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リトの青い瞳を見てもうこれ以上嘘はつけない事を悟り、私は観念するしかありませんでした。 全てを話さなければならない時が来たのでしょう。 「わ、私・・・レイムの事、知ってました。レイムが私の事迎えにきたのだって・・・。」 レイムは私よりも数千年長く生きている死を司る精霊。家事全般を教わったのも、レイムです。 本来、精霊は自らの天職に疑問を抱く事などありません。それが生を許された理由ですから。 「・・・とこういう身の上なのですが・・・。」 積もれば200年以上に及ぶ長い身の上話を手短に纏めたつもりだったのですが、いかがでしょう。 「り、リト・・・?」 がくり。決死の覚悟で話した過去話なのに。感慨の欠片も無い返答をされ、私は思わすその場に突っ伏してしまいました。しくしく・・・確かに段取りとか色々すっとばして説明しましたけど、それはリトが忙しいだろうなと思ってした事ですのに。 「え、えーっと・・・それで、隠してたのは、私が逃亡者と呼ばれる精霊である事と、水の力ではなくって闇の力を持っているという事です。」 リトの問いを聞いた途端、体の中が空洞になってしまうような錯覚に襲われました。希望の欠片がすべて零れ落ちて、立てなくなりそうで。それでもこれ以上嘘はつけなくて私はぎくしゃくと頷きました。 「私、リトの言う事は聞くって約束しました・・・だから、リトがこの力を使えというなら・・・その通りにします。」 結局私が任務を果たせなかった所為で一つの世界を滅ぼす事となってしまったのです。 リトの瞳を正視できなくて、俯いたままそう述べた後、私は返事を待ちました。後はリトに委ねるしかありません。 ガッツン!! 「〜〜〜〜!!??」 す、すみません、今、目の前。本当に火花が散りました。 「い、いたいです〜!」 野郎呼ばわりされたあげく容赦ない力でどつかれ、痛む頭を抑えながら恨めしげにリトを見やれば、どうやらかなりご立腹の様子。うっ、怖いです。周囲にアスターナ様顔負けの冷気を漂わせています。痛いのは私なのに、困っているのは私の筈なのに何故ですか、この理不尽な扱いは。 「自分が下せない決断を人に任せようとするな。そういうのは他力本願って言うんだ。」 ぐっさり。リトの台詞に、心臓を剣でばっさり切られたような痛みが走りました。 「なら俺がスコーピオンを滅ぼせと言えば、お前はその通りにするのか。泣く泣く被害者のふりをして、自責の念を他人になすりつければ、さぞかし楽だろうな。」 ざくざくざく。し、心臓がミンチにされております。何か言わなければと言葉を探すけれど、あまりの痛みに何か喋れば涙が零れてしまいそうで、俯いてリトから視線を逸らしました。 そんなつもりではなかったのです。私、少しもそんな事考えてませんでした・・・なんて言い訳、本当に愚かすぎて言葉にできません。私の台詞は、まさにリトが非難する通り、背負いきれない自分の荷物を人の肩に預けようとする事なのですから。私が下したくない決断は、リトだって嫌に決まってますのに、それを勝手に推測して・・・最低です。ああぁ・・・もう私はリトに顔向けできません!
自責の泥沼に溺れそうになっていると、不意にぐっと体を引っ張り上げられました。 「お前な、都合が悪くなるとすぐ逃げようとする癖なんとかしろ。」 瞳を見開いた私に、リトが無言で地上に視線を逸らす。そこに広がっていたのは転移魔法用の魔方陣。どうやら無意識の内に魔力を展開してしまったもようです。信じられないように魔方陣を見つめる私の耳にリトの溜息が聞こえました。 「動物的本能か?」 否定できない所が悲しいですが、どうしてか『精霊』を避けて通っているような。 「まぁ、なんでも良いが。」 そういう台詞が一番傷つきます・・・。しくしく。 「お前はどうしたいんだ?」 リトに捕まったまま問いかけられ、私は体を硬直させました。 「私・・・私・・・。」 まずいです、また涙が出そうです。 「私・・・嫌です、嫌ですっ・・・こんな力二度と使いたくありませんっ!」 言い放った途端、涙腺は限界だったみたいで、私は慌てて両手で瞳を覆いました。た、楽しい事。楽しい事を考えなければ。 「なら最初からそう言えば良かっただろう。」 あっけらかんと、脱力するほどあっさり述べられた台詞に私はきっと間抜けな顔でリトを見たのでしょう。呆れ返った眼差しを胡乱に細めて、リトは小言体制に突入したもようです。 「大体お前はやることなすこと全く非能率的極まりない。」 ぐっさり 「大方行方不明中もうじうじ実りのない事ばかり悩んでいたんだろう。挙句の果てには珍獣コレクターに捕まるなんて、笑い話だな。いっその事剥製にでもなるか?」 あうあうあう。 「俺の言う事は聞くとか尤もらしい事を言っていたが、そもそも外出禁止令を全く無視しているだろう、お前は。」 ま、全くもってその通りで閉口せざるを得ません。 「す・・・すみません・・・。」 リトの逆鱗にさながら蛇に睨まれた蛙のごとく・・・って、蛇は私なのですが、縮こまっていると今日何度目ともしれない疲労困憊とした溜息が吐き出されました。 「余計な気を回させるな。」 よっぽど情けない表情をしていたのでしょうか。ぽむぽむと子供をあやすようなしぐさで頭を撫でられました。 「・・・。」 堰切って溢れ出した涙はいくら瞬きしても、両手で拭っても増えていくばかりで。止め処ない涙に私がパニックに陥りかけた次の瞬間、強い力で引き寄せられて、思考が停止しました。
「都合が悪くなったら逃げる癖直せって言ったばかりだろう。」 どうやらまた、無意識の内に転移魔方陣を展開していたようです。けれど叱咤するような台詞とは裏腹に、リトの声に厳しさは全くなくて・・・いや、それよりも、あの。わ、私、引き止められたのは解るのですが、こ、これは傍から見れば抱きしめられているのではないでしょうか。わわわわ、ど、どうしましょう良いのですか。けれど、口にしてしまったらリトが腕を解いてしまうような気がして。きっと偶然で瞬きのうちに消えてしまう夢だからと、私はそっとリトにしがみついたのでした。
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