:3−4:

地獄か冥界か知らないが、突如マリーンを尋ねて死神がやってきてから、三日が経とうとした。
その間、相変わらず俺は死神にとり憑かれており、マリーンはあれ以来帰ってきていない。
水分さえあれば生きられるらしいから大丈夫だとは思うが。
ギラギラ照りつける太陽を見上げる。・・・まさかうっかり干からびてたりしないだろうな。
まぁ、場所に応じて生態も変えられる上、自己再生可能なゾンビ並にしぶとい体質を持っているのだ。大丈夫だろう。禿鷹が一羽、頭上を通り過ぎた。爪に獲物らしき小動物を捕まえている。
・・・食われても再生できるのか。あいつは。

「隊長・・・隊長!!」
「ああ、なんだ。」
「いかがなさいました、上の空でしたが。」
「・・・行方不明のペットの心配を。」
「はて、隊長何か飼っておいででしたか。」
「・・・比喩だ。気にするな。」

オルドスとそんな会話をし、俺は内心溜息ついた。
そろそろ探しに行った方が良いのだろうが、何分時間が無い。これでも王国騎士団隊長、日々激務に追われる身なのだ。最近はスコーピオンが再び活性化し始め、その対処に駆けずり回る日々だ。

『私がご助力しますが。』
『いや、良い。』

そろそろ慣れてきた脳裏に響く声に、俺も脳内で返答する。この対応に違和感を感じなくなっている事実が空恐ろしい。あれ以来死神の力を借りる事を避けている。・・・意地とかではなく、人外の力に頼るのは人の怠慢に繋がると判断した為だ。

オルドスが戦場報告をして立ち去ると、影から男が姿を現した。周囲の人間に姿は見えないと解ってはいるが、ならば俺にも見えないようにして欲しい。大体この世界の人間は黒を纏ったりしないのだ。そういえばマリーンも黒ばかり着ているが、この直射日光にあてられて熱くないのだろうか。

 

「貴方は、閣下を探しにいかれないのですか。」
「時間がないし、手がかりもない。」

いくらあいつの脳が短絡的だと言ってもこの状況下、人か大蛇の姿で行動したりしないだろう。とすれば直系十センチ足らずの蛇を全世界から探し出す事など、まず不可能だ。どの蛇かすら解らん。

「冷たい方ですね。」
「お前が帰れば案外現れるんじゃないのか?」
「・・・それでは意味がありません。」

頑固な奴だな。

「解りました・・・私が探してまいります。近くまで気配を探れますから。それでは。」

そう言って男は周囲の影に溶けた。どうやらマリーンのような瞬間移動はできないらしい。ようやく一人になり、俺は大きく息を吐き出した。

「タイチョー!!」

そうして肩の荷を降ろした一秒後。俺の静寂はすぐさま奪われた。染め直したのか、今日は紫と水色の髪を揺らして、リアサーラが興奮気味に駆け寄ってくる。最近黒一色を見慣れていた為色彩のコントラストが目に痛い。

「ついに捕獲しましたヨー!!」

珍獣コレクションなどに興味は無いのだが、これでもリアサーラは今の所唯一働いてくれるセンチュリオンな為、無碍(むげ)に扱えなく、俺は投げやりな視線を差し出された籠に向けて、硬直した。

「鱗の色がめずらしい〜って思って捕まえたんですけど。」

鱗なのか。よりにもよって。

 

「なんと!!しゃべる蛇なんデスヨーーー!!」

・・・。

「タイチョーも驚いてコトバも出ないんですね!!」
「いや、呆れと疲労が限界を超えて言葉を失っただけだ。」

睨みつけてやると籠の中の蛇がびくりと震えた。この迂闊間抜け天然蛇娘が。

「これ、放せ。リアサーラ。」
「ええーー嫌デスヨ〜、せっかく捕まえたのに。」
「良いから放せ。でないとこの間王宮博物館からくすねたホルマリン漬け五百年期物、初代国王の入れ歯を没収するぞ。」

何故そんな物がはなから博物館に飾られているのかは聞かないでもらいたい。俺が一番知りたいのだから。そんな金を払っても触りたくないもの、盗む奴の気はもっと知れないが、リアサーラには効いたらしく、舌打ちすると名残惜しそうに籠を差し出した。ようするにこいつはリアサーラにとって入れ歯程の価値もないと言う事である。

「しかし、タイチョーが蛇好きだったなんて、知らなかったデスヨ。」
「心配するな、心底嫌悪しているから。」

びくびくびく。籠の中の蛇が面白い程に震えたのが解る。これくらいの罰は丁度良いだろう。

「ちぇー、こんな事にナルんなら、次カラはもータイチョーには見せてアゲナイですよ。」

有難い事だ。膨れっ面で踵を返したリアサーラを見送った後、籠の中に蹲る蛇を見下ろした。
直径10cm。やはりどう考えても見つかる筈はない。これを発見できたリアサーラには感謝しなければならないのか。

「最初に言っておくが、逃げようなどと思うなよ。」

ガクガクガク。
確かに言葉が通じていると確信し、檻の扉を開いてやるとするりと蛇は籠から抜け出した。
そして砂地で一回転した後、ポンっと音を立てて人の姿を形成する。

何時もと同じ黒いふわふわとしたドレスを纏い、マリーンはきゅっと震える手でドレスを握り締めていた。叱られる事を待つ子供のように、顔を俯かせ、その赤い瞳は今にも涙が溢れそうな程に潤んでいる。

・・・少し苛めすぎたか。

子供の姿をと言うのは、どうも罪悪感を煽るからたちが悪い。
一瞬、異常な程に心苦しくなったではないか。

 

「で?お前は、何か俺に言うことあるだろう。」
「・・・うっ。」

マリーンが言葉につまり、涙を堪えるように瞳を幾度も瞬かせた。だから、別に苛めている訳ではないのだからそんな反応するな。気分は不肖の娘を教育する父親といった所か。

「レイムから聞いたのですか・・・。」

小動物の如く震える姿に罪悪感がじわりと心の中に滲み出る。・・・が、これくらいで甘やかしていたら子供は育たない。暫く試行錯誤していたマリーンは、やがて諦めたように溜息を吐いた。

 

 


リト、今回父親っぽい。(笑)

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