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メルライナの奇襲から数日が経った。敵は討ち果たしたものの、水源を絶たれた集落は移住せざるを得なくなり、俺はその収拾に駆け回っていた。小規模な集落だったとは言え全住民を王都に受け入れる事はできない。周囲の市町村を駆け回り少しずつ振り分けて行くしかないのだ。 まぁ、その他に私的弁解などにも徒労させられたのだが。 ・・・・詳細は説明させないでくれ。火の無い所に煙は立たぬ。今回の事は、百歩譲って俺が撒いた種と言えなくも無いだろう。とにかく聞くな尋ねるな。説明する気は全くない。 「ごしゅじんさまーーーーーーーっ!!」 渡り廊下を歩いていた俺は背後から呼び止められ・・・というより襟元を無理やり引きずられて振り向かされた。俺の事をこう呼ぶ人間は一人しかいないし、ここまで主人に不遜な態度をとる使用人も世に一人だけであろう我が家の老メイド、イールモーザである。何故彼女がここに居るのかと言えば、メルライナで倒れたマリーンの世話を俺が申し付けたからだ。自宅に運ぶには色々と立場上リスクが大きい。かと言ってマリーンの生態を知りつつ、普通に世話ができそうな人間は前科のあるイールしか思いつかなかったのである。 「ど、どうした?イール。」 ぎゅうぎゅうと締め付ける手からなんとか逃れて俺はなるべく平静と尋ねた。 「マリーンさんの目が覚めたのですよっ!!良かったですねご主人様っ!!」 返された安直な答えに満足できなかったのか、イールが眉間の皴を寄せた。とは言っても元から皴だらけの顔では余り変化も見れなかったのだが、数秒経たぬ内に何か思いついたらしく、相槌を打つと、何時もの怪しげな笑みを浮かべた。ああ・・・妄想してる。また妄想してるなこれは。
頬を染めながら何時鍛えたんだと問いたくなる力でばしばし叩いてくるイールに無駄とは解りつつも思わず突っ込みを入れる。 「ではでは、私は去りますから、速く様子を見に行ってあげて下さいなっ!!」 興奮のあまり過去に封印した呼び名まで出てくる始末だ。余りの恐ろしさに何を妄想しているのか聞きたくもないが、俺は特に刺激を与えないようそっとその場を後にした。 マリーンの部屋は、第三棟の最上階にある。他の棟の影になってしまっている為、日当たりが悪く滅多に人の通らない陰湿な部屋だ。人徳保護の為に弁解しておくが、その部屋を選んだのはマリーン自身である。なんでも暗くてじめじめした場所が好きらしい。爬虫類特有の性質だろう。バルコニーから見える大樹の影に隠れた窓をちらりと見上げ、俺は踵を返した。 私情を取り除いて、追求しなければならない真実がある。 望むべき答えと、望んでいる答えが。相応しくない気がする。 ◆ 「キーリトス様っ!ようこそいらっしゃいました・・・。」 数日前から幾度も聞いている同じ台詞に相槌を打ちながら俺はメルライナを巡回していた。既に大部分が移住してしまったメルライナには寂れた雰囲気が充満しており、最後まで残っている店も観光鳥が鳴いている。声を掛けてくるのは未だ良心のある方。水の毒化を防げなかったと、家族を守ってくれなかったと、遠くから罵倒する者たちも当然いた。否定する気もない、実際オアシスを・・・民を守れなかったのは、俺の責だ。
マリーンの立場は地の底まで落ちていると言っても過言では無いのだ。 「・・・・似合わないな。」 アレを祭るなんて世紀の恥だ。むしろアレが祭られる性質か。 「何が似合わないんデスカ?タイチョー。」 何気なく呟いた独り言にあり得ない突っ込みが入り、俺は眉を潜めて振り返った。
してやったりと言うばかりに稀代の弓使いであるセンチュリオンは白い歯を見せた。 「警備の状況はどうなんだ?」 余計な事を聞くなと言うばかりに業務の話を切り出した俺だが、それこそ待ってましたとばかりにリアサーラは瞳を輝かせた。 「得にいじょーナシですよ。ああ、スコーピオンもどきを見かけたぐらいデスカネ。」 なんとも中途半端な語彙に眉間の皺が深まる。 「タイチョーがスコーピオンじゃないって言ったんじゃないデスか。」 激しく突っ込みを入れたい形容だが、その特徴に遠からずも当てはまる奴は記憶の中で一人基一匹しか存在せず。俺は静かに眉間に手を当てた。 「何時。」
「解った。引き続き警備を頼む。」 踵を返した俺の背に、リアサーラが珍しく助言を投げかける。 |
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