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砂丘に辿りついた時、俺は瞳を見開いた。黄金の砂地の上に拙く積み上げられた無数の石塊。不恰好ながらも墓標を意識したのだろう聳え立つ碑石の中に、マリーンはちょこんと座っていた。

ただじっとスコーピオンの残骸を埋葬した段丘を見つめるように、背後から表情は読み取れない。
祈りを捧げているのか、それとも―――。
微動だにしない小さな背に、一瞬躊躇ってから俺は声をかけた。



「マリーン。」


途端、砂地に座り込んでいた体が盛大にびくりと震えた。あまりの驚きようにこっちがびっくりしたぐらいだ。やましい事でもしていたのかお前はと呆れた矢先、姿を現したのは複雑な文様の描かれた光の輪・・・・何度も見た事のある、あれは―――。



「逃がすか!」
「えっ!?きゃぁぁぁっ!!」


咄嗟に駆け出し、俺はマリーンの腕を捕まえた。まさか魔方陣に入ってくるとは思わなかったのだろう、マリーンが素っ頓狂な声を上げる。半透明なものを掴んでいると言うのはなんとも不思議な感覚だ。目の前でマリーンの輪郭が揺れ、次の瞬間、高所から落ちる様な激しい眩暈が襲った。

 



「・・・・・うっ。」


ドサリッと自分の体から発せられた鈍い音に俺は思わず呻きを上げた。


「り、リト、大丈夫ですか!?」
「な、なんなんだ・・・これは・・・。」


胸焼けがして気持ち悪い。吐きたい気分だ。


「ちょ、ちょっと酔ってしまったんだと思います。」
「・・・酒を飲んだ覚えはない。」
「い、いえ、そうではなくて、すみません、私がテレポート失敗してしまった所為です〜っ!!
で、でもリトだっていけないんですよっ。突然魔方陣に突然飛び込んだりするからっ!異空間に落とされても文句は言えないんですからねっ!!」

「逃げようとする方が悪い。」
「そ、それは・・・。」

項垂れたり憤慨したり、一通り百面相を終えると、マリーンは盛大に溜息を吐いた。
嘆息したいのはこっちだと言いかけ、出掛かった台詞が消える。

「リト?」

怪訝そうに首を傾げたマリーンの瞳は、何時もと変わらない色彩を湛えていた。
透き通った紅玉のような紅・・・。けれど気がつかない訳がない。
無視した方が良いのか、警戒に近い迷いが心中を過る。だが、気がつけばその赤みが差した丸い頬を指の甲で拭っていた。

「!!??」

途端、さながら湯が沸騰するような勢いで飛びのいたかと思うと、マリーンがあたふたと両手で瞳を覆い隠した。

「え、えーっとですねこ、こここれは違うのですよっ!断じてっ!ええ、もうなんと申しますかお恥かしいながら砂嵐に巻き込まれてしまいまして。
そしたらばもう砂が眼に入ったものですからいくら蛇と言えど痛みには耐えられなくこう生物的護身本能から涙腺が緩んでしまったと申しますか。」

「・・・・・落ち着け。」

息継ぎすら忘れ、支離滅裂になりながら苦しい逃げ口上を述べるマリーンにこれ以上は窒息しかねないと思い制止をかける。

「砂嵐に巻き込まれたわりには身だしなみが偉く整っているな。」

そしてなんだかんだ言いつつも揚足を取ってしまうのは性分なのだが。

「そ、それは、精霊の仕様ですっ!!」
「砂嵐の報告は一切受けていないが?」
「て、天気予報は外れる時だってありますっ!」
「・・・・意外に頑固だなお前。」

呆れたように溜息を吐くと、マリーンはうっと呻いて俯いた。頬がこれでもかと言う程に紅潮している。まぁ、自分でも嘘見え見えだと解っていたのだろうな。

「・・・・罪悪感を感じてるのか?」

俺の台詞に、マリンは瞳を何度か瞬かせた後ゆるゆると頭を振った。

「・・・怖いだけです。」

私は、精霊ですから。とマリーンは告げた。

 

「リトは・・・・・・・・・人を殺した事はありますか?」

いきなりとんでもなく深刻な質問になったな。
たじろいだ俺に、マリーンの眼差しは真剣な眼差しを向けてくる。
曖昧な返事は許されないような、強い視線だ。

「・・・・・ああ。」

しばらくの沈黙の後、俺は頷いた。残念ながら、魔物だけが敵である訳じゃない。
魔は、人の中にも潜む物。仕事上、人を切らねばならない事も抗いよう無くあった。

「リトは、痛くないですか?怖くないですか?私は、とても怖いです。命を背負う事が怖いです。だから、謝っていたのは、自分の為です。」

それから不釣合いな程大人びた笑みを浮べて、マリーンは言った。

「リト・・・・私、やっぱり帰りますね。」

余りにも呆気なく放たれた言葉の意味を、一瞬把握できなかった。
マリーンが帰る場所、だが、それは・・・・。

「・・・・追い出されたんじゃなかったのか、お前。」
「う”っ!痛い所突っ込まないで下さい。」

最もな質問だったと思うのだが、マリーンは罰が悪そうに俯いた。どうやら図星だったらしい、だったら何故突然帰るとか言い出したのか。

「でも、私・・・・・もう、ここにいたって役に立たないですから。」
「前から役に立ってないだろう。」
「うわーん!もう、本当の事でも言わないで下さい〜〜!!」

本当の事を言ったまでなのだが、マリーンは頬を膨らませると、子供のような仕草で憤慨した。

「そういう意味じゃなくって私、えと・・・先日の、スコーピオンの戦いにて力を使い果たしてしまったのです・・・。ですから、・・・もうあの様な事はできないんです・・・。」

 

口早に説明すると、マリーンはしゅんと項垂れた。
確かに、スコーピオンとの戦いでマリーンが発揮した力は人域を遥かに超えるものであった。
その力を利用できれば、長きに渡るスコーピオンの脅威からも開放されるかもしれない。

「・・・良いんじゃないのか?別に。」
「・・・・・・・・へ?」

俺の台詞に、マリーンはしばし沈黙の後、思いっきり呆けた顔で間抜けな声を漏らした。

「別に良いと言ったんだ。最初からお前の力なんか期待してない。」
「うっ・・・それはそれで悲しいのですが。」

心境複雑そうに大きく溜息を吐いて、マリーンは不安げな眼差しを俺に向けた。

「じゃあ、私・・・・まだ、ここに居ても良いのですか?」
「そういう台詞は居座る前に聞け。」

今まで散々傍目も憚らずはた迷惑な台詞と言動で振り回しておきながら、一体何を今更。
皮肉を込めて言ったのだが、全く通じたのか、通じていても通用はしてないのか。
マリーンは幾たびか瞬きをした後、泣き出しそうな笑みを浮かべた。









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