:3−6:

「閣下っ!!」
「レイムっ!」

捜索から戻ってきたらしい死神は、マリーンの姿を目にした途端、歓喜の再会と言わんばかりの凄まじい勢いで迫ってきた。しかしながらその体躯の違いと黒装束から伸びた骨ばった手がわしりとマリーンの小さな体を掴む様は、獲物に食らい付く魔物の図としか形容のしようがない。

「あ、あの、い、痛いです、た、ただいまですっ手、力抜いて下さい〜!」

みしみしと鳴る骨の音にマリーンが涙を浮かべて祈願している。そのままでは握りつぶされかねない危険性を感じ、俺は死神からマリーンの体を引き剥がした。

「し、し心配かけてごめんなさい。」

言葉とは裏腹マリーンの体制は逃げ腰である。こら、俺を盾にするな。

「閣下・・・私は・・・邪魔なのですか。」
「い、いえそういう訳ではないのですが、はい。」

怖いんだな。青ざめて震える少女と、それを閣下とし慕う長身の死神。どうにも噛みあっていない組み合わせである。

「・・・閣下、二人で話をさせていただけますでしょうか。」

元より暗く沈んだ声に更なる哀愁を漂わせて、死神が俺の背後に隠れたマリーンに祈願した。しかし、その視線は何故か俺に向けられている。空洞となっているフード越しに表情が見える訳ではないので勘だが。
マリーンは戸惑うように瞳を瞬かせた後、こくりと頷いて身長差二倍程もある男に近づいた。手を伸ばして漆黒のマントを握ると、その腕に枯れ枝のような指が絡みつく。

「わ、リト?」

考えるより速く、咄嗟に引き剥がしてしまった。腕の中で、怪訝そうに見上げるマリーンの姿に眉を顰める。しまった、視覚的に不快だった為つい引き止めてしまったが、死神としては、マリーンの手を取っただけなのだろう、この男が曲りなりにも閣下と慕う少女に危害を加えるとは思えない。

「大丈夫ですリト。ちゃんと戻ってきます!!」
「いや、別に戻ってこなくても良いんだが。」
「ぐはっ!そ、そういう突っ込みは心中に留めておいて下さい〜。」

嬉しそうな笑みを一転させて、ぐったり項垂れるマリーンは相変わらず台詞の一言一言に過剰反応する。

「閣下。」
「うわ、はいっ。今行きますっ!」

巨躯な死神の呼び声に、マリーンは慌てて移転魔方陣を広げた。
閣下と呼ばれているのだから身分はマリーンの方が上なのだろうが、丸っきり反応が下っ端である。
相変わらず小者が板についている奴だ。

やっと静かになった所で、俺は城に戻る為馬に跨った。
やれやれ、天然馬鹿かと思えばとんでもない力を秘めていたり、無駄に明るいかと思えば小心者だったり。
全くマリーンの存在は不可解で単に清算できない。一言で言えば面倒な事極まりないのだが、一度飼うと決めたものを捨てる訳にもいかないかと、諦めて溜息一つ吐いた刹那、脳裏に死神の台詞が蘇った。

閣下は逃亡者とされております。見つけられれば、狩られるでしょう

あの死神が、マリーンを狩るとは考えられない。だが、マリーンに対して執拗なまでの執着心を見せていた死神が、そう簡単に身を引くとも思えなかった。一振りでスコーピオン五体を切り裂いた情景が、脳裏に蘇り、それがマリーンの姿と重なった。

「ちっ、どこまでも面倒なっ・・・!」

行き場所に確証はないし、仮に発見できたとしても恐らく死神の方が力量は上なのだろう。冷静にそれぐらい判断できていたが、舌打ちして、馬の進行路を逆転させた。

 

 

「あれー、リト。ここで何してるんですか?」
「・・・。」

能天気にきょとんと首を傾げる姿を殴ってやりたい衝動に駆られたが、流石にそれは大人気ないと思い直し、俺は必死に溜飲を下した。

「レイムならもう帰っちゃいましたよ。」

どんな思考回路を用いて、俺があの得体の知れない死神に話があるなどと思うのだろうこのポンコツ頭は。

「お前・・・逃亡者は狩られるんじゃなかったのか?」
「えっ!!あ、・・・えーっと、そ、そうですけど。レイムに私は狩れないですよ。」
「何故だ?」
「だって私の方が強いですよ。」

知ってたんじゃないんですかそれくらい。というような表情で告げられた台詞に思わず脱力する。
忘れてた。こんな姿してコイツは一世界をも滅ぼせる力の持ち主なのだ。頭痛を感じて俺は項垂れた。

「リト、もしかして心配してきてくれたんですか?」
「気にするな。二度と心配しないから。」

心底疲れかえった声でそう言い放ち、置き去りにする気で踵をマントがくいっと引っ張られた。

「リト、有難うございます。」

振り向けば久しぶりに見る能天気な笑顔が広がっている。何度も不快感を感じた笑みに何故かその時俺は安堵していた。



ようやく第三部完了。・・・遅っ!マリーンは娘からペットに格下げか。(笑)

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