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この世界には人と多くの生命体と、そしてスコーピオンと呼ばれる巨大な蠍型をした生物が存在しております。人にとって脅威である彼らは、貴重な水源地であるオアシスを次々に毒化し、集落を壊滅に追いやってきました。日々その対応にかけずりまわっているリトなのですが、なにぶん体躯は小さくても人間の三倍、岩石をも抉る強靭な尾は掠っただけで死に至るもの。普通の兵士では束になっても適わない相手に、戦況は思わしくありません。ちなみにこれは、あくまでも一般的なスコーピオンの特徴で、朧さんや泉ちゃんや、人型に変身できるスコーピオンは、知能も力も今だに未知数なのです。 そんなスコーピオンという強敵に対抗できる唯一の逸材というか奇才集団がセンチュリオンと呼ばれる方々なのですが・・・。皮肉な事に、どうやら自由奔放な方ばかりのようで、かろうじて働いているのが一人だけだと言うのですから、リトも大変です。 そんな世知辛い状況にあるメッジモークですが、最近の王宮は活気づいています。
ザシュッ!! きゃーっ! 突如水面を割って飛び込んできた矢を間一髪で躱し、私は慌てて噴水から飛び出しました。 「ヤァ、お人形サン。」 人型になり、周囲を見渡す私の前に、とんっとどこからとも無く着地する長髪の美人さんは、こう見えても男の人。日々色彩が変わる髪が今日は紫と青という斬新的な組み合わせ。 「挨拶代わりに人を矢で狙うのやめて下さいっ!リアサーラさんっ!」 そういう問題じゃないのですが、実はこの猟奇的な方こそ、センチュリオンの一人であるリアサーラさん。卓越した弓の使い手である事は間違いないのですが・・・。とめどなく自由に生きているので一緒にいて疲れることと言ったら。言っている事の半分は理解できませんしね。 「うう、常に死と隣り合わせの緊張感にいなければならない私の身にもなって下さい。」 無駄に苦痛を長引かせないで下さいっ! 「優しくスルカラネ。」 ぜいぜい・・・ああ、やっぱりこの人相手にしていると疲れます。 「リアサーラさん仕事しなくて良いんですか皆忙しそうですよ。」 「お前の仕事なら今できた。」 胡散臭いと思った瞬間、割り込んできた声に、私は思わず顔を輝かせて振り向きました。 「リトーっ!」 って口調が移ってますーっ!あ、危ない危ない。 「随分と仲良くなったようだな。」 訝しげに私とリアサーラさんを交互に見た後、リトが意外そうに言いました。 「ソーなんですよ。」 抱きつかないで下さい!! り、リトの笑顔が怖い。でも確かに、リアサーラさんを一人王都の警備させたら、守備どころか王宮博物館の展示物ごっそり盗まれそうですよね。 「オレ、ロータスの人間キライダシ。」 ああっ!な、なんだか取引があくどい方向にっ!こ、これってひょっとして聞いてはならぬ場面だったりするのでしょうか。知らぬが仏と言いますし身を守る為にも耳を塞いでおいた方が良いでしょうか。見ざる言わざる聞かざる・・・。 「ンー、じゃあ報酬は別にイイからお人形サン連れてってもイイ?」 突如の想像を絶する提案に、私が奇声を上げると同時に、リトも眉を吊り上げたようでした。わ、私数ヶ月前は入れ歯程の価値も無かったというのに・・・リアサーラさんの心情に一体どんな革命的変化が起きたというのでしょうか。 「駄目だ。」 リアサーラさんの台詞にぴくりと私は顔を上げました。お役に立てるのは嬉しい事なのです! 「ソレニ、お人形サンは見たいんジャナイ?水姫祭。」 リト、今あからさまに話を中断させませんでしたか。 「それで、お前は行きたいのか?」 少しでもリトの近くに居られるのは嬉しいですよ。 「まぁ・・・良いか。なら、条件がある。一つ、町に出る時は誰かと同伴する事。二つ、人前で力は使うな。」 そうではなくてリトの場合、動くな騒ぐな喋るな行動するなむしろ息するなぐらいは言われるかと思ったのですが。 「そ、それだけで良いんですか。」 大慌てで弁解をする私を無視して、リトはリアサーラさんに視線を向けました。 「それから、お前は自分の妙な鳥でも使って一人でロータスに向かえ。」 声にドスが効いてます・・・。 「エー、オレはお人形サンと一緒がイイ。」 いや、私は申し訳ありませんがあまりご一緒させて頂きたくはないのですが、そんな事よりもリアサーラさんはリトの怒気というか冷気に気がついてこんな台詞を吐いているのでしょうか。 「一緒に行かせたらロータスに向かう気ないだろうお前。」 押し黙ったリアサーラさん。ええっ!?本当なんですか、じゃあ一体何処に行くつもりなだったんですかー!? 「まぁそういう事だ。俺たちよりも速くロータスに到着できたら水姫祭の間こいつを好きにしてかまわないぞ。」 うわーん、人の事勝手に売らないで下さいーっ!どうでも良い存在かもしれないって解ってますけれどこんな扱いは酷いです。人身売買です・・・蛇ですけれど。 「それじゃあ絶対オレが勝つと思うケド?」 あうあう、わ、私の知らない所で話しが進められています。リトの提案にリアサーラさんは暫く押し黙った後何かを考えていたようですが、やがて音も無く飛び上がると城壁を飛び越えてどこかへ行ってしまいました。・・・ここ最上階なんですけれど。 「あうう。リト、いくら私でもホルマリン漬けとか標本とかになったら死んじゃうんですよ〜。」 リアサーラさんの好きにさせられたら、五体満足では帰れません。全身の皮を剥がれたり蛇の姿で解剖される己の図が脳裏に浮かび思わずさめざめと涙を流していると頭上から呆れ返ったような溜息が零れました。 「お前の思考回路が破綻しているのは今に始った事じゃないからあえて突っ込まないが。」 ひ、人が本気で傷ついているのに塩塗り付けるなんてーっ! 「心配しなくてもリアサーラが先に着く事なんて無い。」 でもリアサーラさんの鳥は速いんですよ。メッジモークの馬は砂漠を歩く為に進化を遂げた特殊な体をしていますが、それでも天空を舞う鳥には勝てないのです。だからリアサーラさんもこんな、態と勝たせるような提案を持ちかけたリトに警戒していたのだと思ったのですが。 「あいつの猛禽が通る軌道は計算してあるからな。」 はたしてこの時ほどリトが黒く見えた事はあったでしょうか。恋は盲目とは言いますが、まさしく当初白銀の騎士様と一目惚れした私はその状況だったのですね。 「まぁ、報酬はやるさ。何時もどおりにな。」 つくづくこの方たちの間に仲間意識とか、友情とかそういう単語は皆無なのだなと思い知らされた瞬間でした。 |
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