マリーンです。
ただいま私は集中凝視と言う名の地味でありながらも蓄積ダメージが半端でない精神攻撃を受けております。嫌悪的なものではなく、純粋な好奇心である事がせめての救いと言う所でしょうか。

「わー、本当にスコーピオンにそっくりだ。」
「っていうか子供じゃん、子供。」
「本当にメルライナを救ったの?」
「ぶっちゃけ隊長とはどこまで行ってんの。」
「えーっ!?マジ!?隊長はロ○コンじゃないだろ!?」

ひぃっ!すみません命が惜しいので最後のお二方の台詞は聞かなかった事にして下さい。
ただでさえこんな状況に陥った事がばれたら私は終身刑かもしれないんですからねー!
ここは転移魔方を使って逃げるしかないとも思ったのですが。人前で力を使わないと約束した身分上、それを違えるのもまた恐ろしい訳で。あぅぅ・・・どっちが被害少なくて済むでしょうか。

あ、申し訳ありません。混乱のあまり説明がおろそかになってしまいました。
私はただ今、ロータス大都に向かう兵員用貨車の中におります。遠征に出かける場合、多くの騎士は自らの馬を用いるのですが、今回ロータスの水姫祭には騎士だけでなく、下士官や召使も同行する為、大所帯での移動に適した列車を用いる事になったのでした。
列車というより巨大な馬車と言った方が相応しいかもしれないこの乗り物は、五両繋がった貨車を、八頭の『パウラ』と呼ばれる犀(サイ)に似た動物に引っ張らせる事によって動く仕組みになっております。当然馬のように速く走れませんが、それでも中々のスピードで動く事ができるみたいです。

さて、それでどうして私が兵員用の貨車にいるのかと言いますと・・・これは間違えてしまったからに他なりません。だって三つの列車、合わせて同じような貨車が十五個もあるんですよ。迷うのは無理ないと思います。ちなみに私が乗るべきだったのは荷物用貨車。リトから、水桶の中にでも入っていろとのお託を頂いたので。暗くて湿っぽい所が好きな海蛇の性質を良く解ってくれているのです。

「なぁなぁ、アンタって女神様の使者なんだろ?」
「えっ!?マジでっ!?姿見た事なかったからてっきりデマかと思ってた。」
丁度メルライナ遠征に加わっていた兵士が中にいたらしく、スコーピオンと疑われなかったのは幸運だったのかもしれませんが。娯楽の無い車両の中で恰好の餌食となってしまったもようです。

「何か芸やってみせてよ。」
「水の精霊なんだろ?どばーっと水出せないの?」

精霊と芸人を混同させないでください。
そんな都合のいい事できたらこの話はとっくにジ・エンドですよ。

「す、すみません、私車両間違えたのでこれで・・・。」

尋問と好奇の視線に耐えられず逃げようとした私ですが、扉の前に割り込んで来た兵士に逃げ道を塞がれてしまいます。

「ええっ、駄目駄目。ここにいろってお前、なんか涼しいんだもん。」

そう言った若い兵士は私をひょいと抱えあげて膝に乗っけてしまいました。
そりゃあ冷血動物ですから確かに体温低いですけど、熱を移されたら私だって暑いですー。それでなくとも灼熱の炎天下、混んだ貨車の中は気を失いそうに熱いんですから。

「そうそう、俺たちといたら隊長の話聞かせてやるぜ?」
「何でも聞きなよっ。」

全世界にこの思いを宣言した覚えはないのですが。何故見知らぬ方にまでばれてしまっているのでしょう。恥ずかしすぎます。

「あ、赤くなった。可愛いーっ!」
「可愛いけど、隊長相手じゃあ報われねぇよなー。」

兵士の一人が溜息交じりに言い放つと同時に、車内が同意するように静まりかえりました。
むさ苦しく騒がれるのは困りますが、静寂も困るものが・・・。

「だって隊長って昔から姫様一筋だろ?」
「まぁね、浮気どころか、女遊びだって一切無いって言うし。」
「凄まじい理性だよな。」
「あれだけもてるのに勿体ねーよ。」
「あー、でも解る気もするっ!ラメア王女様の前じゃどんな女も霞むって!」
「出た出た。お前は本当王女ファンだねぇ。でも男なら誰でもそうか。」

自分を置いて進んで行く会話を聞きながら、私はちくちく痛み出した胸にそっと手を置きました。暑くて呼吸が苦しいです。

「王女様は有名なんですね。」
「そりゃあそうだ。なんたってこの水姫祭も、姫様を讃える祭りだからな。」

精霊らしからぬ気持ちを振り払うべく私が質問すると、答えてくれた兵士さんにつられて、全員が同意するように頷きました。確かにラメア王女さまは神秘的な水色の髪と、同じく空色の瞳。女神アスターナ様を思わせる麗しい外見をお持ちなのです。何故か人間体になると十四、五歳に見えてしまう私とは大違い。

「そもそも水姫祭ってどんなお祭りなんですか?」

どうもがいても氷枕と言わんばかりに囲まれた状態から逃げられそうに無く、私は諦めて話を聞くことにしました。

「あー、使徒様は知らないんだなぁ。この国には伝説があるんだよ。えーっと、どんな奴だっけ。」

さっそく覚えてないんですか。ぽりぽりと頭を描きながら、私を膝に乗っけていた騎士が助けを求めるように仲間を見渡すと、痩せた兵士の一人が語りだしました。

「昔、まだ人は小さな集落に住み、世界のどこにも国が存在しなかった頃。白き砂漠を旅していた男が、オアシスで美しい女性と出会うんだ。」
「はぁ・・・それでその女性は水の精霊で、オアシスから王国を築き上げたと?」
「あ、そうだ!そんな話だ。なんだ、知ってんじゃん。」

いや、まさか本当にそんな凡庸的な話だとは思わなかったんですけれど。

「それって本当の話なんですか?」

私が知る限りこの世界に降り立った精霊は私しかいないと思うのですが。他の逃亡者でしょうか。

「さぁなぁ・・・でも、王家が水色の髪と瞳を持っているのは水の精霊の血を引き継いでいるからだって噂だぜ。」

確かに精霊は属性に強く影響した外見を持って生まれてきます。だから私は全身黒い訳なんですが・・・言われてみれば王女様は水の精霊をなぞらえているかもしれません。

「それで代々水姫祭は、王女と婚約者の男が初代国王と結ばれた水の精霊を演じるんだよ。」
「演じる・・・?」
「結婚式典の真似事。」

うわぁ・・・。心臓に悪そうです。主に私の。

「真似事じゃなくて本当にやる予定だったんじゃないのか?今年は。」
「ええっ!?」

寝耳に水の話に思わず身を乗り出してしまう私。思わず心臓が飛び出しそうになってしまいましたよ。

「いや、なんでも延期になったらしいなぁ。なんでだろ?」
「さぁ。」

お互いを見渡して首を傾げる兵士の皆さんは誰も答えがないもよう。ほっと安心してしまった自分がやはり精霊らしくなくて、私は小さく悟られないように溜息を吐きました。
精霊は、愛した人の側で見守る事を幸せとするのです。それ以上は望まない生き物である筈なのに・・・私は、やはりどこか欠落しているという事なのでしょうか。

「まぁ、なんにせよ、隊長は俺たちの誇りだよな。」
「ああ、隊長が国王になったら絶対良い国になる!なんたってイグニード様の息子だしな。」

思いふけっていた私は、聞きなれない名前にぴくりと顔を上げました。

「イグニード・・・?」
「知らないのか?使徒様。前代騎士隊長で、キーリトス隊長の父親だよ。」
「伝説の人だぜ。鬼神の如き強さを持ってたとか、一人で十匹のスコーピオンをなぎり倒したとか。」

リトのお父さんがそんなに凄い人だったなんて知らなかったです。スコーピオン十匹をたった一人で相手するなんて、センチュリオンにさえできない事なのに。イグニード隊長さんの名を口にする皆さんの瞳は輝いていて、彼の雄姿ぶりを思わせました。親子揃って世界の勇者なんて、凄いです。・・・あれ?でも、リトの家に行った時はお会いしなかったような、それどころか、一度もお姿を拝見した事がないという事はひょっとして・・・。

「あ、あの、イグニード隊長さんって、今・・・。」
「数年前に、遠征中命を落としたらしいぜ。スコーピオンに囲まれて勇敢に立ち向かったけれど、多勢に無勢で、兵士が発見した時には、十体以上ものスコーピオンの躯の上に、眠るように倒れていたとか・・・。」

うーん・・・そ、それってあんまりリトと似てないんじゃ・・・。イグニード隊長さんの凄まじい武勇伝に、水を打ったような静けさになった貨車の中で、私は一人そんな事を思ってしまいました。だってリトの場合、勝ち目の無い戦いからは早々に撤退しそうですよ。それにどちらかと言えば肉体派というよりは頭脳派ですしね。そんなリトが騎士隊長になった理由は、やはりお父さんに憧れていたからなのでしょうか。いつか聞いてみましょう。それから、 リトはどうして結婚しないのでしょうか、その理由もやっぱり気になるので、聞いてみなければ。そんな事を考えながら、ゴトゴト揺れる貨車の中で私は 何時の間にやら眠りに落ちていったのでした。

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