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『逃亡者』 まさかこの世界(ここ)でも、その名で呼ばれるとは。 ぎゅっと拳を握り締め、震えてしまう体に耐えながら私はスコーピオンの棟梁を見据えました。汝『も』と彼は言いました。と言う事は、彼もまた『逃亡者』という事になります。裏切り者であり、背徳者の称号。だとすれば虚無の空間から槍を取り出した『魔術』も、再生能力も説明がつきます。そして、私と同じ姿。今なら、説明がつく・・・彼はきっと。
困惑したリトの声が耳に届いていながら、私は瞳を見る事ができずに聞こえない振りをしました。 「難解な。逃亡者が何故再び人に党与する。」 無感情である筈のスコーピオンの声が軽蔑を含んだ様にすら聞こえました。 「リト・・・・・。」 だけど、戦わなければならないなら、境界線のどちら側かに居なくてはならないなら、私はリトと一緒に居たいです。 うえーんっ、どうしましょう。大好きですーーーっ!! 「・・・・理解した。」 えっ!?はっ!?な、何がですかっ!? 「・・・・ならば、滅するか、抗う事だ。その姿、無力ではあるまい?」 ぎちぎちと、数百の燃え盛る灯火でねめつけながら、巨大な蠍となったスコーピオンの長は言い放ちました。 「転移魔法は?」 私を背後に押しやり、リトは訪ねました。 「・・・・・っ、駄目です。さっき、使い果たしてしまいました。」 気を集中させようと試みてから、私は頭を振ります。 「解った。」 こんな状況だと言うのに、リトは冷静に答えると、周囲を見渡しました。恐らく、リアサーラさんを探しているのでしょう。 「図体が邪魔だ。小さくなれ。」 叫ぶと同時に再び黒い鉄柱が身を掠めました。 ずきりと、また心臓に巻きついた鎖が引っ張られたようで、私は痛みに顔を顰めました。
『逃亡者』には嘘が付きまとうと、その格言は本当ですね。 「ごめんなさい、リト。」 人間一人ぐらいなら、なんとかなるかもしれません。私は呪文を唱えました。、瞬く間に、この世界には存在しない神域の呪文を描いた魔方陣が私たちの周囲に姿を現す。時空を超えて、飛んでいける。逃亡の術。 「お前、何を!?」 初めて出合った時と同じ様に、リトの姿が薄れて行きます。ああ、いけません。見ないようにしなくては。また翻弄されてしまうです。集中集中。 「行き先は、宿屋ですからね。」 ようやく私の意図に気がついたのか、リトが手を伸ばしますがそれよりも速く距離をとり、私は呪文を完結させました。魔道の光が消え、その場から完全に『人』の存在が無くなる。 「うぇ・・・。」 や、やっぱり気持ち悪いです。魔力の使いすぎ。あ、頭が痛い。 「己が身を捧げたか。健気な事だ。」 スコーピオンが怒気の燻る瞳で私を見下ろし、唇をゆがませました。確かに、魔力は残ってません。でも。 「そんなもの、要りません。」
群がる巨大な蟲たちを見上げて宣く。これに蛇の姿で対抗したら見た目も凄惨な死闘となるのでしょうね。
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飛ばされた先は大変な事になっていた。 「スコーピオンが何故人を助けるのです!?」 取り敢えず最後の愚か者だけは沈めておいて、俺は舌打ちした。あの馬鹿、魔力も残っていない状態で一人残るなど、正気沙汰とは思えない。自己犠牲のつもりか・・・ふざけるな。 『大丈夫ですよ〜。』 何を根拠にそんな事を言ったのかは解らないが、その笑みは虚勢でない事を物語っていた。 『ごめんなさい、リト。』 あんな顔で謝られる理由が解らない。あいつの場合、何もかも解らない事だらけだが。 息苦しい。耳鳴りがする。体に異変は無い筈なのに、手足が重くなり、目的があるにも係わらず進む意志が奪われていくような・・・。何が起こっているんだ?焦りを塗り替えて行く、倦怠感・・・虚無感。それらが混ざり合い現れる絶望の色合い。 惑溺させんばかりの勢いで嵩を増す負の感情に、己の喉を掻き切ってしまいたくなる。
「・・・っ!」 激痛が手先から迸り心臓を鷲掴みにする。骨は避けた筈だが痛い事には変わりない。・・・そういえば、腹を貫かれたわりには威勢が良かったがあいつも普通に痛みを感じるのだろうか。痛覚により少しは霧が晴れた頭を振って俺は立ち上がった。適当に血止めをして再び走り出す。先ほどまでの重苦しい空気は、徐々に晴れてきている。だが、本能は反して嫌な予感を感じていた。
瓦礫の山と化した死骸の中、それを雲でも眺めるような眼差しで見上げる小さな体があった。黒に近い色となった泥濘の中、周囲の色に溶け込むようにぽつりと佇む少女の姿。 「マリーンっ!!」 名を呼ぶと、マリーンは怠慢な動きで首を傾けた。歩み寄った俺を、うつろな眼差し見つめた後、ゆっくりとうっすら赤くなっている頬に手を当てる。 「叩かれて、しまいました。」 藪から棒に何を。誰にだ。などと尋ねるより先に赤い双眸から光が失われる。眠りに落ちるように力を失い、崩れ落ちる身を不可抗力で抱き止め、
何故かその瞬間、相変わらず重みの無い体だとそんな暢気な事だけを思った。 |
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